「IoT」という言葉が日本で最初に注目を集めたのは、2010年代半ばのことでした。日本政府の「Society 5.0」ビジョンを支える技術として、AIやロボット、5Gなどと並んでIoTが取り上げられたほか、海外の「インダストリー4.0」「IIoT(インダストリアルIoT)」といった動きも紹介され、一気に注目が集まったのです。
しかし、その後“IoTブーム”は沈静化しました。産業界では多くのPoC(実証実験)が行われ、成功事例を生んだものの、大半はいわゆる“PoC止まり”で終わってしまったと言われます。
いま、その流れが再び変わろうとしています。今年注目を集めている「フィジカルAI」がIoTと深い関わりを持っており、“IoTを再起動させる”きっかけにもなるからです。
フィジカルAIがIoTを「再起動」させる理由
そもそもフィジカルAIとは何でしょうか。フィジカル(physical)という英単語は「身体の」や「物理的な」といった意味を持ちます。フィジカルAIは、AIという頭脳にいわば“身体”を与え、現実世界(物理的な世界)との相互作用(インタラクション)を可能にするものです。
もう少し具体的に説明しましょう。ガートナーでは、フィジカルAIを次のように説明しています。
フィジカルAIとは、ロボットや車両、各種機械といった実機に対して、AIがセンサで周囲の状況を捉えながら学習し、自ら判断して装置を動かす(制御する)ための設計・開発のアプローチです。
(出典:ガートナー/フィジカルAIとは?従来のAIとの違いや活用例、将来性を解説)
従来のAIでは、データの入力も出力もデジタルの世界で完結していました。その一方、フィジカルAIは、現実世界の状況をセンサーから入力し、AIが処理した結果を、機械を制御して現実世界へと出力します。
もうひとつ、フィジカルAIは「現実世界とのリアルタイムフィードバック」も特徴としています。たとえば自動運転車用のAIが「自動車のハンドルを右に45度回す」制御を行うと、現実世界では「車が右に曲がる」変化が起こります。この変化をセンサーでとらえ、AIが再び判断し(もっとハンドルを回すか、戻すか)、次の制御を行う――といったフィードバックループを繰り返すことで、人間の身体と同じように、現実世界の状況に適応した制御ができるわけです。
ここまで説明すると、IoTとのつながりも見えてくるでしょう。フィジカルAIを“頭脳+身体”にたとえるならば、IoTはその身体の一部(“感覚器官”や“神経系”)だと言えます。現実世界の状態を捉え、何らかの相互作用を及ぼすフィジカルAIには、IoTの存在が欠かせないのです。
IoTが「知覚と行動の循環」を獲得する
さて、ここで主語を「フィジカルAI」から「IoT」にひっくり返してみるとどうなるでしょうか。「現実世界をとらえるIoTが、現実世界で『行動する』ための肉体と頭脳も手に入れた」ことになります。
実は、かつて多くのIoTプロジェクトが停滞した理由のひとつが「データを解析し、現実の意思決定につなげる」仕組みが未成熟だったことです。大量の生データが蓄積される一方で、それを生かすAIの知能や、それに基づいてアクションを起こす仕組みが不足していました。その結果、得られるビジネス価値も限定的でした。
フィジカルAIは、こうした従来の課題を解決します。IoTのセンサーデータを「観測」するだけにとどまらず、AIによって「即座に判断し、行動する」フィードバックループを形成するからです。人間を介さずに現実世界に影響を与え、その現実世界からさらに学習を続けることで、その能力とビジネス価値を持続的に高めていくことが期待できます。
* * *
AI技術が日進月歩の進化を続けていることは、誰もが実感しているところです。およそ10年前のIoTブーム時代には実現が難しかったことも、いまならば実現できるかもしれません。フィジカルAIがIoTを再定義し、再起動させる可能性は十分にあります。
自律的な“身体”を手に入れることで、IoTソリューションの価値基準も、より直接的に「どのようなビジネス価値をもたらすか」が問われるようになるでしょう。処理回数や消費量ベースではなく、成果報酬型のビジネスモデルが普及するかもしれません。
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