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【関西ミュージアムメッセ Vol.6 】IT、次世代のミュージアムの有効手段。知のネットワーク構築に向けて

2000年06月01日 00時00分更新

文● 高松平藏/ジャーナリスト

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5月24日から27日にかけて大阪で行なわれた“関西ミュージアム・メッセ2000”では、博物館や美術館のブースに軒を連ねるかたちで“関連会社”の出展も多かった。その中で目をひいた情報技術関連について報告してきた。最終日に行なわれたシンポジウムなどを交えて、メッセ最後のレポートをお送りする。

情報社会ではなく、情報を使う技術やスキルを学ぶ学習社会へ

27日に行なわれた国際シンポジウムでは、これからのミュージアムが社会にどういった役割を担うのかというテーマが一環して流れていた。

「これからのミュージアム運営はいかにあるべきか。という勉強の機会です」と挨拶する津田和明氏(関西経済連合会文化委員長)
「これからのミュージアム運営はいかにあるべきか。という勉強の機会です」と挨拶する津田和明氏(関西経済連合会文化委員長)



その中で“学習の場”としたのが、ビクトリア&アルバート美術館で教育部長を務めるDavid Anderson氏だ。「現代は情報が増えるばかり、むしろ情報を使う技術やスキルを学習すべき、その学習の場がミュージアム」であると述べた。学習とはいろいろなモノやコトに反応する「感情が考える能力」であり、「他人と共同作業をしていくことだ」(同氏)という。

David Anderson氏。「英国のクリエイティブ産業は経済全体の2倍の速度で発展している」
David Anderson氏。「英国のクリエイティブ産業は経済全体の2倍の速度で発展している」



また、都市プロデューサーの望月照彦さんは“地域社会の次世代モデル─―ミュージアム産業都市・大阪”と題したプレゼンテーションを行なった。関西各地の歴史を踏まえた地域の文化的資源をミュージアムを使ってコンテンツ化。各地のミュージアムをつなげて関西の知のネットワーク化を提案した。そこでは「ミュージアムは知のハブセンターになる」とした。

かつてミュージアムといえば、モノを整理、分類、展示を行なう器をとして存在してきた。どちらかといえばモノに傾注したわけだが、むしろ「モノは手段」(Anderson氏)。利用者はミュージアムとインタラクティブに関わることで“知”を増幅させる。地域文化の発展につながる。ミュージアムは「地域活性化の源泉でもある」(望月氏)わけだ。

“弁士”付きの『デジタル仏像ミュージアム』

市民参加型がこれからのミュージアム運営のカギというわけだが、すでに実践に踏み込んでいるところも出てきた。

たとえば、今回メッセに出展した奈良国立博物館では昨年4月から、デジタル仏像ミュージアム『ぶつぞう入門』という学習コンテンツを導入した。奈良の神社仏閣を訪れる修学旅行生により楽しい見学をしてもらおうというのがそもそもの目的。大型のモニターにより利用されるが、個人向けには館に備えつけたパソコンでの利用も可能だ。

奈良国立博物館のブースにて。パソコンで仏像の知識を学ぶ
奈良国立博物館のブースにて。パソコンで仏像の知識を学ぶ



ここでユニークなのが、学習デジタルコンテンツの運用に“弁士”ともいうべき解説係をあえてつけている点だ。仏像に詳しい人にとって解説は不要という向きもあるが、「初心者にはおおむね好評」(同博物館管理課長 伊藤義雄氏)だという。

その理由は質問に対して答えが様々な形で返ってくるという点だという。人間の情報受容は五感を使って行なわれるが、ITは主に視覚を中心に発達してきた。最近こそ聴覚という要素も加わってきたが、身振り、手振り、抑揚に相当するような表現はまだ難しい。

加えて、双方向性を重視したコンテンツも増えてはきたが、機転、ユーモアといった人間特有のレスポンスも現状の技術では困難だ。同館の場合、ヒトと情報技術を組み合わせることで、デジタルコンテンツの魅力をさらに引き出すことに成功している。

加えて、解説係は市民から募ったボランティアである。2年を期限に現在69名いる。ミュージアムという場を通じて、市民ボランティアが仏像に関する“知”を増幅させ、利用者の知的満足度をあげていくという構図が浮かび上がってくる。ミュージアムが“知のネットワーク”の重要基点として運営していくには、人を巻き込んでいくための知恵や仕組みが不可欠だ。情報技術はその有効な手段となりうるだろう。

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