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エンジニアのキャリアが「詰む」6つのシグナル——本当にあった怖い話

2017年02月15日 23時00分更新

文●Andrew McDermott

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開発者のBobは、職場でナンバーワンの開発者です。彼の書くコードはシンプルかつ優れていて、しかも仕上がりもスピーディーです。とても着実な人材で模範社員でもあり、人事担当者からは毎日のように「このビルの中で一番の開発者だ」と評価されています。人柄は物静かで謙虚、「エレベーターで会っても二度見することのない人」と呼ばれることもあります。

そんな彼が、いままさに解雇されようとしています。

理由は、会社がハッキングに遭った、または少なくともそのようであると判断されたためです。中国から異常なまでの量のネットワーク活動が確認され、最悪の事態を恐れた会社はVerizonに調査を依頼しました。

その調査結果に、会社全体が震撼しました。

10万ドル(1000万円)以上を稼ぎ出すシニア開発者であったBobが、仕事を丸投げしていたのです。実は、仕事にそこまで興味がなかったBobは、中国の開発者に5万ドル(約570万円)で仕事を発注し、彼自身はReddit(編注:2ちゃんねるのような掲示板)、eBay、YouTubeに時間を費やしていました。

そして定時になると管理部に日報を送信し、帰宅していたのです。

Bobのキャリアが終わるとき

中国の下請けからの請求書、彼自身のWeb履歴から、Bobがなにをしたのかはすべて暴露されました。彼の勤務態度自体が重大な危険信号を引き起こし、詐欺行為を働いたことを理由に彼は解雇されました。まったく当たり前の流れです。

実際には、Bobのような過ちを犯す開発者はほとんどいないでしょう。開発者のほとんどは仕事熱心なプロであり、自分の仕事にしっかりとプライドを持っています。これは朗報です。開発者自身が自分や周りの開発者に、ある程度の敬意を抱いているということだからです。

しかし、大変な過ちをを犯している開発者がまだまだたくさんいるという悲報もあります

こうした過ちが危険信号、つまり雇用主や同僚に「この人のキャリアはもう終わりだ」と思わせるサインのもとになっていきます。失敗したからといってキャリアがすぐにつぶれるわけではありませんが、悲劇はゆっくりと進行していきます。危険信号をずっと無視し続けていると、いつか開発者キャリアにも終わりが訪れるのです。

キャリアの終わりは予測しにくい

キャリアの終わりはいつでも起こり得ます。しかし、ここで話しているのは、即座にクビになるような失敗のことではありません。また、レイオフや社内の駆け引き、そのほか自分自身では手に負えないような状況のことでもありません。

そうではなく、開発者としてのキャリアをゆっくりと破壊していく過ちのことです。

しかも、開発者がした良いことの裏に蓄積されていく過ちなのです。なにか良いことをしたとしても悪い方向に転ぶことがあり、また優れたものを作ったとしても、そこに毒が隠れていることもあるのです。

これらのケースでもどかしいのは、危険信号は予測不可能で、盲点として潜んでいるという点です。

さらにひどいことに、キャリアの終了を引き起こす要素は1つだけではなく、いろいろあります。

  1. もっと優秀な開発者の登場:自分がミスを繰り返していて、そこにミスを解決できるオールスター開発者が登場したら、開発者としてのキャリアが終わる環境が整う
  2. 重大なミスをした:大惨事や大きな損失につながるようなミス。人はお金や影響力、友人を失ったり、安全を脅かされたりすると、誰かに責任を負わせようとする。そのミスをした「誰か」があなた自身だといわれるわけだ
  3. 気にかけてもらえなくなる:ミスをしても最初のうちは言い分を聞いてもらえる。しかし、それも続ければ周りを不愉快にする。やり過ぎれば周りの人は無関心になってしまい、「もう良い、あきらめよう」と思うようになる

上の3つはただキャリア終了の引き金になるだけではありません。さらにひどいときには引き金と危険信号とが重なり、キャリアの終焉を加速させることもあるのです。

では、危険信号にはどのようなものがあるのでしょうか。

危険信号1:ある分野で秀でていればほかでも活躍できると信じている

セレブが有名なのには理由があります。その理由は、一番得意なことをして成功を収めていることです。最大級の知名度を誇るセレブの場合は例外的で、成功を操り、他人からの敬意や金銭的な報酬を欲しいままにできます。しかし同時に、そうしたセレブはほぼ確実に、妙な思い違いをします。

ある分野で秀でていれば、ほかの分野でも成功できると考えてしまうのです。

その根拠とは?

それはセレブ自身を見ていれば分かります。俳優で歌手のDavid Hasslehoffはファッションビジネスを始めましたが、1年もたたないうちに失敗しました。

Malibu Dave Clothing Line

Lindsay Lohan、Lil Wayne、Miley Cyrusもそうです。これではっきりしてきたのではないでしょうか。

名前をあげたセレブたちは成功への対価を払おうとしなかった、ということなのです。そして開発者もこれと同じ問題に悩まされています。

「Andrew、それは馬鹿馬鹿しいよ」

本当に馬鹿馬鹿しいですか?

ある1つの言語(Pythonなど)に卓越した優秀な開発者が、ほかの言語も学ぼうとするのを目にするのは珍しいことではありません。そして、1カ月か2カ月すると、その開発者本人が突然、新しい言語のプロになったと信じ始めるのです。

しかし、実際にはそのようなことはありません。

ある分野で専門技能があるからといって、ほかでも通用するとは限らないということです。

学習曲線を大幅に縮小できたとしても、どのようなものでもスピーディに学習してありとあらゆる業界のトップ10に入ったとしても、競争力と専門技能は別物です。

こうした誤解をしていると、次のような不要なリスクに巻き込まれることがあります。

  • IDEのスキルが自動的にほかでも通用すると信じてしまう
  • 単に楽だからという理由で、高額でなじみのない新商品をチームに押しつけようとする
  • 過去に「似たような」仕事をしたからといって、上司やクライアントに今回の案件も大丈夫だと言ってしまう
  • Apacheに詳しいからという理由でNginxを勧め、「それってそんなに難しくないでしょ」などと言い出す

先に説明した引き金を思い出してください。こうしたミスを嫌というほど連発すれば、なにかの拍子に開発者としてのキャリアが終わってしまうのです。

危険信号2:成功の半減期を無視してしまう

成功には寿命があります。

一般に信じられているのとは違い、成功は永遠には続くものではありません。人は忘却の生き物であり、次第に他の開発者への興味を失い、結果として信じなくなっていくのです。しかし、それはなぜでしょうか。

良い仕事をすると人と人の間に対立が生じるからです。先にも書いたように、こうしたトラブルは誰も気づかないところに潜んでいます。これが問題なのです。開発者がなにか良いこと、便利なこと、ポジティブなこと、役立つことなどをすると、矛盾が生まれます。

その理由は?

受け取る側は価値を少なく見積もり、与える側は価値を多く見積もるからです。

なにかを誰かに与えるとき、その物の価値は上昇します。もちろん、現実にではなく、与える側の頭の中でです。こんなことを言う人をいるのではないでしょうか。

「Xをあげたのに、これしかしてくれないのか」

または、

「こんなにも尽くしているのに!」

ここで話題になっているのはプラス評価のことです。贈り物や良いことの価値が上がり、相手は感謝してくれると期待します。いや、感謝どころではなく、恩義を感じてもらおうとしています。褒めたたえ、与えたものをきちんと認めるようにと要求しているのです。

一方で受け取る側の場合、立場はまったく逆となりす。受け取った贈り物の価値は下がります。これで借りがあると感じれば、普通相手はお礼をしたい、借りを返したいと感じるのですが、その借りがあまりにも大きいと相手が怒って憤慨する可能性があります。

良いことをすれば、開発者キャリア終了のカウントダウンが始まってしまうのです。

定義上では開発者は与える側にあたります。きちんと仕事をしている人なら、与える側ということです。ここでは上司や部長、雇用主が受け取る側に相当し、そう遠くないうちに受け取る側は、与える側がしたことを忘れてしまうというわけです。

問題はまさにこれです。

成功の半減期を意識できなければ、すばらしい仕事をしてもきちんと評価されなかったときに開発者は精神的なダメージを負うことになります。また、そのすばらしい仕事を評価しないのは、誰であろう上司なのです。結果として、開発者は過去の成功に基づいて順調に進んでいたとしても、きちんと評価や報酬をもらえない状況に片足を突っこんでしまうのです。そして上司も軽視されていると思いこみ、ただの肩書き付きのオタクだと思うようになってしまうのです。

これがどれだけキャリアをだめにするかは実に明らかです。

危険信号3:成功の評価方法を間違っている

「仕事で成功していますか?」と尋ねられ、「はい!」と元気に答える開発者がいます。しかし、それが問題なのです。上司はどのようなことを言っているのでしょうか。自分自身がする評価に上司も合意するでしょうか。それどころか、上司は働きぶりが足りないと考えているのではないでしょうか。

不和はこのようにして生まれていきます。

自分では良い仕事をしたと思っているし、業績のリストもあるので、開発者としては成功していると言えます。

しかし、それを上司も分かっているでしょうか。

そして会社はその開発者を採用したとき、どのような期待をしていたのでしょうか。採用の決め手となったビジネスまたは政治的な要因について少しでも話したでしょうか。

どうでしょうか?

会社が定めた目標を達成できていないとしたら、仕事に成功していると言えるでしょうか。

さて、ここでいう問題がなにか分かったでしょうか。

もちろん、自分が思う成功は、必ずしも上司のそれと一致するわけではありません。現実にはこのようになっています。

Shared goals

左の上司が決めた目標と右の自分が決めた目標が交わるところが共有する目標で、共有する目標の基準に従って成功は評価される

上司や部長、そしてクライアント側でも独自の高い基準の目標を設定しています。そして、自分自身の目標もあります。両者が自分の基準で成功を評価してくれれば良いのですが、ほとんどの場合それはあり得ません。

こうした目標のすれ違いが続いてしまうと、結果的に開発者のキャリアが終わってしまうのです。

危険信号4:理想論を振りかざして変化に抵抗する

このタイプの開発者は理想論者であることが多く、「物事はこのようにするべき」と信じ込んでいます。自分が理想だと考えることを押しつけ、要求が通ると満足します。人生とはこうであるべきと考えているのです。

思うようにいかなければついていけなくなってしまいます。そして、まったくついていけないとなると、反抗したり不満を口にしたり、苦しんだりするのです。それを望んでいるわけではありませんが、惨めさや苛立ちは周りにも伝わっていきます。

このタイプには2通りあります。

  1. 懐古主義:このタイプの口癖は「前の職場ではこうしていた」「このやり方で学んできた」
  2. 理想主義:物事はこうあるべき、こうでなくてはならないというタイプの開発者。いまのやり方に満足していないという印象を受ける

懐古主義、理想主義という盲点を意識できていない開発者はいつもイライラしています。「みんなはなぜ間違っていると気づけないのか?」「みんな狂っている!」などと思っているのです。そして、欲しいものを手に入れようとしたり、実際に実力行使を始めると脱線してしまいます。

このタイプの開発者は自分の理想を他人に押しつけることで自分が正当化できた感じます。モラルを破たんさせ、担当者をいら立たせるので大変です。いずれは周りのみんなを不快にさせる態度へと発展します。そして周りに仲間が誰もいなくなったときにキャリアの終わりを迎えることになるのです。

注意信号5:致命的なミスの連発

好むか好まないかはさておき、うまくいかないときは誰にでもあるものです。ちゃんとコミュニケーションしようとして悩む人は多いし、エゴでキャリアを犠牲にする人もいます。また、噂や裏工作に悩む人もいれば、納期に遅れて信頼を失う人もいます。

人間であれば、誰だって理想通りに生きることは難しいのです。

しかし、問題になっているのはその機能不全がどれだけひどいかではありません。自分自身がそれについてなにをしているかが問題なのです。そのときの対応は、次の3タイプに分かれます。

  1. 無関心:否定したり反論したりする、とにかく攻撃性の強いタイプの開発者。自分または周りの仕事を大変にするような問題はなんとか避けようとする。自分のミスを正当化するためには手段を選ばず、よく毒づく
  2. 言い訳をする:自分の苦労や失敗を認めないタイプ。いつでも誰かほかの人のせいにする。誰か、またはなにかが邪魔をしたからと言い訳する。このような考え方を続けると、破壊のサイクルに落ち込み、同僚や仲間が離れていってしまう
  3. 成長志向:このタイプの開発者はいつでもすべき仕事を理解していて、学びたい、成長したいと常に感じている。どれだけ知識がないか認識しているので、飽くことなく学ぼうとする。人間として、プロとして成長し続けられるようなことを探している

人間関係は銀行口座のようなものです。適切な態度で良いことをし、みんなに対して優しく接し、望まれるように振る舞えば、銀行口座の中の残高が増えます。一方、おかしな行動に出れば残高が減ってしまいます。

人間関係の残高が空っぽになれば、人びとは自分のことを気にかけてくれなくなります。そして引き出し過ぎて残高がマイナスになったときに周りは自分の人生からあなたを除外するようになり、その結果としてキャリアも終了してしまうのです。

危険信号6:知識のエコー室状態

仕事ができるというのは危険です。同僚に褒めちぎられたり、一目置かれるようになると特に危険です。そのあと起こることにどう対応するかまできちんと考えられていないと、うぬぼれを簡単に信じるようになってしまうからです。

そうなるのはいとも簡単なのです。

職場でオールスター選手として見なされるようになったとします。自分のスキルが高くなると、突然、いままでのやり方が「最高基準」として捉えられるようになっていきます。

そして「エコー室」にはまるというわけです。

この時点で、今度は自分が学習をしなくなります。すでに知っていることを正当化・強行しようとすると、キャリア終了がスタートします。このようなエコー室にはまると、間違ったことばかりが目に付くようになり、他人のミスを指摘しようとしたり、自分がどれだけ賢いかアピールしようとします。

結果、大変なことになります。

こんな風にキャリアを終わらせたくないのなら、答えは単純です。一生生徒役でいれば良いのです。どのような人からも、どのようなものからも学ぶという姿勢をずっと貫いてください。

学びの対象はたくさんあります。

  • 自分よりも業績の良い開発者
  • 自分よりも多くのバグをキャッチするデバッガ
  • 自分とは真逆の考え方をする新人
  • いままで現役で来たベテランやシニア開発者

仕事や周りの人、上司など、学びの対象はたくさんあります。友達、ライバル、気にかけたこともない人からも学ぶようにしてください。常に生徒の役割を意識することで、エコー室状態を避けられます。自分の世界観とは違う新しい情報を自発的に探すことにより、成長を促すような環境を自分で作っていけるのです。

このような危険信号を回避するにはなにができるのか?

危険信号を回避するにはどうすれば良いのか?

それは、自分自身です。

人格形成やスキルの向上、感情や心理状態のコントロールなど、人間的に、そしてプロとしての成長に時間を費やせば費やすほど、危険信号に遭遇することは少なくなります。もっと上を目指すことに時間や労力をかけるようにすれば、致命的な過ちを犯すこともなくなります。

「そんなのは決まり文句だ」と思う人もいるかもしれません。

しかしそれは事実であり、いままで出会ってきた開発者のほとんどが見落としていることでもあります。皮肉なことですが、「自分が一番良く知っている」と思い込んでいる開発者がこうした過ちを犯す傾向にあるのです。

このような問題そのものはキャリアの終わりではありません。

「こんな間違いをしてしまった。いまでもしているけれど大丈夫だ」。このタイプの開発者はこんなことをよく口にします。しかし、こんな風に考えていると危険です。

こうしたミスが積み重なるとこうなります。

Mistakes continuum

採用された日から正常なキャリアを歩むが、後戻りできないポイントからキャリアの終わりに向かう

このようなミスをしたからといって、キャリアがすぐにだめになるわけではなく、直ちに影響を受けることはありません。なぜかというと、自分自身で「再起不能」ボタンを押していないからです。

まだ、です。

こんな態度を続けていればリスクも高まっていきます。ときが来れば周りも「もうおしまいだ」と考えるようになり、これ以上我慢できない、耐えられないと思う段階に入ります。後ろ指を指されて陰口を叩かれるようになり、ブラックリストに載せられます。そしてそうなると…

自分のキャリアが終わってしまうのです。

危険信号でキャリアが終わるわけではない

詐欺行為を働いたBobのキャリアは完全終了してしまいました。でも、多くの人は彼のような愚行には手を染めないはずです。その理由は、この記事を最後まで読んだからです。

なぜなら自分の将来をしっかりと考えているからです。

Bobのような失敗をする開発者は実際にはほとんどいません。ほとんどの人は仕事ぶりの良いプロで、毎日ベストを尽くしています。そうはいっても、これまで説明した危険信号に気づいていなければ、キャリア終了に至るミスをすることも避けられません。

自分の思い通りのキャリアを持ち、待遇がどんどん良くなるのはすばらしいことです。そして盲点となる危険信号をしっかりと回避できれば、そのすばらしいキャリアが自分のものになります。ちゃんとやれば……

あなたの前には明るい未来が待っています。

(原文:6 Red Flags That Signal the End of Your Career

[翻訳:加藤由佳/編集:Livit

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