27日、ヤフーが親会社のソフトバンクから、同じく子会社のイー・アクセスとウィルコムの2社(6月に合併)を3240億円で買収すると発表。ヤフー子会社として通信会社「ワイモバイル」を6月に立ち上げる。買収にあたり、ソフトバンクの孫 正義会長は「やる以上は思い切ってやりなさい」とヤフー代表取締役の宮坂 学社長にアドバイスをしたそうだ。ソフトバンクにすれば子会社の付け替えだけで557億円の売却益が生じる計算だ。
ワイモバイルの具体的なサービスプランは発表されていないが、記者間では通信キャリアのLCC化が目的ではないかという声が多かった。格安のAndroidスマホやタブレットで価格破壊を起こすというものだ。
現在、低価格のMVNO事業者は複数あらわれているが、通信キャリア大手3社は利用者料金を下げようとしない。代わりに「家族3台なら21万円」のように高額なキャッシュバックを売りに、キャリア乗り換えによるMVNO事業者の追い落としを図っている。キャリアを継続利用している優良顧客の月額料金が実質キャッシュバックの資金にあてられているという状況に風穴を開けるためにワイモバイルが登場した──というシナリオだ。
宮坂社長によれば、狙いはシナジー効果の創出だ。スマートフォンやタブレットを増進し、ヤフーの広告やサービスの利用率を高めたい。スマホ市場には「LINE」に代表される強力な競合サービスがひしめいている(関連記事)。かつてヤフーがトップページとして表示されるウェブブラウザーをパソコンにプリインストールして優位性を保ってきたように、ヤフーのサービスを売り込めるスマホを売っていきたいという狙いもある。
ヤフーの増益に向けた狙いはよく分かるが、ネットワーク中立性はどうなるのか。
ヤフー最大の競合であるグーグルは米国で光ファイバーを使った通信事業「Googleファイバー」を試験的に34都市で運用開始している。通信会社が使っていない「ダークファイバー」と呼ばれる回線を使うサービスで、あまり回線速度が速くない米国で、最大1Gbpsの高速通信を売りにする。グーグルは同時にケーブルテレビ事業も立ち上げており、Googleファイバーを実質のケーブルテレビ事業だとする報道もあった。
問題はGoogleファイバーが利用できるサービスに制限を設けていたことだ。見守り用のネットワークカメラやP2Pソフトなどには使えないように設計されている。これは通信会社が通信内容に規制をかけてはならないという「ネットワーク中立性」の規制原則に背くものではないかとして批判の声が出ている。
実際、ワイモバイルの記者会見でも「中立性を捨てたということか」という旨の質問が出た。宮坂社長は「ワイモバイルの客はあらゆるサービスが使えるが、ヤフーを使った方が得という関係になる。ヤフーの客はワイモバイルしか使えないという形にはしない」とかわしたが、通信会社が自社の運営するサービスを優先するような設計は今後、賛否が分かれるところだろう。
しかし、現実には米国の司法がネットワーク中立性規制を緩和する方面に向かっているととれる判決を下しており、グーグルも新たなシナリオに向けて動きはじめている。詳しくは「アスキークラウド2014年5月号」でも解説している。