秒速200kmで移動する太陽探査機
むかしむかし、ギリシャのある所に“イカロス”という青年がいました。ある日彼は、父親のダイダロスと共に、塔に幽閉されてしまいます。そこで彼らは、鳥の羽をロウで固め、翼を作り、そこから脱出します。父親はイカロスに言いました。「ロウが溶けてしまうから、太陽に近づきすぎてはならないぞ!」。ですが、自らを過信しすぎたイカロス、太陽まで俺は行ける! と、どんどん高度を上げていきます。が、結局ロウは溶け、イカロスは墜落、その命を落としたのでした……。
歌にもなっているこの有名な神話(歌では勇気の象徴になっていますが)、そもそもロウの翼で飛べ、生身で呼吸できたとして、高度どのくらいまで行けるんでしょうか? 種類にもよりますが、融点の低いロウで50℃前後、高くても100℃ないくらいです。イカロスが融点の高い種類のロウで翼を固めたとして、さて、どこまで高く行けるもんでしょうか?
ちょっと調べたところ、どうやら高度100kmくらいまでは行けそうです。高いところに行けば行くほど、気温は下がりますし、いったん成層圏で上昇に転じても、ロウが溶けるほど熱くはなりません。が、それ以上の“熱圏”と呼ばれる大気の構造域に行くと、ぐんぐん温度が上がっていきます。大気の状態によっては2000℃になることもあるこの熱圏。どうやらここでイカロスはアウトになってしまう可能性が高いですね。あくまで数字上ですが。しかもこんなに高いところから墜落したら助かるすべもありません。父ダイダロスも無念だったことでしょう。
が、現代科学が進んだ昨今、人間が作ったものは、どこまで太陽に近づけるのでしょうか? 身近なのにまだまだ謎の多い太陽。その太陽を調べるための探査機もそれなりの数が打ち上がっています。その中に、2018年8月12日、まさに北半球では夏真っ盛りの時期に打ち上げられた、『パーカー・ソーラー・プローブ』という太陽探査機があります。このパーカー・ソーラー・プローブ、イカロスと同じく、太陽に向けて飛んで行っていますが、なんとその接近距離予定が“約600万km”! 太陽に最も近い惑星水星の近日点距離(太陽に最も近づく距離)でさえ4600万kmですから、太陽系規模で考えると、太陽の“すぐそば”まで行くことになるんですね! 地球からの距離を1とすると、太陽に最接近したパーカー・ソーラー・プローブの距離は太陽からたった“4%”です。東京―博多間の新幹線で考えると、東京を出た新幹線が、博多ひとつ手前の駅、同じ福岡県の小倉を既に出発している距離です。
しかも、驚くのは、その最接近の距離だけではありません。探査機の“速度”です。
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