エンタープライズITの闇をかいま見るディープな課題共有
AWS運用に耐えうるIT部門は作れる?情シス支部の議論をのぞく
2016年07月05日 08時30分更新
6月16日、JAWS-UG情シス支部は目黒にあるアマゾン ウェブ サービス ジャパンのオフィスで第3回となる議論会を開催した。エンタープライズ企業の情シス担当者が集まったディープな議論にみなさんをお招きする。
AWSの運用に情シスは実現できるのか?
JAWS-UGの情シス支部は名前の通りユーザー企業の情シスが集うJAWS-UGの専門支部。セッションやLTメインの支部とはやや形態が異なり、情シス担当者や社内SE、コンサルティング、システム子会社のSEなどがそれそれお題を持ち込み、社内でのAWS導入をいかに促進させるかを議論するという形式で進むのが情シス支部の特徴となっている。
今回のお題は、とあるエンタープライズ企業の情シス子会社(以下、A社)の担当者から持ち込まれた「AWSの運用に耐えうる情シス体制の作り方」だ。
親会社のシステム開発をメインにしているA社だが、ご多分に漏れず、社内はアプリケーション開発・運用とインフラの構築・運用などの部隊に別れており、それぞれのスキルセットが限定されていたという課題があった。また、インフラの変更やこれに関わる部署間の調整も大変で、仕様やスケジュールの策定が困難を極めていたという。さらにオンプレの場合、コスト面で事業部門から反発をくらうことも多く、低廉なインフラが必要になっているとのことだ。
そんな中、3年前にマーケティング本部からの依頼でデータ分析システムを構築することになったA社のアプリ部隊。外部のSIerにAWSでのシステム構築を依頼しつつ、インフラの運用をアプリ運用部隊が担当することになった。「なぜアプリ部隊が運用することになったかというと、まずインフラ部隊が多忙。本流はオンプレからプライベートクラウドへの移行なので、なかなかAWS移行を手伝ってくれない」(A社担当者)というのが実態で請け負ったが、結果的に他部門にまたがらないシステムができたため、制約のない運用や高い拡張性、メンバーのモチベーション向上を実現できたという。
とはいえ、本業ではないアプリ運用部隊がインフラを見るのはきつかった。「インフラの基礎知識が欠如しているので、OSの設定がきちんとできなかったり、アプリケーションの設定の最適化が大変だった。たまたまインフラに詳しい人がいたので、九死に一生を得た状態」とA社担当者は吐露する。現状はシステム規模がまだ小さいためなんとかなっているが、今後AWSの利用が拡大すると問題は顕在化する。こうした問題点に対して、他社はどのようにやっているかというのが、今回のお題。「AWSのシステム規模増大にともなって、どのような体制を構築しているのか? スピード感をどう生かしているのか?などがポイント」(A社担当者)。
そもそもAWSの運用を何人くらいでやっているか?
まずはAWSの運用をどれくらいの規模でやっているか? エンタープライズの参加者が多いだけにけっこうな人数でやっているかと思いきや、クラウド導入のフェーズにあわせてかなり異なっているようだ。参加者の意見は以下のとおり。
- 「先日まで兼任で1人だった。ようやくAWSチームができた」
- 「インフラチームの中にAWS担当者がいた」
- 「IT部門は大きいけど、AWS担当は●●さんだけ」
- 「基幹系やOA系と同じようにAWSも見ている」
- 「機能だけ使うので、AWS専任を置いてないところも多いのでは?」
総じて、AWSの運用は非常に少ない人数で回しているのが実態。これはIT部門の人数が多いエンタープライズの企業でも同じようだ。AWS未導入の担当者が発した「AWSの運用担当者が病気になってしまったらどうするんでしょう?」という疑問に対して、AWS導入済みの参加者からは「大変です……」という答えが挙がり、自社で運用すると属人的な問題はなかなか解消できないという事態が見受けられた。
一方で、AWSの場合は自動化という選択肢もある。遠隔でゲスト参加したロードバランスすだちくん(cloudpack 齊藤 愼仁)によると、「うちは100近いインスタンスが動いているけど、誰も運用していない。cloudpackはAWSのプロフェッショナルなので、運用は一切やらないというところまで来ている」と断言。「cloudpackのようなAWSパートナーからノウハウを買ったり、いっしょに学んでもらうのが正解への近道」とアピールした。
AWSとオンプレのギャップは埋めにくい?
次のテーマは、オンプレをメインにやっていたIT部門がスムースにクラウドに移行できるのか? ここでは、スキル獲得は可能という答えのほか、クラウド以前の問題として、IT部門の組織体制やエンジニアのスキルセットが課題が挙がった。
- 「私も3年前はオンプレ。1年くらいがっつりやれば大丈夫だと思う」
- 「開発部と運用部の中にさらに班ができてしまって技術が細分化している」
- 「内製化もまだ10%行ってない。クラウドの前にやることが山積み(笑)」
AWSを扱えるエンジニアを育てようにも、規模の大きいIT部門では技術的なサイロができてしまい、なかなか難しいというのが実態。反面、外からリクルーティングしようとしても、「エンジニアの有効求人倍率は7倍。職種によっては10倍」(JAWS-UG青木由佳さん)という現状で、こちらもなかなか難しいようだ。
AWS導入を機に運用を外部に移す?
ここから派生して、AWSを機に運用を外部に移すという選択はありか?というテーマも議題に挙がった。これに対しては、以下のような意見が挙がった。
- 「情シス子会社だと運用を外に任せるという発想がない」
- 「IT会社じゃないので、オンプレ時代からベンダーにおんぶにだっこ」
- 「もともと自社運用を目指していない。以前と同じく外部にお願いする」
内部での運用が当たり前のユーザー企業の場合、そもそも外部に委託するという頭がない。一方、外部依存率が高い場合、オンプレか、クラウドかを問わず、自社運用をやらないという現状があるようだ。
エンタープライズITの闇をかいま見るような情シス支部のディスカッション。どの課題も明確な答えが出るわけではないが、議題を共有し、前進していこうという点だけでも解答の糸口がありそうな気がする。情シス支部では、定期的にディスカッションを進めているので、興味のある人はのぞいてみてはいかがだろうか?
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