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幻燈機からCGまで――“ピクチャーズ・イン・モーション”開幕

1999年10月13日 00時00分更新

文● 平野晶子

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洗練された技術は魔法に見える

こうしてスクリーン前に辿り着くと、左にもう1つの映写室が用意されていることがわかる。“REMtv”と書かれたシンプルなプレートが入口の壁に掛かっている。中で上映されているのは同名のアニメーション作品で、19歳から30歳までの若者たちの見た夢を映像化したもの。つまり“REM”とはレム睡眠のことだ。6分足らずの短いものだが、実にシュールな世界が展開されている。表現手法も単純な線画アニメから影絵風のもの、クレイアニメーションまでさまざまだ。こんなふうに眠っている人の見ている夢が、そのままスクリーンに映し出されるシステムがあったら面白いのにと思う半面、相当なプライバシー問題が起きそうだな、とも思う。何せ“にわかフロイト学者”が数多くいる御時世だ。

再びフロアーに戻り、今度はスクリーン右手のコーナーへ進む。ここにも小さなスクリーンルームがある。“PHANTASMAGORIA”と聞けば、たいていの人はたむらしげる氏の作品を思い出されるだろう。しかし、こちらは語の本来の意味するところ“幻燈魔術”の歴史と、かつての幻燈ショーの再現を実際に幻燈機によって上映するもの。背後の映写室からは、スライドを差し替える「カシャッ、カシャッ」という音が絶えず聞こえている。5台ほどの幻燈機を組み合わせ、コンピューター制御で動かしているのだが、十分“動画”として認識されるものだ。後半のホラーショーはなかなか恐く、当時は失神した人もいたというのもうなずける。現代のVFXホラー映画を見るのもあまり変わりない気がするが、当時の人々はそれが科学技術によるものではなく、本当に魔術だと思っていた。“洗練された技術は魔法に見える”のだ。

グラモフォン・シネマ(1910年頃)。驚き盤をレコードプレーヤーを利用して見るというアイデア装置だ
グラモフォン・シネマ(1910年頃)。驚き盤をレコードプレーヤーを利用して見るというアイデア装置だ



プラクシノスコープに使われた帯状の絵
プラクシノスコープに使われた帯状の絵



実際に手で触れて例会できる“驚き盤100連発”コーナー

ここから先は、左に驚き盤、右にはゾートロープやプラクシノスコープなどのコレクションが並ぶ。「見ているだけでも楽しいが、実際に動かせたらもっと面白いのに」

そんな声を予想したのか、日本アニメーション協会有志による新作の“驚き盤100連発”のコーナーでは、実際に当時の人々のように手でクルクルと盤を回して遊ぶことができる。傑作は原始的な象形文字から漢字の“馬”ができるまでをアニメーションしたもの。自分で動かすことで、絵柄によって最適な回転スピードが異なることもわかる。

近代のフロアーにはエジソンのキネトスコープやリュミエール兄弟のシネマトグラフなども展示されている。前者は実際に中を覗いてみることもでき、久里洋二氏のアニメーションがセットされている。また、テーブルほどもある巨大なゾートロープも展示され、やはり動かしてみることができる。

新作の驚き盤を体験できるコーナーも。スリット盤と驚き盤の間の支柱を手でクルクルと回して見る
新作の驚き盤を体験できるコーナーも。スリット盤と驚き盤の間の支柱を手でクルクルと回して見る



あらゆるものがデジタル化されつつる中、こんなアナログな装置たちに触れてみることで、技術のヒントはものすごく単純な事実の中にあるということを再認識するのは、とても楽しく有意義なことだ。

入場料は500円。閉館は午後6時だが、木曜、金曜は8時まで開館している。ガーデンプレイスでビールを味わう前に、ちょっと立ち寄ってみてはいかがだろう。

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