【3】「アプリ」を開かず「アプリ」を使う
iOS 10では「通知」の機能が拡大される。リッチ化、という言い方をされているが、ビデオを見たりスケジュールを書き込んだりUberの移動状況を見たりと、今までならアプリを開かねばならなかったことが、通知画面のままできるようになっている。
「ならホームに行ってアプリを開けよ」と思われそうだが、そうではないのだ。
今、スマートフォンの使い方はどんどん保守化している。アプリをダウンロードする数も減り、日常的に使うアプリはSNS・メッセージング・ゲームなど、特定のものになってきている。そうすると、新しいアプリやサービスを作る人々は、なかなかそこに割り込めなくなっている。アプリエコノミーの限界がきているのだ。
だが、通知やSiriによる音声UIなどを介することになれば、話は別だ。開いて使うのは「定番」だけでも、それ以外のアプリは「アプリを開く」という行為を伴わずに使ってもらうこともできるからだ。
スマートフォンの使い方を変える流れでもあるため、決して簡単な道のりではない。しかし、デベロッパーの利益を守り、iOSの上に構築されたエコノミーを拡大するには、「アプリをダウンロードして開いてもらう」ところから脱する必要がある。
【4】それでも軸は「守り」である
これらの野心的な取り組みが行われているものの、アップルがWWDCで示した姿勢の軸は「守り」であることに変わりはない。
アップルの強みはiOS機器のインストールベースであり、その上に成立するプラットフォームである。要は「アップルの傘の下でソフトウェアビジネスをすることは、まだまだ有利ですよ」とアップルは言いたいのだ。
既存のiPhoneの使い方を壊すことも、Macの使い方を壊すこともしない。Apple WatchやApple TVといったプラットフォームは新しい取り組みだが、iPhoneの利用者が多いことを強みとしている存在だ。アップルは、「これからはホニャララであり、スマートフォンの時代が終わる」と言える立場にはなく、他社はそれをアピールして追いかけることがプラスになる。
その保守性が、人々を「つまらない」と感じさせた理由だろう。
だが、アップルはハードとソフトの連携で戦ってきた会社であり、今回は「ソフト」の話しかしていない。秋に新OSが動く「新しいハードウェア」をどう提示するのかが気になる。人々の目はOSやサービスよりもハードウェアに向かいやすい。効果的に驚きを演出するなら、ハードを発表する「秋」こそが好機だ。そこで単純に「守り」の体制では幻滅されるだろう。
アップルが「ハードを売って儲けて、ソフトとサービスでそこから離れられなくする会社」であると定義するならば、これを受けて秋に何を言うかが、今後の同社のあり方を決める。そういう意味では、今年から来年にかけてがアップルの未来を占う上での正念場だ、と筆者は考えている。