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CEOの肖像

インターネット広告の勝者フリークアウトが抱く、世界進出より大きな野望

2014年10月27日 07時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)/大江戸スタートアップ

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 2010年創業、4年目にしてマザーズ上場。今年度の通期業績予測は売上高にして31億4000万円、前年度の21億6200万円から45%の成長を見込んでいる。

 急成長を遂げたフリークアウトはインターネット広告の草分けだ。広告主および広告代理店が使う広告枠の自動買付システム事業(DSP)に国内で初参入し、トップシェアを獲得。広告主がオンラインメディアから広告枠を買いつける流れをシステムで自動化・効率化している。

 サービス開始から1年あまりで月商1億円を超えたというフリークアウト。インターネット広告技術の進化とともに成長し、海外展開も進めるが、代表取締役の本田 謙CEOは次の目線を「屋外広告・交通広告・テレビCM」など、パソコンやスマートフォンの外側に定める。


SEOの専門家、ビジネスの世界へ

 本田CEOがインターネットの世界に興味を持ったのは大学生時代。ウェブブラウザー黎明期「モザイク」の時代から業界動向を眺めるのが趣味だったが、最も興味を引かれたのは2000年代、グーグルの検索上位に表示されるためのウェブマーケティング「SEO対策」が始まったとき。

 「グーグルのSEOをおさえればヤフーでもグーグルでも上位になれる。それが非常に興味深く、ビジネスに直結することも分かった」

 SEOやアフィリエイト広告についてのニュースサイトを公開したり、SEO効果を調べるためのツールを作って無料公開したりするうち、インターネット広告の専門家に。リストを作って「おすすめ」と書くだけで1件あたり数百円の広告収入が流れ込んでくる、マーケティングの効果に圧倒された。


先行者利益で成長、トップランナーに

 2005年にインターネット広告ベンチャー・ブレイナーを創業し、2008年ヤフーに売却した。フリークアウトは2社目だが、広告技術の専門家としてのビジョンは共通している。

 「インターネットが現われ、広告やマーケティングの世界でテクノロジーが圧倒的な力を持とうとしている。そこに注力すれば、今年より翌年は影響力が強まるし、ビジネスの成功点としては良くなるはずだ。そう考え、大局的に正しいだろうという時分に、正しいことをし続けている」

 ビジョンは明確でも苦労はあった。最も難しかったのは初期の営業だ。

 広告代理店がいわば自分たちの手と口でまかなってきた広告取引をいきなり自動化するには抵抗がある。技術的に導入が難しいという壁もあり、当初は会社を訪れて営業しながら、企業ごとにシステムを使うための通信仕様を作るなどサポートに回り、地道に取引件数を増やしていった。

 国内広告大手が手を出さなかったのは、初期投資に対する売上が見合わないというジレンマがあったためだ。一方、ひとたび儲かると分かれば企業は集まってくる。規模の大きなプラットホームほど強くなるため、取引件数そのものが参入障壁になる。「先行者利益は非常に大きい」


米国勢寄せつけず、アジア市場開拓

 広告技術では先行していた米大手も、日本国内では相手にならない。広告技術はトレンドこそあるものの、技術だけで優位が決まることはほぼないためだ。顧客の規模をいかに拡大できるか、中間事業者をいかに細かく取り込んでいけるかの勝負になる。

 「(米大手は)日本のちょっとしたアドネットワーク(複数の広告枠を束ねたネットワーク)までつながっているわけではなく、ただグーグルにつながっているだけ。さして脅威ではなかった」と本田CEOは余裕を見せる。外資大手が日本でフリークアウトの上に立つことは「まずありえない」。

 昨年10月からはシンガポールに子会社を構え、アジア展開も進めている。現地法人の運営で心がけているのは「日本の仕組みを輸出しないこと」。米大手が日本で成功しなかったように、地元のニーズを組んだサービスをゼロから作らなければ勝ち目はないと考える。

 たとえばインドネシアでは人口の数パーセントしかクレジットカードを持っておらず、広告のクリック先も商品購入ページではなくフェイスブックのファンページ。国単位で通信網が整備されてもビジネスが追いついておらず、欧米のプレーヤーはほぼ皆無。だが、アジア市場をゼロから開拓できるのはチャンスではないかと見る。

 「北米のプレーヤーが入ってこられないからこそ面白い。アジアならではの進化のステップを作れば、米国勢から見たときの参入障壁になる」


ネットの外にも事業を拡大

 上場で目指すのは海外展開だけではない。インターネット広告のやり方で、テレビ・ラジオ、電車の中吊り、オーロラビジョンのような屋外広告など、あらゆる広告の仕組みを変えたいと意気込む。

 インターネット広告はパソコンやスマートフォンの利用データによって、誰がどう広告を見て買ったかが分かる。同じ仕組みを全てのマーケティングに応用し、効果を管理できるようにしたい。

 「理想はブランドと消費者のひとつひとつのコミュニケーションに対し、単一のプラットホームで何が起きているかをとらえられる仕組み」

 インターネットの中と外をつなげる。その一環としてアップルの無線通信技術アイビーコン(iBeacon)と、自社プラットホームの接続を始めた。店に小型の専用端末を置き、スマートフォンに広告を打つ仕組みだ。国内のアイビーコン広告はまだキャンペーン企画など実験段階のマーケティングがほとんどだが、データ分析技術を強みに、売り場と客をつなげる広告に育てたいと話す。

 「駆け出しのITベンチャーだったら難しい大手と組んだり、有名な企業に(アイビーコン端末を)置かせてもらったり。インターネットの広告取引を別のレイヤーに広めていくには、上場はとても良いタイミングだった」


計画よりも期を読む「場当たり力」

 広告技術で順調に成長してきたフリークアウト、3年後はどうか。

 心がけたいのは「いい意味で場当たり的」な経営だという。今までの戦略も「全部が全部きれいに計画していたわけではない。逆にそうすると何かあったら弱い事業になる」。

 インターネットが力を強める一方、マスコミも変化する。スマートテレビとユーチューブのようなウェブサービスはどちらが勝つか分からない。無理やり仕掛けるのではなく、期を見て両者を「つなげて」いきたいと話す。

 「3年で自分が考えているゴールにはまだまだ届かない。それだけやりがいのあることに切実に取り組んでいるし、今後も変わらない。考えているのは、マーケティング技術に強い会社、ということだけ」


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