「牛丼の業界には中小がない。大手3社しかない特殊な市場なんですよ」
業界紙「外食日報」の菅 則勝編集長は、コーヒーをすすりながら教えてくれた。
首位は「すき家」「なか卯」を展開するゼンショーだ。2008年に店舗数を1087店舗に増やし、当時1077店舗の吉野家を抜いた。「松屋」を運営する松屋フーズは第3位。「東京チカラめし」の三光マーケティングフーズ、「らんぷ亭」のミツイワなども丼物を手がけるが、トップシェア競争とは無縁だ。
3社寡占の業界といえば通信キャリアもおなじ。企業買収や出店ラッシュで首位に上りつめたゼンショーの姿は、接続率向上のための設備投資を続け、イー・モバイルやウィルコムの買収を経て「モバイルNo.1」をかかげるソフトバンクに重なる。しかし、すき家の成長はすでに踊り場だろうと菅編集長は指摘する。
「市場にどれくらいの店が成立するかは限界がある。市場規模は3200億円くらいで、シェアの奪い合い。なのに、すき家だけで1700億円以上を取っている。そろそろ限界じゃないですか」
通信キャリア業界でもシェアの奪い合いは長らく続いてきた。最近になりようやくMVNO、いわゆるLCC企業が次々と登場しているが、基本的には大手3キャリアが「乗り換え割」と称してキャッシュをバラまき、不毛なシェア争いと囲い込みを続けているのが現状だ。牛丼チェーンの高額商品よろしく音楽や動画の定額配信サービスで顧客単価を上げようとしているが、利益のかさは小さい。
とはいえ、ゼンショーの売り上げに牛丼が占める割合は4割程度。レストランやファーストフード、回転ずし、スーパーなど経営は多角的だ。たとえすき家の成長が伸び悩んでも、事業全体で物流・オペレーションを最適化し、経営コストそのものを下げることで、間接的に利益を出すという目算はあるだろう。
ソフトバンクも、米国大手モバイル企業を買収したり、グーグルに対抗するようにロボットを開発するなど(関連記事)、新規市場への投資を続けている。2012年のスプリント買収時、孫正義会長は「特定の国や業種に偏っていては世界的な競争に敗れ、買収されるリスクも高まる」とも話していた。事業ポートフォリオとしての側面はもちろん、多角化に伴って、本体事業の強化につなげたいという思惑もあるのではないか。
ちなみにゼンショーは雇用状況に問題があり、ストなどの問題に発展したのではないかとの声もあるが、菅編集長は無関係だろうと静観している。「労働組合(ZEAN)もあるし、全従業員の8割が入ってるわけだから」
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