デジタルクリエーター養成スクールのデジタルハリウッドは9日、東京・御茶ノ水の同校校舎において、CG映画『Bunny』の上映会とワークショップを開催した。
Bunnyは米ニューヨークのCGスタジオBlue Sky Studiosが制作した短編CG映画。3月22日に開催された第71回アカデミー賞において、短編アニメーション映画部門の最優秀作品に選ばれている。
『Bunny』はフルCGで制作されており、ウサギの毛皮もレイトレーシングで描画されている |
上映会には立ち見も含め、200人ほどの聴衆が集まった。上映会と同時開催されたワークショップにはBlue
Sky Studiosから4人の制作スタッフが招聘され、Bunnyの制作過程で使用された技術の解説や、参加者との質疑応答が行なわれた。
Blue Sky Studiosは、『Alien 4』や『Small Soldiers』などのCGシーンで知られる有力CGスタジオ。テレビCMも数多く手がけており、『ストーリア』(ダイハツ工業)のCMも同スタジオの手によるもの。Bunnyは、そのBlue
Sky Studiosが技術の研鑚などを目的に、約2年を費やして自主制作した作品となる。
左からAndre Mazzone氏、Cliff Bohm氏、Justin Leach氏、Steve Talkowski氏 |
Bunny自体は短編というだけあって、上映時間は7分30秒ほど。そのため参加者の興味はワークショップに向いていたようで、予定の時間を大幅にオーバーするほどの盛り上がりを見せた。
最初に登場したシニアアニメーターのSteve Talkowski氏は、アニメーションの基本がストップモーションの積み重ねであることを強調。日ごろから伝統的なセルアニメの手法を研究していると語った。Talkowski氏は手塚治虫や宮崎駿作品への造詣も深く、日本アニメの研究も目的のひとつである今回の来日では、スタジオジブリの訪問を予定しているというエピソードを披露した。
シニア・テクニカルディレクターのCliff Bohm氏は、Blue Sky Studiosが独自開発したレイトレーシングソフト『CGI
STUDIO』を紹介。Bohm氏によると、毛皮は1本1本の毛を円錐形で描画することで表現しているという。また各フレームにおいて最大1万4434本の毛を描画したと語ると、会場からは驚きの声があがっていた。ちなみに、レンダリングに使用したマシンはAlphaチップを搭載したCOMPAQ製ワークステーションで、ネットワーク上で並列処理を行なうことにより16万MHz相当のマシンパワーを費やしたという。
テクニカルディレクターのAndre Mazzone氏は、Bunnyの制作過程で多く使われた“Radiosity”という技術について説明した。Radiosityは元々、熱伝導を分析する手法として発展したもので、CGの分野ではオブジェクト間の反射を表現するのに応用されているという。Mazzone氏はガスタンクをイメージした3D画像を紹介し、Radiosityを利用することで非常にリアリスティックな表現が可能になることを解説した。
Radiosityを利用したCG画像。光源は天井側に1点のみ設定されているだけという。光の回り具合(反射)が自然に表現されているのがわかる |
若手アニメーターのJustin Leach氏は、日本と米国におけるアニメ作品の違いについて解説した。Leach氏によれば、米国のアニメは60年以上に渡ってディズニーアニメの影響下にあり、“マンガ的表現”“非現実的”“誇張表現”が特徴として挙げられるという。それに対し日本のアニメは、“細部へのこだわり”“写実性”“硬いストーリー展開”を特徴として持っていると語った。
また、米国のアニメが複数の脚本家・ディレクターの合議制で制作されるのに対し、日本のアニメは1人のディレクターが強い権限を持っていることを指摘。そのため米国製アニメはクセのない平均的なクォリティーを持ち、日本製アニメは作品全体に強い統一感があるという違いについて言及した。
会場にはデジタルハリウッドの学生のみならず、現役のアニメーター・ディレクターの姿も多く、質疑応答では“光源の設定数と反射角”についてなど専門的な質問も多く飛び出していた。
デジタルハリウッドによると、今回の上映会には定員の倍近い参加希望が寄せられたという。同校では、今後も海外のクリエーターを招いた上映会やワークショップを開催していきたいとしている。