2016年に始まる電力自由化には、すでに762社以上が参入する見込み(特定規模電気事業者連絡先一覧)だ。約7兆円と言われる電力市場を狙い、通信やガス会社がセット売りで攻勢をかける。東急やパナソニックがどんなサービスを提供するのかにも注目が集まる。
ソフトウェアサービス業の米Zuora(ズオラ)も、電力市場に熱い視線を送る1社だ。ただし、ズオラの狙いは新規参入の電力会社。電気料金の算出や請求処理のクラウド型のサブスクリプション用ソリューションを電力会社に売り込もうと、9月1日に日本法人を設立した。すでに数社が採用を決めており、早期に5~10億円の売上高を達成したいという。
2007年に米カリフォルニア州に設立されたズオラは、会計情報等を統合的に管理するERP(Enterprise Resource Planning)、顧客情報を管理するCRM(Customer Relationship Management)をAPI経由で統合し、顧客ごとにカスタマイズされたサービスの利用料金を従量制で算出し、請求から分析までの機能を提供するサービスの専業企業。創業者のティエン・ツォCEOはセールスフォース・ドットコムの11番目の社員で、「サブスクリプション経済」の誕生と成長を目の当たりにしたという。
確かに、パッケージ製品として販売されていた映画も音楽もPhotoshopも、最近は月額制に移行しつつある。しかし、電気料金は以前から従量制の月額払い。「クラウドサービス」という概念は当初、「これからのITは電気や水道のように、使った分だけ支払うようになる」と言われていた。「日本進出の第1号案件が電力会社向け」という発表には、拍子抜けの印象がある。
ツォCEOは「サブスクリプションは月払いのことではない」と断言する。「サブスクリプションの本質は顧客との関係だ。携帯電話で起きたことが分かりやすい。フォックスコンに依頼すれば、どんな電話でも数か月か数週間、ひょっとすると1日で競合の模倣製品が作れる。だが、顧客との関係は絶対に模倣できない。アップルもアマゾンもネットフリックスも、顧客の好みを知っている。完全にパーソナライズしたサービスを提供すれば、デザインや機能を模倣されても、顧客を奪われることはない」
電気料金は今までも従量制の月払いだった。しかし、支払うのは電気の使用料であって、たとえば電話やガス代と組み合わせたサービス全体の利用料ではない。たとえば、電気とガスをセット販売するブリティッシュガスは、料金プランを次々に改訂し、顧客のニーズに寄り添い、大成功している。「700社以上ある電力会社のすべてが、自前の課金システムを作れるわけではない。クラウド型で大規模な投資を必要とせず、さまざまなサービスを組み合わせたプランを用意できるズオラのソリューションは魅力的なはずだ」(米Zuoraの宇陀栄次日本担当エグゼクティブ・アドバイザー)
「月払い」には、同じサービスをずっと支払い続ける印象があるが、ツォCEOは「サブスクリプション・ビジネスはデータの分析と継続的な改良が重要だ」という。自由化された電力市場では、たとえば「明日から3日間、電気自動車の夜間充電が30%OFF」のようなサービスが提供されるかもしれない。顧客生涯価値の最大化を旨とするサブスクリプション・ビジネスの台頭が、サービス産業の質を高めるだろう。