この連載は江渡浩一郎、落合陽一、きゅんくん、坂巻匡彦が週替わりでそれぞれの領域について語っていく。今回は江渡浩一郎がシン・ゴジラについて考察する。
映画『シン・ゴジラ』が話題になっている。本記事が掲載されるころにはすでにだいぶ時間がたっていることと思うが、それでもまだまだ届くべきところには届いていないのではないか。私がこの映画がどのような層におすすめするのかを書いてみたい。なお、基本的には大きなネタバレなしで書くことにする。
この映画は公開される前、徹底した秘密主義をとっており、事前に映画の情報は出回っていなかった。わかっていたのは、12年ぶりのゴジラの続編であること、エヴァンゲリオンで有名な庵野秀明氏が監督を務めたことである。公開後、『シン・ゴジラ』は大きな話題となった。私もさっそく観て、これはぜひ多くの人が観るべき映画だと感じた。
『シン・ゴジラ』にきわめて近い状況が東日本大震災
さて、観る前から観た後にかけて、どのような感覚の変化があったか。評判がいいとはいっても、やはりいわゆる「子供向けの怪獣映画」の一種なのだろうと思っていた。その想定が、まったくくつがえされた。
ご都合主義的なストーリー展開は影を潜め、ひたすらにリアルに意思決定の様子を追うドキュメンタリー映画のような仕立てになっていた。
私はかつてたくさん小説を読んでいた。特にSF小説が大好きで、ロバート・A・ハインラインはほぼ全部読んでいて、アシモフ、クラークは半分くらいか。ほかにギブソン、ニーブン、ニール・スティーヴンスンが好きといった感じだ。図書館にあったSF小説をほぼ読んでしまい、それ以外の小説もたくさん読むようになった。
しかし、大人になるにつれ、徐々に小説を読まなくなった。その代わり、ノンフィクションを好んで読むようになった。私が好きだったのは、特に経済戦争というか、会社間のバトルを描いた本だ。
たとえば、マイケル・クスマノの『食うか食われるか ネットスケープvs.マイクロソフト』は名著だと思う。
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食うか食われるか ネットスケープvs.マイクロソフト |
実際に起こった事件を描いた本は、身近に感じられ、読んでいてとてもおもしろい。要するに、自分の興味がフィクションからノンフィクションに移行したということだろう。
現実に社会で仕事するようになると、社会の中でさまざまな事件が気になるようになる。事件の背景を調べてみると、事実は小説より奇なりといった感じで、予想もしていなかったような奇想天外なことが起こっていたりする。
つまり、人の頭の中で考えたフィクションに満足できなくなったわけだ。社会の中でさまざまな人が衝突する。その過程のドラマこそが、読んでいてわくわくするものなのだ。
そして『シン・ゴジラ』はこんな風にフィクションに興味を持てなくなった人が観ておもしろい映画になっている。
いまの日本になにか異常な事件が起こったとする。たとえば、海の中から突然巨大な生物が現われ、その生物が街を蹂躙し、ビルを壊していく。もちろん、そんな風に巨大な生物は存在しないため、フィクションなのだが、しかしお話を組み立てる際に巨大な生物が存在するはずがないという1点のみをフィクションとし、それ以外をすべてノンフィクションにしてほしいのである。
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