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業務を変えるkintoneユーザー事例 第304回

ノーコードツールを“仕事道具”として定着させた会津美里町・DX推進部の歩み

「この町から逃げたい」と悩んだ職員が、地方役場の“閉塞感”をkintoneで打ち破るまで

2026年04月01日 11時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp 撮影● 大谷/TECH.ASCII.jp

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 コロナ禍を契機に自治体でのノーコード・ローコードツール「kintone」の導入が進んでいる。現在では、約460の自治体(2025年時点)が同ツールを活用して、現場の職員主導の課題解決に取り組む。

 2025年に初開催された「kintone hive government」は、こうした自治体におけるkintone活用のノウハウが共有された。本記事では、参加者投票で京都府の舞鶴市と共にAwardを獲得した福島県の会津美里町の事例を紹介する(参考記事:市民の命につながる業務改善 舞鶴市・消防本部が“現場第一”のkintone活用で変えたもの)。

 会津美里町の秋山拓也氏が語ったのは、役場を覆っていた閉塞感を打破すべく、kintoneを“仕事道具”として定着させたDX推進部の1年の歩みである。

会津美里町 政策財政課 デジログ推進室 秋山拓也氏

「この町から逃げたい」…と悩む中、配属されたDX室

 福島県西側の会津地方に位置する会津美里町。自然豊かな町であり、入庁12年目を迎えた秋山氏が愛するのが、その美しい景色だという。ただ秋山氏は、この大好きな町から、逃げ出そうか悩んでいた。次々と職場を去っていく仲間たちを見送り続ける状況に、心を痛めていたからだ。

会津美里町の景色

「近隣の自治体では、60人しかいない職員が一気に6人も辞めました。山を奪われた動物かのように、地域から人も職員もいなくなっています。その原因は、地方役場を覆う謎の閉塞感です」(秋山氏)

 自治体の抱える課題は山積みだ。住民ニーズの多様化に伴い、業務は複雑化の一途を辿る。その上で、前例踏襲で非効率な慣習が残り、人員不足は解消されない。そして、地域特有の濃い人間関係が拍車をかける。「ここにいたらヤバい、逃げなければ」―― というのが秋山氏の偽らざる本音だった。

 そんな矢先に、秋山氏に下ったのは突然の人事異動だった。配属先は、「デジログ推進室」という得体の知れない部署。聞けば、デジログとは、デジタルとアナログのいいとこ取りを指す言葉だという。そこには、同年代の職員2名も待ち構えており、秋山氏含めた3人で役場のDXを推進することになった。

 さっそくDXの勉強を始めた3人は、DXは「組織の文化や風土を変革する仕事」だと知る。「これなら、役場を覆う閉塞感をぶっ壊せるのではないか。そう思い、DXに注力することを決めました。もう、これ以上仲間が辞めていくのを見たくなかったからです」(秋山氏)

地獄の研修を経てたどり着いた“ノーコードツール”

 秋山氏らが最初に取り組んだのは、職員向けの研修だった。最初のテーマとして選んだのは、業務のやり方を再構築する「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」である。東京から外部講師を招き、すべての職員に自らの仕事を見つめ直す機会を設けた。ただ、それは「地獄の研修」(秋山氏)と化したという。

 研修室の職員は無表情で、白けた空気が漂う。秋山氏が感想を尋ねても、返って来るのは講義とは無関係なものばかりだった。秋山氏は、「なぜか自治体職員は、外部講師に対して斜に構えてしまいます。座学での研修は意味がない、知識は実際に使って初めて身につくものだと実感しました」と振り返る。

東京のコンサルタントを招いた研修は残念な結果に

 この失敗から秋山氏らが着目したのが、使うことで必ず業務が見直される「ノーコードツール」である。同ツールが役場の仕事道具になれば、そのままBPRの実践につながる。そこで、役場全体での研修を白紙に戻し、先鋭のメンバーでノーコードツールの研修を受け、そこで手ごたえを得る。

 一方で、参加した職員からは、「絶対に普及しない」と断言されてしまう。研修で使ったツールは、他の職員にはハードルが高すぎた。そして、より直感的なツールとしてたどり着いたのがkintoneだ。先行事例や導入ナレッジも豊富に揃い、さらに、最大13か月無料で全職員利用できるキャンペーンも実施されていた。今の役場に「おあつらえ向き」の仕事道具を見つけたのだ。

あれだけ嫌だった“濃い人間関係”が普及の一助に

 秋山氏らは、さっそくkintoneを導入。そして、これまでの反省も踏まえて4つの方針を立てた。

 1つ目は、「自分たちでやる」ことだ。外部講師では職員の心に響かなかった。秋山氏らが自ら実践することが説得力を生むと信じ、サポート企業には頼らなかった。2つ目は、「アプリが便利である」ことだ。便利でなければ職員は使わず、定着につながらない。

 3つ目は、「なるべくアプリを作らない」だ。目指すのは職員が自らkintoneを使う状態であり、秋山氏らが作ると押しつけになってしまう。4つ目は、「静かに導入する」だ。アプリ活用の決定権はデジタルが苦手なベテラン職員が持っている。だからこそ、反発を避け、ひっそり根回し、自然に受け入れられることを心掛けた。

デジログ推進室で立てた「4つの方針」

 こうした方針のもと、kintoneの普及に向けて「会津美里町業務改善ラボ」を立ち上げた。庁内の20代から30代をスカウトし、秋山氏らを含めて12名からなる組織を結成している。組織を2つのチームに分け、ゆるい競争関係を生み出している点がポイントだ。「きゅうりの塩漬けと同じで、4つの方針も割った方が浸透できる」(秋山氏)

 4つ目の方針の「静かな導入」においては、かつては嫌だった“濃い人間関係”が役に立ったという。若いメンバーの変わりに、もはや家族も同然であった秋山氏らが矢面に立ったことで、役場内の調整はスムーズに進んだ。そして、いよいよアプリが作られ始める。

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