お金ズボラさんのための〝老後トク〟するお金の話②

知っているようで意外と知らない?押さえておきたい年金の基本

文●杉山幸恵

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 老後の生活を支える柱となる老齢年金。ミドルエイジのみなさんの中には、将来の受給額に不安を感じつつも、「まだ先の話だから」と、考えるのを後回しにしている人もいるのではないだろうか。しかし、受け取る年金の額は、自分がどのように働いて、どのように保険料を納めてきたかで大きく異なる。特に女性は結婚、出産などによる働き方の変化で納付の空白期間があることも少なくない。そして、いざ受け取るタイミングで「想定していたより少ない…」と思っても、時すでに遅し…という可能性も。ファイナンシャルプランナーの塚越菜々子さんは「年金は単に〝もらうもの〟ではなく、自分の行動次第で〝作っていくもの〟」と説明する。そこで、まずはどう〝作っていく〟のか行動に移すための、年金の基本構造についてわかりやすく教えてもらう。

老後に受給する年金は〝もらうもの〟ではなく〝自分で作っていくもの〟

 日本の公的年金制度は〝国民皆年金〟。日本に住む20歳以上のすべての人が国民年金に加入し、その働き方や暮らし方に応じて、次のように分類される。自営業者や学生などの第1号被保険者、会社員や公務員で国民年金に加えて厚生年金にも加入する第2号被保険者、その第2号に扶養されている配偶者である第3号被保険者。第1号被保険者に扶養されている場合は第3号にはならず、第1号被保険者となる。

 そして公的年金は国の社会保障制度の一つであり、障害年金や遺族年金に加えて、私たちが一般的に〝年金〟と呼んでいる老齢年金がある。

 「日本の年金制度は、〝2つの財布、3つの機能〟と考えるとイメージしやすいんです。2つのお財布というのは、〝国民年金の財布〟と〝厚生年金の財布〟。そしてそれぞれの財布に、〝老齢年金〟〝障害年金〟〝遺族年金〟という3つの機能があり、ここから先は〝老齢年金〟を年金として話を進めていきます。

 実際に年金を受け取る時は、自分がこれまでどの財布に保険料を払ってきたかによって、受け取れる額が決まります。国民年金と厚生年金の両方に加入してきた第2号被保険者は、老後には2つの財布から年金を受け取る、というイメージ。保険料を払っていれば、その分、それぞれの財布から年金が出るわけですね。なお、国民年金の財布には税金も使われています。

 国民年金は〝払う額も一律、受け取る額も一律〟で、金額が決まっています。一方、厚生年金は〝報酬比例〟といって、現役時代の収入や保険料の額に応じて、受け取る年金額も変わります。これが、日本の老齢年金の基本的な仕組みです」

 つまり年金は、これまでどんな形で制度に関わってきたかによって、受け取れる金額が人それぞれ異なってくる。だからこそ、まずは〝ねんきん定期便〟を確認することが、第一歩だと塚越さんは言う。

 「年金は〝もらうもの〟と思ってしまうと、自分の行動と将来の金額が結びつきにくく感じてしまうんですが、実は年金は保険と同じで、〝自分で作っていくもの〟なんですよね。どれだけ、どうやって年金にお金を払ってきたかで、受け取りがまず変わってくる、ということです。

 だからこそ一度しっかり見てほしいのが、ねんきん定期便です。ここには、自分がこれまで年金とどう関わってきたかが書いてありますし、50代以降になると〝65歳からいくら受け取れる見込みか〟も示されています。まずはそれを見て、自分がどんな年金の積み立て方をしてきたのか、どれくらい受け取れそうなのかを確認してみてください」

年金を〝いつから受け取るか〟の正解は、損得ではなくそれぞれの〝生き方〟にある

 ねんきん定期便で〝自分の今の状態〟を知ることができたら、次に気になるのは年金の受け取り開始時期、つまりは〝繰り上げ〟〝繰り下げ〟問題ではないだろうか。

 「原則65歳になると支給開始となる年金ですが、受け取りを繰り上げるか、繰り下げるかについては、〝損か得か〟で考えすぎないことが大前提です。なぜなら、人がいつまで生きるかは誰にも分からないから。年金には〝生きている限り受け取れる終身〟という、ほかにはない大きな特徴があります。結果として、長く生きた人ほど受け取る総額は多くなりますが、寿命そのものは予測できません。

 それなのに、〝どちらが得か〟を基準に考え続けてしまうと、答えの出ないことにとらわれてしまい、かえって不安が大きくなります。分からないものを分からないまま計算し続けるよりも、損得だけにこだわらず、自分の生き方や働き方、生活設計に合った受け取り方を考えるほうが大切です」

 塚越さんによれば、受給時期を判断する最大の基準は〝その時、お金が必要かどうか〟〝働いているかどうか〟だという。「基本的には、働いていて収入がある間は受け取らず、リタイアして必要になった時に受け取りを開始するのが理想的です」と語る。これを前提としつつ、繰り上げと繰り下げそれぞれのメリットやデメリット、注意点などを聞いてみた。

 「年金を前倒しで早く受け取る、繰り上げ受給。60歳まで繰り上げることができ、最大のメリットは、早く受け取り始められること。結果として、長生きすればするほど、受け取る期間が長くなる可能性があります。

 一方で、注意点もいくつかあります。まず大きいのが、障害年金との関係です。年金は〝1つの財布につき、1つの機能〟しか使えないため、老齢年金を繰り上げて受け取り始めると、その後に障害を負っても障害年金は受け取れません。

 重い障害の場合、本来は年金額が増えるケースもありますが、すでに〝老齢〟として受給していると、その増額は反映されないというリスクがあります。

 また、繰り上げ受給をすると、年金額は1か月あたり0.4%ずつ減額され、その減った金額は一生変わりません。将来、働けなくなったり、資産が減って生活が厳しくなったりしても、後から年金を増やすことはできない、という点も大きなデメリットです。

 さらに、もともとの年金額が少ない人にとっては、減額の影響がより重くなります。加えて、繰り上げの場合は国民年金と厚生年金を同時に前倒しする必要があり、どちらか一方だけを先に受け取る、という選択ができない点も注意が必要です」

 では、繰り下げ受給についてはどうだろうか。

 「繰り下げ受給は受け取る時期を遅らせることで、1か月あたり0.7%ずつ年金額が増えていく仕組み。たとえば65歳から70歳まで5年繰り下げると42%、さらに75歳まで繰り下げることで最大84%も増額。年金額が少なめな人にとっては、増えた金額を一生受け取り続けられるという点で、大きなメリットがあります。

 一方でデメリットもあります。繰り下げている間は年金を受け取らないため、その期間の生活費は、働いて得る収入か、貯蓄や資産の取り崩しでまかなう必要が。

 また繰り下げによって年金額が増えると、その分、税金や社会保険料が増えます。働いているかどうか、ほかに収入があるかによって、年金にかかる負担も変わってくるため、受け取りのタイミングは全体の収入状況を見ながら考えることが大切です」

 第2号被保険者が受給開始時に、扶養する配偶者や子どもがいる場合、厚生年金に上乗せして支給される加給年金についても聞いてみた。

 「例えば年上の夫が受給を繰り下げている間に妻が自分の年金を受け取り始めると、この加給年金がつかなくなる可能性があります。こうしたケースでは〝国民年金は繰り下げて、加給年金がつく厚生年金は65歳から受け取る〟といったように、受け取り方を柔軟に設計することが大切です」

配偶者が厚生年金に加入している場合は離婚後の〝合意分割〟も忘れずに

 現在、同居期間が20年を超えてから離婚する、いわゆる〝熟年離婚〟が全体の2割以上を占めているとか。その場合、自身が第2号被保険者の扶養である第3号の場合、また夫婦ともに第2号被保険者である場合は離婚時の年金分割についても知っておきたいところ。

 「婚姻期間中に第3号(扶養内)だった場合、その期間については、夫が積み上げてきた厚生年金の記録の半分が、自分の老後の年金記録に付け替えられます。これは原則として自動的に行われる仕組みで、手続きは必要ですが、相手の同意は不要です。相手が拒否することもできません。

 夫婦ともに厚生年金に加入していた場合は〝合意分割〟となり、夫婦それぞれの厚生年金の差額を、最大で50対50まで分けることができます。離婚時に現金でもらえるわけではなく、将来、自分が老後に受け取る年金額が増える、という形です。

 注意が必要なのは手続きの期限です。現在は、離婚してから2年以内に手続きをしなければなりません。離婚後は何かと慌ただしく、2年はあっという間に過ぎてしまいます。今後5年に延びる予定はありますが、現時点ではまだ2年なので、知らないと期限切れになってしまう可能性があります。

 実際、離婚後に〝夫の年金を分けられる〟ということ自体を知らない人も。一方で、分割できると聞いて、かなりの金額を期待してしまう人もいますが、実際に分けられるのは厚生年金部分の最大半分だけで、金額はそれほど多くないケースがほとんど。過度に期待しすぎないことも大切なポイントです」

 こういった年金の仕組みを知ることは、決して老後のためだけではない。それは〝今〟のお金の使い方を自由にすることにもつながっている。

 「公的年金は一生涯必ず入ってくる、最強のセーフティネットです 。たとえば老後、一人暮らしで月15万円あればなんとか暮らしていけるというラインが見えて、そこを年金でカバーできる目処が立てば、それ以上の貯蓄は今使っても大丈夫だという安心感に変わりますよね。

 人によっては老後のお金のことを心配しすぎて、今、いろいろと我慢しているというケースもあります。また、あの世に行く時が資産のピークという人も少なくないんです。

 だからこそ、まずは〝ねんきん定期便〟を確認する。そこから、何歳まで働いて、いつから年金をもらえば安心かという自分なりのライフプランを立ててみる。その土台さえ固まれば、必要以上に老後を怖がることなく、今という時間を全力で楽しめるようになるはずです」

 連載最終回となる第3回では、この老後の暮らしにさらなる安心をプラスする、〝年金の増やし方〟について聞いていく。

「家計のお金のこと、資産運用のこと、働き方と扶養のことなどにとことん寄り添う、〝身近にあるお金〟の専門家でありたい」という塚越菜々子さん。YouTubeチャンネル「FPナナコ【働く女性のお金の教養教室】」でも、専門的なことを噛み砕いてだれもがわかるよう発信している

2025年6月に発行された最新著書「ファイナンシャルプランナーのお金の知識『暮らしでトクする部分だけ』まとめました」(KADOKAWA)。FP1級の知識から〝暮らしのトク〟に直結する部分だけ抜き出して、誰にでもわかるよう優しくまとめた一冊だ

Profile:塚越菜々子

つかごしななこ/1984年、神奈川県生まれ。保険や金融商品を取り扱わない独立系ファイナンシャルプランナー。株式会社KANATTA代表。税理士事務所に15年間勤務し、500件を超える企業や個人の財務経理に携わる。2017年に独立後、「お金の悩みから解放され、自分の人生を思い通りに生きるサポートを」をモットーに、これまでに2800人以上の家計改善や資産運用を支援。「専門的なお金の知識をわかりやすく」をテーマにSNS発信にも力を入れ、「FPナナコ」名義で活動。YouTube登録者数は11万人を超える。多数のメディア出演があるほか、『書けば貯まる! 共働きにピッタリな一生モノの家計管理』(翔泳社)、『お金の不安をこの先ずーっとなくすために今できる46のこと』(扶桑社)、『「扶養の壁」に悩む人が働き損にならないための38のヒント』(東京ニュース通信社)などの著書も。

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