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アップルも採用か?Wi-Fiよりも超爆速な通信技術「Li-Fi」って知ってる?

2016年07月11日 23時00分更新

文●Brian Sebele

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アップルが次期iPhoneで対応するとのウワサもある次世代通信技術「Li-Fi」。LEDライトを使って通信するって、いったいどういうこと?

「Light Fidelity(以降、Li-Fi)」は、無線LAN通信の技術としては比較的新しく、光信号を使ってデータを通信します。Li-FiはWi-Fiよりもスピードが速いことが確認され、注目の的となっています。ある研究所の実験では、224Gbpsを達成しました。研究所と同じ環境にしたエストニア共和国の工場で実験をした結果は、1Gbpsの通信速度でした。

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ボストン大学&サイエンス・アラートより

Li-Fiが世界に紹介されたのは、ハラルド・ハース教授が出演した2011年のTED Talkでのことです。教授が望んでいたのは世界中にある電球を無線LANルーターに変えることでした。TED Talkのあと、2012年に教授は、Li-Fi機器を開発する企業pureLiFiを設立、Li-Fiの製品開発の主任を務めました。また、Li-Fi情報の共有と技術革新のためにLi-Fiコンソーシアムも設立されました。Li-Fiコンソーシアムは、民間NPO団体で、どのような組織団体でも技術認可、技術提携、無料での会員登録ができます。

あらゆる照明器具にとりつけられる小さなマイクロチップだけで、照明と無線LANデータ通信という2つの基本機能が照明器具にもたらされます。将来的には世界中の140億個の電球を140億個のLi-Fi装置として使うことで、よりクリーンで環境にもやさしい未来に貢献できるかもしれません。

ハラルド・ハース、2011年TED Talkにて

ハラルド・ハース教授は、光スペクトルを使ったデータ通信ができるLi-Fiを光学無線LAN通信の一形態として使用できる、と立証しました。Li-Fiは、可視光線の赤外線波と紫外線波を使ってデータ通信をします。赤外線と紫外線は無線周波よりも多くの情報を通信できる光スペクトルを持っています。これが、Li-FiがWi-Fiよりも速度で上回れる理由です。

現在、Li-Fi技術は発光ダイオード(LED)を使ったデータ通信に焦点を置いています。LEDはエネルギー効率がよく環境への負担も少ないのに加え、寿命が長いこともあって世界中で大人気となりました。家庭やオフィスにも設置されているLEDを、なんと無線LANルーターに変えられるのです。LED電球の光源は半導体なので、LED照明に常時供給されている電気をより明るく、または暗くできます。

可視光通信(VLC)を使うと、LED電球内の電流のオン・オフを高速で切り替えられます。1と0で通信する複雑なモールス信号を想像してみてください。この切り替えは人間の目がとらえられないほど高速なので、人体や動物の健康に影響を与えません。LEDは消灯されたあとも人間の目では認識できない暗い光を点灯しています。その程度の光源でも信号はできるので、LED電灯の電源を切っても通信可能です。Li-Fi接続に必要なのは、光信号を検知・解読する装置を搭載した機器だけです。

一方、無線周波を使用するWi-Fiの通信容量は限られており、容量はすぐに限度に達してしまいます。通信容量に制限があるため、無線周波数帯はアメリカでは厳しい規制の対象になっています。これに対し、Li-Fiは可視光線を使うという大きなメリットがあります。可視光線で通信できる光スペクトルは無線周波よりも1万倍多い情報を扱えるので、規制の対象にもなりません。そのため、光スペクトルを使うのに認可がいらないのです。

Li-Fiのもう1つの注目要素は、高周波ではなく光スペクトルを使う点です。光スペクトルを使うと電磁波妨害が起こらないので、Li-Fiは電磁波の影響を受けやすい場所での使用に向いています。電磁波妨害は鉱山近くの通信に影響を与えたり、病院などの精密機器に損傷を与えたりする場合があります。

Li-Fiのしくみ

Li-Fiは、信号処理技術が組み込まれたLED電球にデータが流れます。LED電球は高い不可視速度でデータを感光装置に送ります。送られたデータは受信機によって解釈されて電気信号に変換され、(私たちがいつも消費しているWebコンテンツである)バイナリデータに変換されます。LEDの光はネットワーク化されているので、複数のユーザーが1つのLED光を使ってデータにアクセスできます。また、1つのLED光源から別のLED光源へ通信を途切れることなく切り替えられます。

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pureLiFiより

ハラルド・ハース教授は当初から日常生活でも使える無線LAN技術の開発を目指していました。しかし、普段の生活を大幅に変えてしまうような技術にはコストがかかり、とても難解なため、避けたいというのが教授の考えでした。pureLiFiやLi-Fiコンソーシアムのような考え方なら、私たちの生活にも比較的簡単になじめます。さらに、pureLiFiは「LiFi-X」という家庭向けのソリューションを発表しています。家庭にあるLED電球に接続できるレンガ大のモジュールを購入すれば、小さなUSB機器を通じてノートパソコンやデスクトップパソコンなどのデバイスでデータが受信できます。設定もとても簡単です。

pureLiFi

pureLiFiより

Li-Fiの通信速度はWi-Fiよりも高速ですが、接続範囲が狭いという問題があります。光源から離れるほど速度も低下します。しかし、壁などから反射する光を使うことでLi-Fiは平均70MBpsの速度を確保できるので、常にLED光源の真下にいる必要はありません。Wi-Fiと異なるのは、Li-Fiは光源を使うため壁を透過できないことです。壁を透過できないためLi-Fiの接続範囲は狭まるものの、安全性の観点からはメリットと言えます。Li-Fiにアクセスできるユーザーを制限できるからです。Li-Fiが持つ「セキュリティ」という特徴は、技術系企業や防衛企業からの注目を浴びています。

Li-Fiの通信速度の速さ、接続範囲の狭さといった特徴は、セル方式(3Gや4Gなど)通信やWi-Fi通信に並ぶ新たな接続方法のオプションの1つとなりそうです。なぜなら、Li-Fiはセル方式通信やWi-Fi通信の「通信渋滞」を緩和できるからです。たとえば、ショッピングモールやスポーツスタジアムなどでも、多くの人が同時に動画やライブストリーミングなどの巨大コンテンツにアクセスできます。Li-Fiネットワークを使うユーザーが増えれば、そのエリアのセル方式通信やWi-Fi通信の通信容量に空きができます。なぜなら、アップリンクの通信量はあまりないからです(ネットワークの制限理由は主にダウンリンク)。世界初の街灯にLi-Fiを導入する都市として、すでにドバイが計画をしているのでLi-Fi技術が魅力的な技術として大々的に取り入れられる日も近いでしょう。Li-Fi用ランプのコストは1個1000ドルと言われています。

モノのインターネット化(IoT)に対し多くの専門家が、「あらゆるデータを処理するための通信容量をどうするのか」という議論を重ねてきました。Li-Fiはそれに対し、実行可能で効率的、そして安全な解決策であることが分かっています。家庭やオフィス、そして工場で、公共の通信容量に悪い影響を与えることなく、独自の大容量ネットワークをLi-Fiで得られるようになるのです。

(原文:Li-Fi: Lighting the Future of Wireless Networks

[翻訳:加藤由佳]
[編集:Livit

UPDATE:VLCについての説明を一部修正しました。(2016/07/13)

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