起業家・西﨑彩智さん/主婦歴20年、時給800円のパートで再出発。片付け講座から家族と社会を支える人へ

文●源詩帆  編集/山野井春絵

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株式会社Homeport代表取締役 西﨑彩智さん

「片付けの専門家」、株式会社Homeport代表取締役の西﨑彩智さん。約20年間専業主婦として家事育児に専念したが、夫のリストラを機に最低賃金で社会復帰。離婚も経験した。現在はメディア出演も数多い西﨑さんだが、夫もお金も失った専業主婦がどのようにして起業家として成功を収めたのか。西﨑さんのライフシフトの軌跡を追う。
 

専業主婦20年を経て、時給800円のパートから人生の再出発

家を綺麗に保ち続けたという専業主婦時代。

 結婚、出産を機に退職し、20年間専業主婦として過ごしてきた西﨑さん。44歳で人生が大きく動き出した。

「娘が私立高校、息子が中学進学のタイミングで、夫がリストラされました。私は、職歴もパソコンスキルもない中、時給800円でヨガスタジオの受付パートを始め、子どもたちの学費や生活のために必死でした」

 その間、綺麗に保たれていた家は荒れ、目を背けるようにさらに働いた。だが、思いがけない喜びもあった。

「受付業務を通じて、女性たちの悩みを聞くことで売上が伸びました。専業主婦の世界から一歩出るのはとても勇気がいることでしたが、出てみたらお金ももらえて、褒めてもらえる。衝撃でしたね」

 夫婦関係は悪化の一途をたどり、46歳で離婚。慰謝料も養育費もなく、一人で家計を支えることになった。ヨガスタジオの正社員として店長に昇進した47歳の時、ある思いが芽生えた。

「自分のこれからの人生を考えた時、転職はもう難しい。コーチングとセールス、起業を学びたいと思い、48歳になるタイミングで起業塾に入りました。セールスを学ぶと、意外とうまくいって。思い込みが激しいとよく言われるんですが(笑)、『48歳、干支の年って私の年なんだから、何かいいことがあるかもしれない。起業しよう』と決意しました」

 その後、ひょんなことから、家族の後押しもあって再婚。ヨガスタジオを退職し、起業に向けて動き出した。

訪問型から講座形式へシフト。3年で年商4桁に

福岡の自宅で、少人数制の講座からスタートした。

 新卒でインテリアコーディネートの仕事をしていたこともあり、主婦時代は片付けや居心地のいい空間作りが得意だった西﨑さん。今までやってきたことを見直して自分の価値を考え、「片付け」をテーマに2015年、個人事業主として動き出した。

 「良いものができたから誰かが買ってくれるのではなく、お客さんのニーズから商品を作る。どこまで本質的にニーズを捉えられるかが重要だと起業塾で教わりました。当初は訪問型で、ご依頼主に代わって片付けをするスタイルでしたが、一番大事な最後の2割の片付けを前に『前よりは綺麗になったから』と途中で断られることが多々ありました。新規営業をしても『家族には秘密で進めたいから』と家に上がらせてもらえないことも。私一人の労働力にも訪問型ビジネスにも限界を感じていました」

 そこで大きく舵を切った。

 「まずは私の家の写真を見せて、片付けの方法を教えてみました。でもやはり最後の2割の片付けを残して、継続できない方が増える。そこで、私と一対一で進めると離脱してしまうなら、仲間と一緒に進めれば最後までやり切れる人が増えるのでは、と思いつきました」

 10名ほどのグループで片付けのレッスンを行い、各自、自宅で課題に取り組むスタイルに変えた。すると、仲間と切磋琢磨することで最後までやり切る人が急増。現在の片付け講座の原型が生まれた。

 個人事業主として活動し始めて約3年後、西﨑さんの講座は順調に生徒数を伸ばし、瞬く間に年商4桁まで成長、2019年に法人化した。訪問型の個別サービスから講座形式のグループ支援に切り替えたことで、労力を抑えながらより多くの人に価値を提供できるようになった。何より、片付けを最後までやり遂げられる仕組みがリバウンドを防ぎ、リピートや口コミにつながった。

「追われないと人は動かないし、本気では考えない」

「娘の言葉が大きな支えになっています」と笑顔で語る西﨑さん。

 現在、メディアでの連載、取材、出版、テレビ出演、講演会での登壇、海外進出と、多方面から注目を集める西﨑さんの原動力とは?

 「生きていくために覚悟を決めてやるしかなかった。私の場合、ありがたいことに子どもの学費の支払いが定期的に追いかけてくれるからこそ、どうにかしなきゃいけない、どうしたらいいんだ、と必死に考え、行動するしかなかったんです。正直、それがなかったらここまで本気にはならなかったかもしれません。追われるから人は考えるんですよ。追われないと人は動かないし、本気では考えないものです」

 子どもたちの存在は、大きかった。

 「前夫と離婚した日、息子から『前みたいに友達を呼べる家にしたい』と泣きながら言われたんです。その時、家が荒れていることで子どもたちにもつらい思いをさせていたんだと気づかされました。片付けは単なる作業でもノウハウでもなく、家族の人生を写し出し、生き方に影響を与える物なんだと」

 また、ある大きな決断に悩んでいた際に、娘に言われた言葉も忘れられない。

 『その一歩、踏み出しても今さら失うものなんてないよ。だってうちにはお金がないんだから、奪われるものもない。でも住む家はあるし、ママには仕事もある。失敗して傷つくのが怖いって言っても、2週間くらい泣いたら乗り越えられるよ。もしかしたらもっと幸せになれるかもしれない。それを取るのか、2週間泣くのが嫌で諦めるのか、どっちがいいと思う?最悪、2週間一緒に泣いてあげるわ』

 その言葉を聞いて、西﨑さんは「失敗しても生きてはいける。死ぬことはない。だったら、挑戦してもいいんじゃないか」、そう思えるようになった。

 「私が子どもたちを育ててくのだという強い思いに突き動かされてきましたが、実は、子どもたち2人が勇気と気づきをくれていたんですよね。でもここだけの話、『前夫の年収を超えてやる!』という自分の中で決めた目標も、大きな原動力になりましたね」

片付けは女性だけのタスクではない。男女相互理解の社会のため、代弁者へ

男子校での講座。「片づけの重要性について、中高生が熱心に耳を傾けてくれました」

 40代からの人生を、起業家として駆け抜けてきた西﨑さんに、今後の展望を聞いた。

 「起業してから、片付けにはコミュニケーションやパートナーシップも重要であると気づき、体現的に学びました。その経験から、女性の大変さや生きづらさを代弁して男性に伝え、逆に男性の悩みも聞いて、女性に伝える。そうした男女の相互理解の場を、社会や企業の中に作っていくことを目標としています」

 女性の社会進出は進んだ。しかし、パートナーの協力なしでは続かないことが多い。

 「家の中はぐちゃぐちゃで、子どもたちのケアをする余裕もないご家庭も増えています。その結果、学校に行きにくくなるきっかけが生まれ、不登校児も増加しています。ある経営者の方は『不登校になったら、会社に連れてきてもいい』という制度を作ったと言いましたが、私がやりたいのは社員のお子さんが不登校にならないような社会にすること。働く女性、男性社員のご家族のために、私の経験や考えを伝えていきたいです。片付けは家族というチーム、組織を回していくことで、それは会社経営と同じ。そういった相互理解の社会を作っていくことが私のこれからの目標です。女性が働くことは、『女性のチャレンジ』ではない。『家族のチャレンジ』なんです」

 また、次世代教育の一環として、中高生へ向けた講座も開催している西﨑さん。「これからの時代を担う若い世代にも片付けの重要性を伝えていきたい」と語っている。今できることを惜しみなく伝えていく。その強い決意が、言葉の端々から感じられた。

著書『人生が変わる片づけの習慣 片づけられなかった36人のビフォーアフター』(朝日新聞出版)。片付けで人生を変えた実例が詰まった一冊。

 

Profile:西﨑彩智

にしざき・さち/株式会社Homeport代表取締役。

自らの経験や片づけ代行の仕事から培った独自の片づけメソッドをもとに、2015年9月「お片づけ習慣化コンサルタント」として福岡で起業。家を丸ごと45日間で片づける「家庭力アッププロジェクト®」を2018年1月からスタート。2019年2月に法人化し、2021年11月に東京・港区に東京オフィスを開所する。2021年9月には一般社団法人 日本お片づけ教育推進協議会を設立し、代表取締役に就任。2023年5月にはアメリカでも講座を開催するなど国内外の受講生は2026年1月現在3,600人を超え、企業や学校での講演も多数開催。著書に『部屋がゴチャゴチャで、毎日ヘトヘトなんですが、二度と散らからない片づけのコツ、教えてください!』(すばる舎)や『人生が変わる片づけの習慣』(朝日新聞出版)などがある。


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