ほんの数メートル前で歌ってくれているような近さ
個々の曲についてより詳しく紹介していこう。
『IL regalo』は、第1弾の音源でも収録したみくりあクワイアによる、女声アンサンブル。従来同様、港区の教会で収録しており、クリスマスを意識した楽曲を選択している。中央にソプラノ・左にメゾソプラノ・右にアルトをそれぞれ1名ずつがステージに立ち歌う声を演奏しているが、その立ち位置の描き分けが極めて秀逸だ。そしてより近く感じる。自分自身のマイキングの精度が上がってきというのは冒頭のコメントの通り、「位相感がピタリと合い、いい感じに録音できるようになってきた」という手ごたえを感じる仕上がりだ。
合唱曲は聞く位置でかなり感じ方が異なる。例えばホールの後方で聞くと、音が混じりホール全体の音をを聞くことになる。パートごとの分離は感じにくくなる。今回の録音ではマイクを演奏者から2~3mとかなり近い位置に置いているそうだ。これが各パートの位置関係がより明確になる要因となっている。ステレオ版では中央のチャンネルの場所の取り合いになるため、
楽器単体とそのあとからくる響きの描き分けが明確に
次に『Sound of the Sky』。植草ひろみのチェロ、早川りさこのハープによるデュオ。足立区のわたなべ音楽堂での演奏をワンポイントマイクで収録している。木造で造られた円錐形のホールで、木の柔らかで上質な残響が特徴だという。
サラウンド再生した音源を聞くと、楽器から直接出ている音を聞いているというよりは、ホールという空間の広がりを一層意識する。特にチェロの広がりがすごい。ステレオ版でも包容感を感じさせるが、サラウンドになると音が面で押し寄せてくるような感覚になる。驚いたのは演奏者のいる位置よりさらに奥、向こう側の壁から音が反射して前に飛んでくる感覚まで味わえた点だ。
そう感じる理由は、ぐるりと囲んだスピーカーの各チャンネルの音がよりスムーズにつながるためだろう。個々の楽器の音ではなく、楽器から発せられた音がホール全体に広がり、その響きを聴いているという印象を新たにする。毎回驚かされるHD Impressionのサラウンド音源だが、今回もまた新しい体験をさせてくれたように思う。
「目の前で弾いた演奏で感動できるのは、それだけの情報量があるということ。録音をすると、その場にあったはずのいろいろなものが欠落してしまうのだけれど、こうやってサラウンドで録音して、再生するとその瑞々しさを残すことができる」と阿部さんも話していた。考えてみれば、人間は生演奏で楽器の音だけを聴くことはできない。必ず反響や残響とセットになる。サラウンドになればそれがよりリアルになるのは当然のことなのかもしれない。