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検索キーワードを見てもユーザーインテントはわからない

2016年01月26日 13時42分更新

記事提供:SEMリサーチ

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スマートフォンで単に「内科」と検索しても自動的に近所の内科医を表示したり、東京ディズニーランドの入口の写真をアップロードするだけでディズニーランドと特定したり(Reverse image search、画像を使用して検索する機能)、サンフランシスコの空港に到着するとその場所の天気やおすすめ観光スポットを表示したり、あるいは帰宅時間になると電車の時刻表が自動的に表示されたりといった具合に、ユーザーが明示的にクエリとして文字列を入れなくても、現在時間や現在地、そのユーザー特有の属性情報を自動的に取得して適切な検索結果や情報が表示されるようになっています。

一昔前の検索エンジンは、自分が欲しい情報を手に入れるためにはできるだけ具体的に、限定的にキーワードを選んで入力しなければいけませんでしたが、今日は検索エンジン(Google)が自動的に明示されないインテントを読み取り、検索結果を表示するようになってきています。こうした変化を今一度おさらいするとともに、それが検索マーケティングにどんな影響があるのか考えてみましょう。


明示的なクエリ(文字列)と暗黙的なクエリ(文脈)がユーザーインテントを定義する

「ひま」という文字列から本当のユーザーニーズはわからない

「ひま」という1つの検索クエリから、ユーザーの本当のニーズ(クエリの意図)を理解することは容易なことではありません。言語化された「ひま」という文字から推定して、時間をつぶしたいであろうことは何となく想像できますが、”このユーザー”に表示すると良い関連性のある検索結果を想像することは難しいでしょう。

しかし、たとえば「品川駅の改札前」で「スマートフォンから」検索しているという文脈があれば、もしかしたら数分程度の時間をつぶせるような読み物や簡易なスマホゲームアプリが検索結果に表示されれば満足するのかもしれません。あるいは「日曜日の」「朝10時に」「どこかの自宅で」という文脈で検索しているのであれば、一人でも半日つぶせるようなスポットを紹介するような検索結果を表示したほうが良いのかもしれません。


クエリ以外の文脈を活用して適切な検索結果を表示する検索エンジン

Google キーワードプランナーやキーワードウォッチャーから取り出せるキーワード情報から、こうしたクエリの背後にある文脈や表現されていない情報を読み取る術は、私たちにはありません。しかし Google や Bing は、こうしたクエリとして表出されていない、背景や文脈を汲み取り、一人ひとりのユーザーに適した検索結果を表示するようになってきています。

いくつかの例を挙げてみましょう。

  1. 位置情報:5年前(2010年)は、たとえば、ある地点から別の地点に移動するための経路や時間を知りたい場合、その地点を具体的にクエリで入力しなければ適切な検索結果を得ることはできませんでした。たとえば、いま八王子のどこかにいて、自宅の溜池山王まで帰りたければ、「八王子駅から溜池山王駅」といった具合に最寄りの駅と、行き先をクエリで明確に指定する必要がありました。

    しかし現在は、たとえば「ここから職場まで」「ここから自宅まで電車で」というクエリでも Google はパーソナルで適切な検索結果を表示することができます。Google にとって、このクエリを処理するうえでの課題は (1) ユーザー”ここ”と指定している場所と、(2) ”自宅”や”職場”の場所を把握することです。Google Now は GPS や携帯基地局などから得た現在地情報と、過去の移動履歴情報から”ここ”と”自宅”あるいは”職場”を特定してクエリを修正し、検索結果を表示しているのです。

  2. 移動手段:また、ユーザーの移動手段(車/電車/自転車/徒歩)も把握することで、ユーザーがクエリで明示しなくとも適切な手段を表示するようになっています。昨年、私は講義撮影の関係で御茶ノ水まで何度か足を運んだのですが、御茶ノ水駅から溜池山王駅(職場)の距離なら平気で歩きます(徒歩約60分)。初めて溜池山王から御茶ノ水に行こうとした時に私のモバイル端末の Google Now は電車での行き方を表示してくれましたが、2,3度徒歩で往復したら、移行は電車ではなく徒歩ルートを表示するようになりました。同区間で私が利用する移動手段を把握したことで、わざわざクエリで「徒歩」と明示されていなくとも文脈を読み取った結果です。

  3. 会話型検索:たとえば「北米の旅行ガイド」と検索した後に、続けて「美術館を表示して」と検索したとします。この時、クエリは2つ「アメリカの旅行ガイド」「美術館を表示して」ありますが、後者の「美術館」とは直前のクエリとの関係から”アメリカの美術館”と推定することが妥当です。

    ここで重要なことは、クエリ「美術館を表示して」のインテントを考えるときに、その検索がどのような場面の、どのような一連の検索行動の中で生まれた1つのクエリであるかを考慮しなければならないということです。

  4. 世の中の話題やニュース:同じクエリでも世間の話題やニュース、出来事がクエリのインテントを規定することがあります。たとえば(2016年1月26日時点)「春季キャンプ 場所」と検索するユーザーは、2016年2月から始まる日本プロ野球各球団が春季キャンプをどこで行うのかを知りたいに違いありません。2015年の開催場所や、春季キャンプの起源や歴史を知りたいわけではないでしょう。クエリ「ベッキー LINE」も少なくとも現在はLINE公式アカウントを探したいのではなくて別の意味で探していることでしょう。このように、現実世界で起きている出来事は、同じ文字列のクエリインテントに影響を与えますし、表示すべき検索結果も変わります。

  5. 検索直前に閲覧していた/表示している情報:たとえば音楽楽器の一覧を表示していて「ピッコロ」と検索したら、このユーザーのインテントはドラゴンボールのピッコロではなくて楽器のピッコロのことを指しているでしょう。SEO の記事を読んでいて「ハミングバード」と検索したユーザーは、ハチドリやバンドのハミングバードではなくて、自然言語処理のハミングバードのことを調べていると解釈する方が適切でしょう。このように、ユーザーが直前に閲覧していた、あるいは表示している情報も、その直後に行われる検索クエリのインテント把握や検索結果に影響します。


ユーザーの検索シーンや文脈を想像して検索意図を探る

検索エンジン各社が検索サービスの暗号化をしたことにより、ウェブ解析などで参照キーワード(keyword referrer)を取得できなくなりました。しかし今日の検索マーケティングにおいては『キーワードを見るのではなくてインテントを考えろ』という考え方が主流になってきていますので(私も同意見)、リファラ情報が見えなくても困りません(見えるに越したことはないのですが)。

リファラ情報が見えなくても困らないというのは、ここまで例示しながら述べてきた通り、『検索窓に入力された文字列以外の、そのユーザーの背景や文脈を考えなければ真のユーザーインテントは理解できない』時代になっていますし、実際に Google に代表されるように、『その文脈や背景、過去に蓄積された情報を踏まえて(同じクエリ=文字列に対して)異なる検索結果を表示するようになってきている』以上、そもそもキーワードが見える・見えないは些細な問題になってきているという検索技術の変化を捉えておくことが本質的に大切なことなのです。

たとえば、クエリ「フレッツ光 比較」という文字列をとっても、そのユーザーの所在地が東日本なのか西日本なのかによって、ここで表出している”比較”という言葉のインテントの解釈と、用意すべき”比較”の対象情報は異なるはずです。

同様に「MR04LN 違い」※1というインテントに対して準備すべき回答(情報)と、「E5372s-32 違い」※2というインテントに対して準備すべき回答は、同じではありません。確かに言語化された文字列を見る限り、特定のモバイルルーターの機種名と、(おそらく仕様の)違いを尋ねている、類似性の高いクエリにしか見えませんが、実際のユーザーの探索行動を理解すると、おそらく前者は旧機種(MR03LN)との変更点について言及すれば問題ないかもしれませんが、後者の場合は(新旧問わず)全世界で現在入手可能なあらゆる同社のモバイルルーターの仕様比較表を細かく掲載したうえで、それを調べているユーザーの居住地あるいは旅行先を想定したページを編集した方が適切かもしれません※3。

※1 NECのモバイルルーター
※2 ファーウェイのモバイルルーター
※3 ちょこっと検索していただくとわかりますが、違いがよくわからない類似機種が大量に存在します

大量のクエリを、1つ1つ単独でとらえるのではなくて、そのクエリの直前、直後に検索されたであろう事柄、あるいはその検索を行った背景、シーンまで踏まえて考えていくことで、完璧ではなくともインテントをより適切に、マーケティングのアクションに落とせる程度に理解することができるかもしれません。

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