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ライバルをケーオーできるか“Zaiya.com”――早稲田“在野精神”の表と裏

2000年04月28日 00時00分更新

文● 編集部 小林伸也

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早稲田大学が25日に発表したプロジェクト“Zaiya.com”は、起業を志す学生を物心両面から支援し、優れたネットベンチャー経営者を誕生させるのが狙いだ。情報化やインターネットの波に乗り遅れ、ライバルの慶應義塾大学と比べ地位の低下が著しい早稲田大学。同プロジェクトが拠り所とする“在野精神”が、良くも悪くも早稲田の歴史に影響を与えてきた。各界に異能の人材を生み出してきた早稲田が、Zaiya.comの始動で“日本のスタンフォード大学”へと生まれ変われるのか。

早稲田名物の大隈重信像と大隈講堂
早稲田名物の大隈重信像と大隈講堂



早稲田の地位低下が指摘されてすでに久しい。慶應が湘南藤沢キャンパスの新学部を中心として、大学の情報化に積極的に取り組んで高い評価を受けたのに対し、早稲田は同じ時期にスポーツ振興を目的とした人間科学部を創設したが、期待に反して早稲田のスポーツ強化には必ずしも結びついていない。さらに早稲田がホテル経営などの“錬金術”にはまっている間、慶應は“情報化に強い大学”というイメージを確立。早稲田は大きく水をあけられることになった。

“在野精神”は創立者の大隈重信が、創立の精神として唱えたものだ。権威や権力に依存せず、在野の指導者を養成する――この精神がアナーキーな校風につながり、寺山修司や村上春樹といった文学者や映画監督、タレントなど“枠にはまらない”分野に人材を輩出してきた。さらに井深大氏や西和彦氏といった日本のベンチャーの基盤を築いた経営者も生んだ。

だが早稲田がIT革命の波に乗れなかった理由の一端が、この在野精神にあるとする声もある。在野を突き詰めれば自主独立、反体制につながる。早稲田では、校歌にもうたわれた“学の独立”、つまり学問の府としての自立性を重視するため、「IT興隆の基礎となった米国流の産学協同には教員の間に根強い抵抗感がある」(大学関係者)という。また全般的に時流に乗るのを潔しとしないマインドがあり、インターネットを始めとするIT全般に対しても冷淡だったといわれる。

早稲田では数年前から学内の情報化に取り組みだし、今ではほぼ全員の学生がメールアドレスを取得、新聞データベースのアカウント開放や、ネット上で検索できる百科事典サービスを学生向けに契約するなど、おくれを取り戻すのに必死だ。

Zaiya.comはこうした中で始動したプロジェクトだ。ネット上で起業を志望する学生のコミュニティーをつくった上、事業計画の審査にパスすればオフィスとサーバーも無償提供される。プロジェクト代表で同大学理工学部教授の村岡洋一氏は、「ビル・ゲイツやビル・ジョイに続く人材を早稲田から誕生させたい」と意気込む。

“Zaiya.com”記者発表に出席した代表の村岡氏。隣の会議室では、早稲田大学就職課による公務員就職説明会が開かれていた “Zaiya.com”記者発表に出席した代表の村岡氏。隣の会議室では、早稲田大学就職課による公務員就職説明会が開かれていた



だが同プロジェクトに対し、早くも課題を指摘する声がある。「学外からも広く参加を呼び掛けるオープンな組織というが、“在野”という外では耳慣れない言葉をプロジェクト名に選んでいる。これでは早稲田関係者だけで完結してしまう閉じた世界になってしまうのでは」(大学関係者)。早稲田では“自家培養”した研究者で学内の要所を固め、これが研究活動の停滞を生んだとも指摘されている。新プロジェクトがこの二の舞になる恐れもあるのでは、と前出の関係者は危惧する。

とはいえ、プロジェクトは始動したばかり。Zaiya.comは大学当局が予算化した事業ではなく、運営は企業の協賛金でまかなわれ、日々の活動はNPOや学生が請け負うなど、“在野精神”本領発揮といったところだ。「なまじ大学の教職員が取り組むより、学生にまかせたほうが間違いがない」という声もある。ITのトレンドの中、先を走るライバル・慶應を追い越し、“ネットで起業を志すなら早稲田へ”と言われる日は来るのか。早稲田の試みに、他大学の注目も集まりそうだ。

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