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第19回 “あのセキュリティ事故”はどうやったら防げた? 検証委員会

取引先の信頼を失わないためには「実効性のある運用」までが大切

SCS評価制度、“形だけの★3取得”が招いた取引停止の危機 どうやったら防げた?

文●大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

提供: フォーティネット

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■今回のストーリー:

 南東北に本社を構えるプラスチック部品製造業のM社は、従業員90名ほどの中小企業だ。会社規模は小さいながらも大手家電メーカーや情報通信機器メーカーを取引先に持ち、顧客の特殊なニーズにも柔軟かつ迅速に対応できる技術力を誇っている。

 そんなM社に2027年の夏ごろ、取引先のメーカーであるC社から、サイバーセキュリティ対策の強化を求める要請が入った。近年、製造業のサプライチェーン全体に影響を与えるサイバー攻撃被害が頻発しているため、C社でもサプライチェーン全体のセキュリティリスクを見直し、取引先にもセキュリティ対策を求めていく方針になったという。

 具体的には、2027年の春にスタートした「サプライチェーンセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」を統一基準として、すべての取引先に「★3」以上のセキュリティ水準を求めていくという。今後の取引契約では必須要件となるため、「できれば3カ月以内に★3評価を取得してほしい」という話だった。

 M社にはIT/セキュリティの専任部署も担当者もおらず、それらの業務は総務部が兼任している。C社は大手取引先の一社であり、M社の社長は★3評価の取得が欠かせないと判断して、総務部に対し「早急に」取得作業を進めるよう指示を出した。★3は基礎的なセキュリティ対策水準と位置づけられており、社長も取引先のC社も「簡単に取得できるはず」と考えていた。

 だが、指示を受けた総務部が★3の要求事項を確認したところ、M社では未対応の対策や、部署ごとに対応がまちまちの対策がいくつも見つかった。このままでは★3評価は取得できない。「3カ月以内」というスケジュールを死守すべく、総務部では大あわてで対策の強化を開始した。

 M社総務部では、いくつかの未実施事項について新たに社内ルールを策定し、社内の各部署にルールを厳守するよう通達した。また、部署ごとに異なる運用が行われていた対策についても、運用を統一するよう各部署に指示を出した。

 半ば無理やりではあったが、こうしてM社では★3の要求事項チェックシートを「○」で埋め、セキュリティコンサル会社の確認を受けた。コンサルタントは、シートに書かれた対策の実施状況について何点か口頭で質問したが、M社総務部の担当者は“甘めに”回答をして切り抜けた。

 このようにして、M社では何とか3カ月以内に★3の評価を取得できた。取引先であるC社からは早急な対応に感謝され、取引契約も無事継続できることになった。総務部の担当者はほっと胸をなで下ろした。

 ただし、この“間に合わせのセキュリティ対策”の効力は薄かった。特に問題だったのは、新たに策定したセキュリティルールが現場の反発を買い、現実にはまったく機能しなかった点である。総務部が新たなルールを社内に通達した当初から、現場では「これまでの業務プロセスにマッチしない」「よけいな手間が増える」と評判が悪く、ルールの抜け穴を探したり、完全に無視したりする社員が続出していた。

 そして、案の定と言うべきか、半年後には重大なセキュリティ事故に見舞われてしまう。社内ルールでは禁止となった「パスワードの使い回し」が現場ではまだ行われており、これが原因となって業務システムへの不正アクセスが発生。C社を含む取引先の設計図面や発注情報などが盗み出され、犯罪者から脅迫を受けることになってしまった。

 C社からは、情報漏洩の発生もさることながら、“実態の伴わないセキュリティ対策”を報告して★3評価を得ていたことが大きく問題視され、「取引停止も検討したい」と厳しい言葉が伝えられた。C社との取引規模は大きく、取引停止となるとM社の事業存続もゆるがしかねない事態になってしまう。……こうした事態は、どうやったら防げたのだろうか?

※このストーリーはフィクションです。実在する組織や人物とは関係ありません。


SCS評価制度が目指す「サプライチェーン全体のセキュリティ強化」

 経産省が推進する「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」は、2027年の3月~4月の開始が予定されている。今回のストーリーは、同制度がスタートした後に起こりうるアクシデントを想像して書いたものである。

 近年は日本でも、サプライチェーン全体に影響が及ぶようなサイバー攻撃事件が頻繁に発生している。しかし、取引する企業間でサプライチェーン全体のセキュリティリスクを把握し、対策を進めるうえでは、次のような課題があった。

・発注者(委託元企業):委託先におけるセキュリティ対策が可視化しづらく、要求事項(チェックリストなど)の適正性の担保も難しい
・受注者(委託先企業):複雑なサプライチェーンの中で、さまざまな委託元からさまざまな要求事項を求められ、過度な対策負担につながっている

 SCS評価制度では、セキュリティ対策の段階(水準)を示すことができる統一の基準を提供し、これらの課題を解消する。発注者と受注者が同じ基準でセキュリティ対策を考え、実施していくことで、サプライチェーン全体のセキュリティ強化につなげる仕組みだ。

 同制度では、セキュリティ対策の段階を★3、★4(今後は★5も検討)で示す。★3、★4の違いは次のように説明されている。

★3:すべてのサプライチェーン企業が最低限実装すべきセキュリティ対策。基礎的な組織的対策とシステム防御策を中心に実施
★4:サプライチェーン企業などが標準的に目指すべきセキュリティ対策。組織ガバナンス・取引先管理、システム防御・検知、インシデント対応等包括的な対策を実施

SCS評価制度における★3、★4、★5(検討中)の位置づけ(出典:経済産業省)

 実際の評価においては、対策の内容を大きく7つの観点からチェックする。7つの大分類の下には、より具体的で詳しい要求事項や評価基準が用意されており、これらをチェックシートとして活用することで、自己評価や対策の強化にも生かすことができる。

■★3の評価基準(7つの大分類と、要求事項の数) ※注
 1:ガバナンスの整備(要求事項:3)
 2:取引先管理(要求事項:3)
 3:リスクの特定(要求事項:4)
 4:攻撃等の防御(要求事項:13)
 5:攻撃等の検知(要求事項:1)
 6:インシデントへの対応(要求事項:1)
 7:インシデントからの復旧(要求事項:1)

※注:SCS評価制度は現在も検討が続いている段階だ。ここでは執筆時点での情報を盛り込んだが、最新情報については必ず経済産業省「SCS評価制度 特設サイト」(https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/scs.html)を参照していただきたい。

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