Appleが9月9日(現地時間)、大方の予想どおり「iPhone 6s」「iPhone 6s Plus」を発表した。新製品の特徴や機能はさておき、気になったのが、新たに導入するアップグレードプログラムだ。月額料金を払うことで毎年新しいiPhoneのSIMフリー版を手に入れることができるというもの。これがモバイル業界にとって何を意味するのか考えてみたい。
1年後に最新のiPhoneに交換できるUpgrade Program
AppleがiPhone 6s/iPhone 6s Plusとともに導入するアップグレードプログラムが「iPhone Upgrade Program」だ。iPhone 6sの16GB版の場合、月額32.41ドル(約3900円)を2年間払う契約により、1年が経過すると最新のiPhoneと交換してくれるというものだ。交換にはiPhone 6sの返却が条件となることから、料金を払ってリースしていると考えるのがわかりやすい。
iPhone Upgrade ProgramはApple Storeでのみの発売となり、Appleの保証プログラム「Apple Care+」がつく。ネットワークは申し込み時にどのキャリアを選ぶかを決められる。提供が決定しているのは米国であり、Verizon/AT&T/T-Mobile USA/Sprintの主要キャリアがそろって参加している。
月に32ドル払うと新しいiPhoneにアップグレードできる――こう聞くと一瞬安く感じるかもしれないが、それほどでもない。32.41ドルの24ヵ月分は約777ドルとなるが、同機種のSIMフリー版は649ドル、Apple Care+は129ドル、合わせると778ドル。ほぼ同じだ。
それでも、iPhoneユーザーの多くがiPhoneをずっと使い続けるユーザーであることを考えると、負荷を少なくしてアップグレードできるというプログラムはそれなりに訴求力がありそうだ。
スマホもネットワークもコモディティーの時代
このアップグレードプログラムは、スマホのコモディティ化を象徴しているように見える。スマートフォンが目新しくなくなり、買い替えのサイクルが長くなっている。米国では買い替えサイクルが2010年に18.2ヵ月だったが、現在では26.3ヵ月。おなじ端末を使い続けるユーザーに対し、気軽に新しい機能を使ってもらい、「Apple Pay」などの新しいサービスの普及にもつなげていこうというAppleの狙いが見え隠れする。
もちろん、iPhoneでの囲い込みも可能となり、iPhoneの売上台数も数字の上で大きく改善することが期待される。Financial Timesによると、10%のiPhoneユーザーがこのアップグレードプログラムを利用した場合、2017年にiPhoneの出荷台数は650万台増加するという予想があるという。
もう一つ象徴していると感じるのが、キャリア(通信事業者)のコモディティー化……世によく言うパイプ化だ。現在のスマートフォンブーム以前のキャリアショップに行って端末を買う(キャリアを選択したのちに端末を選択する)というパターンから、iPhone登場時はしばらく、iPhoneを買うためにキャリアを選ぶという形に消費者のマインドセットを変えてしまった。今回のアップグレードプログラムでは、さらに消費者とキャリアの間を遠ざけてしまうことになる。
(次ページでは、「キャリアにとっては悪い話なのか?」)
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