解散したMidoriプロジェクトがMicrosoftに残したもの
Singularityの成果を活かしつつ、商用向けの製品開発に向けてスタートしたのが「Midori」ということになる。Singularityに比べて不明な部分が多いが、チームメンバーだったDuffy氏は2009年に同プロジェクトに参画しており、その後同氏を含むチームメンバーの次のMicrosoft内での行き先が決まる2012~2014年まで、Midoriは比較的活発に活動していたようだ。
Jo Foley氏が11月10日に掲載した記事によれば、同プロジェクトの中核の1人だったとみられるChris Brumme氏が2015年にMicrosoftを離れてGoogleに移籍しており、おそらくMidoriは2014~2015年の時点で事実上解散していたと考えられる。
実際に、Midoriの研究や開発がどこまで進んでいて、どのような理由や経緯で解散していったのかはわかっていない。事実、Duffy氏自身が「Midoriがどのように消えていったのか、我々の間で知る者はいない」と述べており、メンバーが少しずつ消えていった2012年以降にMicrosoft上層部の政治判断が入り、徐々にフェードアウトしていったのではないかと考えられる。Singularityがスタートした2003年からMicrosoftやIT業界を取り巻く事情は大きく変化しており、プロジェクトの見直しが入っても不思議ではない。
ふたつの大きな後悔は、OSS化と論文提出をしなかったこと
ただ、これだけの大プロジェクトがほとんど成果も認識されずに人知れず消えていくのは非常にもったいないという気持ちもある。現在Microsoftで異なるプロジェクトに参加しているDuffy氏は、Midori時代にできなかったふたつの大きな後悔を挙げている。
ひとつは「プロジェクト初期からOSS(オープンソース化)を進めなかった」ことで、もうひとつは「論文を積極的に出してこなかった」ことだ。同氏によれば、インターネットの世界でプロジェクトや成果が評価されるのはOSSや論文の形式であり、秘密裏にスタートして秘密のまま消えていったプロジェクトでは、ほとんど評価を得られないと述べている。
そこで、その成果の一部を紹介すべく始めたのが冒頭にも出てきた同氏のBlogエントリということになる。原稿執筆時点で、同氏のBlogにはすでに3本の研究成果に関するエントリが掲載されており、今後も不定期に投稿していく予定だという。
また、Midoriは何も実現できずに消えていったわけではない。同氏はMidori内でIDEやツール、並列実行モデル、コアフレームワーク、コンパイラ、言語といった開発者向けの環境整備のチームを率いていたという。
当然、この成果はチームが解散しても各人が研究成果をもって次の配属先での研究開発に活かしているわけで、おそらくは現行のWindowsや関連製品のほか、将来登場する製品や技術に応用されていくと思われる。今後、完成品としてのMidoriが直接日の目を見ることはないだろうが、元チームメンバーらによって違う形で成果が紹介されたり、あるいは当時の証言が語られることになるかもしれない。