FAX→記事作成までをマルチエージェント化した内製アプリケーションの裏側
地方テレビ局が生成AIで記事作成を爆速に でもその裏で“10倍増えた”業務とは?
2026年02月20日 11時00分更新
チャットUIは思ったよりも“ユーザー負荷”が高い
一連の生成AI実装のポイントは、生成AIの代名詞ともいえる「チャットUI」をメインとしていないところだ。「あくまで北海道文化放送の場合だが、チャットUIは“ユーザー負荷”が思ったよりも高い。業務フローに組み込む場合は過剰な機能になってしまう」(杉本氏)
実際にそれを実感するきっかけもあった。AWSがBedrockをGAしたばかりの頃、杉本さんは生成AIで業務を変えようと偉い人に相談する。すると、「AIにチャットしている暇なんてない」と言われてしまう。杉本さんは「結構、的を射ているな」と納得したという。
「少なくともチャットUIは“面倒なもの”だと思われている。だからこそ、システムの裏側に生成AIを組み込み、意識せずに使わせることで利便性を浸透させた。ようは、生成AIを使いたいわけではなく、業務改善をしたかった」と杉本さん。
もうひとつのポイントは、前述の通り、2種類の原稿を同時出力していることだ。ほぼ操作なしで生成AIが即座に出力する「スピード重視の原稿」と、エージェントによって「質を高めた原稿」から選択できる余地を残している。さらに、生成後に精度を高めるためのチャットUIも用意しているが、現状は手で直す人の方が多いそうだ。
他にも、原稿生成中はストリームレスポンスにせずに、「生成中…」と表示するだけにしている。これは出力を待っている間に、他の作業に移行して欲しいという細かな工夫だ。
目論見通り記事作成は爆速になったが……
2024年にこうした仕組みの大枠を構築し、ブラッシュアップを続けてきた。実際にどのような変化が生まれたのか。運用後のWeb記事の作成数は、2023年と比べて16.8%増、それに応じてPV総数も13.3%伸びているという。これはチームの人数が削減されている中での成果だ。
生成AIへの理解も深まっている。かつて「AIとチャットしている暇はない」と言われた偉い人には、この取り組みを人事考課にまでつなげてもらった。
こうした仕組みをひとりで開発してきた杉本さんが気をつけてきたのは、シンプルな設計に徹することだ。「基幹システムになり得る機能が要求に挙がっても、あえて盛り込まないようにしている。現時点の体制は、保守・継続性がないため、“使い捨て”できる仕組みを心掛けている」(杉本さん)
最後に杉本さんは、現状頭を抱えている問題を共有した。当初の目論見通り、原稿を容易にかつ迅速に作成できるようになった。夜当番の経験が乏しい記者に限ると、記事作成数が10倍に増えたほどだ。ただ、報道機関としてなくすことができないのが原稿チェックのプロセスである。原稿が増えた分、最終確認をするデスクの作業量が“10倍”に膨れ上がってしまったのだ。
杉本氏は、「現状、デスクの負担が高く、まさに火を噴いている状態。校正やファクトチェックを補助できる仕組みを模索しているため、ぜひ知恵を貸して欲しい」と会場に呼びかけ、セッションを締めくくった。






















