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T-01Aがすごい理由──遠藤諭が開発者に聞く(前編)

2009年06月22日 10時00分更新

文● 秋山文野、遠藤諭、構成●小林 久、写真●小林 伸

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東芝が開発したWindows Mobile機「T-01A」を手にする東芝モバイルコミュニケーション社の湯嶋 彰氏(左)とアスキー総合研究所の遠藤 諭(右)

 いま世の中に出ている大抵のスマートフォンの2倍の解像度、画面サイズも明らかに大きい。剛性が高くポケットに滑り込むようなフォルムで、実際に約9.9mmという薄さが実現されている。しかも、外側からは見えないがケータイ用CPUで最大シェアのクアルコムと協力して、野心的ともいえるスマートフォンに最適なCPUから準備した──。

 それが東芝の「T-01A」だ。東芝がドコモをキャリアにした端末を手がけるのは携帯電話機を含め、実に7年ぶりである。

パソコン用のウェブサイト/サービスを楽しめるモバイルインターネット端末という位置付けの製品だ

 手のひらサイズで全面液晶の端末は、1993年前後から数え切れないくらい発売されてきた。そしていま、携帯電話メーカーとコンピュータメーカー入り乱れての「全面液晶・フルタッチのスマートフォン競争」が始まっているのはご存じのとおり。そんな中で、東芝のT-01Aでは、パワフルに「使える」インターネット端末という性格が明確に打ち出されている。

 さすがは1997年に、全操作を液晶のタッチスクリーンで行う通信内蔵型の携帯情報端末「GENIO」(DDIポケット向け)を送り出したメーカーである。1990年代に、日本のメーカーから次々に送り出される新趣向の端末に世界は注目、追いかけようとした。東芝にはそんなプライドや自負もあるだろう。それを感じさせる端末が出たと言うこともできる。

 それだけに東芝は、このジャンルの製品作りをよく知っているメーカーである。

 ただぼんやりと、カタログ写真だけを見ていると「全面液晶のスマートフォンが東芝からも出たのね」くらいに見過ごしてしまうかもしれない。しかしこのジャンルにおいては、ハードウェアの物理的な特性やCPU性能の些細な違いが、「どれくらい使える端末か」を決める最大要素となる。

 約4.1インチワイドの大型で美しい液晶ディスプレーは、持ち出した映像ファイルを再生する際に、旧来のスマートフォンとは桁違いの表現力を持つ。サイズが大きい分、ソフトウェアキーボードもQWERTYでラクラク打てることが確認できた。いうまでもなく、出先でウェブやExcel、PowerPointを確認したい場合にもこの画面なら十分に使える。



似て非なる、2つの全面タッチパネル機


 この種の(特に)フルタッチ型の端末には、2種類の性格のものがあると思う。ひとつは、イージーに出先で立ったまま電子手帳的にラクラク扱いたいという端末である。もうひとつは、あくまで小さなコンピュータであり手のひらの中でも最大限のことができることを望むユーザーが使うというものだ。

PCのようにファイルの概念が明確に表現されたWindows Mobile機はケータイよりもPCに近い存在と言えるかもしれない

 前者の性格の端末では、ファイルの概念がなく電子手帳的な色合いが濃い。気楽に楽しく使うことを目指している。後者は、ファイルの概念があるがゆえに確実にまとまったデータの取扱も可能で、ユーザーが自分の工夫でさまざまなことができる。前者は優しく、社交的で、シャレていて、それ自身で1つの世界を作り出す。後者は、骨太で効率が重要であり、それを使う道具としての価値がある。

 この2つの種類があることを理解しないでいると、同じように見えるスマートフォンも、まるでトンチンカンな評価になりかねない。T-01Aは、パワフルに「使える」スマートフォンであるから、当然のことながら後者の骨太・効率・道具の世界である。もちろん、その方向からの使いやすさ、気軽さも追求されているわけだが。同時に薄くスマートで、しかも、その形と大きさとコンセプトの中に、さまざまな機能が仕込まれている。

 さまざまなメーカーが入り乱れて、スマートフォン、というよりもポケットに入るインターネット端末の覇権が争われている。このジャンルをずっと見てきたつもりの私だが、いまがいちばん注目すべき時期に差し掛かっていることを実感する。そんな中で、パワフルに「使える」という性格を持ったT-01Aは、求める者には確実に答える見るべき端末の一台だと思うのだ。

 それでは東芝はどのような意図でこの端末を開発し、どのようなメッセージを伝えようとしているのか。東芝モバイルコミュニケーション社の統括技術長として、2年に渡る開発プロジェクトを率いた湯嶋 彰氏に聞いてみよう。

(アスキー総合研究所 所長 遠藤 諭)



インターネットをポケットにの意味


── まずはT-01Aのコンセプトについてお聞きしたいと思います。ドコモ向けの製品としては実に7年ぶりと聞いています。御社としても力を入れた製品に仕上がっているのではないでしょうか。

胸ポケットに入る最大サイズを目指したと話す湯嶋氏

湯嶋 T-01Aは「モバイルインターネットデバイス」という方向で、企画された製品なんです。インターネット──これは、ケータイ向けではなく、(PC用に作られた)生のウェブサイトがサクサクと表示できるという意味ですが、この領域をポケットに収まるサイズで実現したいと思ったんです。しかも業務用のビジネス端末ではなく、コンシューマ向けとして。

 コンシューマを目指すなら複雑であってはならない。誰もが簡単に使えないといけませんし、飽和感がある携帯電話の市場の中で、メーカーとして新しい世界を切り開いていきたいと思いました。インターネットを本当に身近に感じさせるためには、端末側にも十分なパワーが必要だとも考えました。1GHzのCPUを搭載したのは、そのためです。

遠藤 携帯電話の回線速度も上がってきたけれど、実際にはハード側の制約で、その恩恵を受けられないというケースは多いですからね。

湯嶋 (これまでのスマートフォンの性能は)十分ではなかったと思いますね。でもPCのCPUでは「オールウェイズオン」「オールウェイズコネクト」を実現するのは、とても難しいことです。あっという間に電池がなくなってしまいますから。ポケットに入るサイズの端末でインターネットを持ち歩きたい。そういうニーズはいつか必ず来る。絶対身近なものになる。「だからやらなきゃいけない」という構想はずっと持っていました。

回線速度が速くても、もうひとつ実感できない。それはハードが原因だったんですね

遠藤 T-01Aの開発を始めたのはいつごろですか?

湯嶋 2年ほど前です。構想を実現するためには、そのためのハードがどうしても必要になります。そんな折、ちょうどクアルコムが1GHzの高速CPUを作るという話を聞いた。「それなら一緒にやろう」と。そこで、サンディエゴに我々の開発陣──チップだけでなくソフトの開発者もですが──を何十人も送り込みました。ソフト面ではマルチメディア処理をどう実現するか、このサイズの機器に収めるためには、相当な低消費電力化をしないといけない、それではどうするか? 世界に先駆けた実現のため、共同でそういった技術の開発を進めたのです。

遠藤 明確なコンセプトに向かって、チップレベルから積み上げていったというわけですね。

湯嶋 そうです。今までのスマートフォンは使い勝手の面で少し敷居が高い面があって、使うのはビジネスユーザが中心でした。しかし、今回のような製品なら、コンシューマもかなり多く使ってくれるんじゃないかと感じています。

遠藤 昔のようにユーザーも一色ではないですからね。例えば、携帯端末でマンガコンテンツを読んでいる人たちは、PCの場合よりかなりたくさん買うらしいんです。でも、PDAやケータイを散々使ってきた僕からするとすごく納得できる話で、寝ながらマンガを読むよりモバイル端末で見たほうがぜったいに楽なんですよ。

 そしてこれはマンガに限った話ではないと感じています。ビューイングという観点ではT-01Aのような大画面のスマートフォンは魅力的です。

 米国ではThe New York Timesとか、Wall Street Journalなど米国の新聞は軒並みモバイル機器向けの専用ビューアーをリリースしていますが、そこにはひとつの様式みたいなものが確立している。リッチなRSSリーダーを思わせるようなヘッドラインが送られてきて、突き出し広告もあって、次の記事が端っこに少し見えたりする。実はフルタッチスクリーンの端末の幅は、新聞1段分の折り返し幅を表示するのに最適なサイズなんです。それに最適なレイアウトという発想から、新しいUIの価値が出てきて、新しい世界が生まれてくる可能性みたいなものを感じますね。

 そういう意味では、とても面白い領域に目をつけられたなと感じます。アラン・ケイが提唱した未来のコンピューター「ダイナブック」。それにちなんで名付けられた「dynabook」というブランドをノートパソコンで展開している東芝さんから出てきたことも感銘深いんです。最近ではミニノートの市場が盛り上がっていますが、未来のコンピューターは、こういった端末になるっていうのもおもしろいと考えたりもしています。

グローバルでの販売を視野に開発された点もT-01Aの特徴のひとつだ

グローバル展開だから全力で取り組める


── T-01Aはグローバル展開を視野に入れていると聞いていますが。

湯嶋 インターネットについて一番のキーポイントは、グローバル標準であることですね。今後日本の市場だけを視野に入れて事業を継続していくのは厳しくなるでしょう。日本のメーカーは、これまでなかなか世界に出て行かなかったことを考えると、半分挑戦かもしれないですが。

遠藤 逆になぜ出て行かないのかが気になる部分ですね。

湯嶋 実際は出ていっているんですよ。ただし、成熟市場に参入するのは非常に難しいことです。これには逆の側面もあって、成熟した日本の携帯電話市場に海外メーカーが入ってくるのも難しい。

遠藤 なるほど。規模が小さいところに入ってくるか、大きいところに出て行くかの違いだけで、根本的には同じことだと。

湯嶋 入っていけるとしたら、今は小さくても今後市場が伸びていくところでしょうね。例えば、2Gから3Gへの変わり目にある市場。参入する側から見て、そういう市場には可能性があります。新しいニーズがどんどん生まれてくるから、それに応えるものをいち早く出せば存在感を示せる。日本の携帯電話市場でも、アナログからデジタル(PDC)への移行期、PDCが3Gへ変わるといった変化の時期があった。今はインターネットにより近くなるところがチャンスだし、ニーズもあると考えています。

インターネットに関連した機能だけにシンプルにそぎ落としたという

遠藤 T-01Aも国内の1キャリア向けに開発したものではなく、ワールドワイドに展開する端末なんですよね。

湯嶋 国内で販売する端末ですが、地デジ(ワンセグ)もFeliCaも入れていません。余計なものはそぎ落としたんです。「普通のケータイ」で、いまFeliCaや地デジが入っていない機種はほとんどないんですが。

世界へ出て行くのは難しいとのことですが、同じように海外メーカーが日本に入っていくのも難しい。これは成熟市場ゆえなんですね

遠藤 入れたらどうなりますか?

湯嶋 グローバル視点で考えると、地デジやFeliCaは標準から外れてしまいます。よく「日本のケータイ市場はガラパゴス」なんて言われますけど、日本の市場も世界標準にこれから近付いていくでしょう。仮に地デジがなくても、動画ならインターネットでいくらでも見る方法がありますし、そうした使い方が新しいユーザーを牽引してく側面もあるでしょう。

遠藤 世界とおっしゃいましたが、具体的にはどの地域をイメージされていますか?

湯嶋 英独仏西などを皮切りに、欧州から展開していきたいと。

遠藤 手ごたえはどうでしょう。

湯嶋 まだ発売前なので何とも言えませんが、反応自体はとてもいいです。特にキャリアの関心度は、相当なものです。海外では「TOSHIBA」のブランドで展開しますが、これはPCに近いところから入るユーザーさんが最もイメージしやすいもの(=ノートPCの東芝)という理由で選択しました。

遠藤 もう飽和点で新機種を買っても新しさを感じない。デザインくらいしか変わってないようにすら見える。そんな市場の雰囲気だからこそ、大きく変わる何かが望まれているということでしょうね。

湯嶋 我々の目指しているのは「スマートフォン」でも「ケータイ」でもありません。インターネットに特化している新しい端末を一番目指しています。

遠藤 電話の位置付けは変わっても、インターネットが世界的に盛り下がることはまずあり得ない。だから、そこに向かって一番いいものを作るというのはすごく重要ですよね。



Windows Mobileで広がる使い方・可能性


遠藤 アプリケーションの世界も、今後大きく広がりそうです。デジタルサイネージも無関係ではないし、卓上スタンドに置いてプッシュ型の天気予報を見るような情報端末的な使い方も考えられます。東芝さんが自社開発のアプリケーションを作ることもあり得るでしょうし、サードパーティーやユーザーが作るということもあるでしょう。そこがどう刺激されていくのかも興味がありますね。

インターネットにつながる、ソフトが追加できるWindows Mobileという2点は世界で展開する上でも有利に働く

湯嶋 今回は日本市場だけではなく、グローバル市場に視野を向けていますが、ダウンロードして追加できるというメリットはあると考えます。例えば国内向けの製品で載せている「Kinoma Player for docomo」のようなソフトも、海外でダウンロード提供できます。また国内向けの製品では、GPSで周辺情報を検索できる、ゼンリンの「いつもNAVI」を搭載しているのですが、海外ではその地域に合わせたサービスをダウンロードして載せていくことができます。アプリケーションに関してもワールドワイドで展開できる。

遠藤 「クラウド」というキーワードを耳にするようになりましたが、T-01Aはインターネットマシンだから、ネットにさえつながれば、サーバ側でなんでもできちゃうとも言えますよね。

湯嶋 ひとつの流れとして魅力的ですね。メールなど個人の情報や大事なデータは本体ではなく、クラウド側に入れておくケースが増えていく可能性があります。携帯電話を落とす人はたくさんいますが、大事な思い出や彼女の写真をなくしたりしたら、大打撃になってしまいます。そういう点ではいいでしょう。また、クラウドを使った新しいアプリケーションがどんどん増えてくる可能性がある。そういうところには勝てないですからね。

遠藤 僕としては「クラウド時代に使うのは、こういう端末なんだよ!」と言っておきたい。自分が見た動画、最近やったゲーム、いろんな履歴をローカルに置いておくと、モバイルで複数の環境を使ったら分散して分からなくなってしまうものが、ウェブに集約されていたらいい。共有フォルダじゃなくて、自分の体験再現マシンみたいなもの……。

 そんなサービスを東芝さんもいろいろと始めて、それがT-01Aとセットになったりしたら良さそうだなっておもうんです。分かってるな東芝さん! と思いますね。

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