ミドルエイジから考えたい〝おひとりさま〟の老後③

遺言書から任意後見制度まで、おひとりさま老後のために備えておきたいこと

文●杉山幸恵

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 ミドルエイジに向けた老後のことを考えるための連載シリーズ。第1回では誰もがおひとりさまになる可能性があるということ、第2回では人生後半戦のご褒美タイムとして作戦会議をする必要性を、司法書士の太田垣章子さんに聞いてきた。そして最終回となる第3回では、理想の人生を最後まで守り抜くための具体的な備えについて教えてもらう。ご褒美タイムに安心をプラスするための武器とは何なのか。「老後はまだ先の話」とは思わず、まずは知ることから始めてみてはどうだろうか。

エンディングノートはあくまで頭の整理のため、遺言書を残しておくのがベスト

 老後の備え、終活と聞いて、まず思い浮かぶことの一つにエンディングノートがあるはず。エンディングノートとはもしもの時に備え、家族がさまざまな判断や手続きを進める際に必要な情報を記すためのもの。しかし、太田垣さんは「ノートだけでは不十分」と話す。

 「エンディングノートは、自分の希望を残しておくツールとしては非常に優秀です。しかし、法的拘束力はありません。例えば延命治療に関する意思を記載したとしても、正式なものではないとして、医療の現場では尊重されないこともあります。

 また預貯金を誰に託すか、不動産をどうするかといった財産に関わることにも強制力なし。では、エンディングノートがまったく役に立たないかと言えばそうではありません。今は多くの人がスマホのほか、SNSのアカウントやデジタルデータを持っています。

 それらにアクセスするためのIDやパスワードを記録しておくのにエンディングノートは最適。高齢になって記憶力が低下することがあるかもしれません。もしくはあなたの死後に家族や親族が必要になる場合も。セキュリティには十分に注意をしたうえで、記録しておきましょう」

 エンディングノートはあくまで〝頭の整理用〟と認識しておくべきと太田垣さん。公的に備えるためには遺言書を作成しておいたほうが安心だという。

 「もし遺言書を残さずにあなたが亡くなったとします。そしておひとりさまのあなたが築いていた財産を分け合う家族がいなかった場合、そのお金は最終的に国庫に入ります。もし大した財産じゃなかったとしても、寄付をはじめ、自分のお金の行先を自分で決めたくないですか?そんな場合は遺言書を残しておくべきでしょう。

 遺言書には大きく分けて自分で書く自筆証書遺言と、公証人が書面を作成する公正証書遺言がありますが、紛失や改ざんのリスクがなく、死後の手続きがスムーズな公正証書遺言を強くおすすめします」

任意後見制度と死後事務委任をセットで契約しておくと老後も死後も安心

 遺言書は〝残した財産をどうするか〟というものだが、それ以外の〝死後のあれこれをどうするか〟はまた別の話。葬儀や火葬、納骨のほか、各種役所の手続き、口座引き落としの停止、契約の解約など、やるべきことは枚挙にいとまがない。

 おひとりさまはもちろん、疎遠となった親族などの手を煩わせることを避けたいのなら死後事務委任契約を結んでおくのが賢明だ。この契約は前述した死後に発生する各種事務手続きを行ってくれるもの。第一回で説明した行旅死亡人として無縁仏に…という最後も避けることができるはずだ。

 「ただ、一点注意が必要です。それは亡くなったことを受任者がどう知るかということで、一つは家族が知らせる、もう一つは生前から本人のことをサポートしているの2択。つまり死後事務委任契約だけ結んでいても、実際には契約者の死が受任者に伝わらずに死後事務が行われないというケースもあるんです。

 そこでおすすめするのが任意後見制度とセットで契約をすること。後見制度と聞くと、『自由がなくなる』などネガティブな意見をよく耳にします。でも、それは法定後見と混同しているから。判断能力を失ってから、裁判所が代理人を決めるのが法定後見制度です。これは本人の意思が確認できない状態からスタートするため、財産の使い道に厳しい制約がつきます。

 一方、ミドルエイジのみなさんに知ってほしいのは任意後見制度。これは、まだ元気なうちに、信頼できる受任者を自分で選び、『もし自分が認知症などで判断能力が落ちたら、このお金でこういう暮らしをさせてほしい』とあらかじめ契約を結んでおくものです」

 任意後見は、弁護士や司法書士、社会福祉士、税理士といった専門職や法律、福祉に関わる法人などが受任することが一般的。いわば〝自分専用の人生プロデューサー〟を指名しておくようなもの。後見の開始時期は自分の状態次第であり、判断能力があるうちは何の制約も受けない。

 「〝自分が納得した相手〟に、〝判断能力が低下したあと〟の〝自分の望む生活〟を託す。この準備があるだけで、おひとりさまの老後の安心感は劇的に変わります。しかし、任意後見制度は委任契約なので、本人が亡くなったら契約は終了します。そのため後見人は、亡くなった後のことをしてあげられません。そこで死後事務委任とセットで契約するケースが多いのです」

いつかは突然やってくる。いざという時の医療やケアについて考える人生会議が大切

 いざという時に延命治療を望むのかどうかなど、〝医療との向き合い方〟も、人生後半戦のことを考えるうえで重要な課題だ。

 「『自分はどこまでの治療を受けたいのか』を考えることも必要。これはACP(アドバンス・ケア・プランニング)と呼ばれ、日本では〝人生会議〟という名称で知られています。要するに、自分の人生の最終段階について、普段から考え、話し合っておこうという考え方です。

 ただし、治療に対する考え方は固定されたものではありません。今は『延命治療は受けたくない』と思っていても、いざ命の瀬戸際に立てば、『やっぱりまだ死にたくない』と気持ちが変わることも十分にありえます。反対に、延命治療を望んでいた人が、『もう十分だ』と思うようになるかもしれません。人の気持ちは、その時々で変わるものだからです。

 だからこそ、人生会議は一度決めて終わりではなく、常に更新していくものだと考える必要があります。家族と話し合うことも大切ですし、介護が始まったらケアマネジャーと、医療が関わるようになったらかかりつけ医や病院の医師と、その都度話し合いを重ねていく。頭がはっきりしている間に、こうした対話を続けておくことが重要です。医療制度や選択肢も、時代と共に変わっていくからこそ、定期的に見直す意味があります。

 これまでの日本では、『死の話をするのは縁起が悪い』『お金の話をするのははしたない』といった風潮がありました。しかし、人生の最終段階は誰にとっても自分自身の問題です。どう生き、どう最期を迎えたいのかを、自分で決めたいと思うのは自然なことではないでしょうか。

 どんなことを決めておくべきかを考えるにしても、80代になってから『考えてください』と言われるより、40代・50代の頭がクリアなうちのほうが、具体的に想像し、整理することができます。若い世代のほうが感度も高く、選択肢を冷静に検討できる。だからこそ、人生会議はできるだけ早い段階から始め、折に触れて見直していくことが大切なのです」

 また、おひとりさまの状態で倒れてしまった時のためにスマホの機能を活用することを、太田垣さんは強く推奨する。

 「救急隊員の方に話を聞くと、現場で身元不明の人が倒れていたら、まずiPhoneのメディカルIDやAndroidの緊急情報などをチェックするそうです。これらはスマホのロック解除をしなくても、電源を切ろうとすると画面に表示。持ち主は設定していれば緊急連絡先を確認することができます。血液型や持病などのほか、延命治療に関する意思も登録しておくと安心です」

 ただし、ここまでの話は「倒れていることに気づいてもらえたら」の話。おひとりさまが自宅で倒れていても気づかれず…手遅れにというケースもあるかもしれない。そんな時のために見守りサービスなどもあるが、太田垣さんは現在、試験的に友人とLINEグループを作って、簡易的な見守りをしているそうだ。

 「そのグループでは、LINEのノート機能を使って、各自の基本情報をまとめています。たとえば、名前や生年月日、血液型、家族の連絡先、所属先や勤務先の電話番号、賃貸に住んでいる人であれば管理会社の連絡先など。念のため、延命治療に関するリビングウィルについても簡単に書いてあります。通常のトークだと情報が流れてしまいますが、ノートにまとめておけば、いざという時にすぐ確認できます。

 さらに、毎日お昼の12時までに、そのグループにスタンプを一つ送ることをルールにしています。コメントは不要で、スタンプだけ。これを生存確認にしています。もし12時を過ぎても反応がなければ、まず本人に連絡し、それでも連絡がつかなければ、ノートに書いてある緊急連絡先に連絡する、という流れです。

 こうした習慣は、70代、80代になってから『さあ始めましょう』と言っても、操作がわからなかったりして続きません。デジタルツールを使いこなせるミドルエイジのうちから、遊び感覚で練習し、身に付けておくことが大事なんです。

 こういった友人同士での簡易的な見守りは、一つの選択肢になります。グループの属性は異なりますが、それぞれ家族や管理会社など、状況に応じた連絡先を共有しています。見守りの形は、人それぞれの生活スタイルによって違って当然です。でも、〝こういうやり方もある〟という一例として、友人同士のゆるやかな見守りを取り入れてみるのは、決して悪くない選択だと思います」

 人生後半生のご褒美タイムをよりよいものにするための備え。今すべきなのは、まずどんな制度があるか知り、理解しておくこと。いざという時のために知識を蓄えておくことで、老後のリスクが一つずつなくなっていくはず。そうすれば、あとは思い切りご褒美タイムを満喫するだけ。残りの人生を最高のものにするために、今この瞬間からアクションを起こしていこう。

「住まいは生きる基盤」を掲げ、〝人生100年時代における家族に頼らないおひとりさまの終活〟を提言する太田垣章子さん

2025年12月に発行した最新著書「『最後は誰もがおひとりさま』のリスク33」(ポプラ新書)。その豊富な経験や知見をもとに2023年に出版した「あなたが独りで倒れて困ること30」をもとに、大幅に加筆修正した一冊だ

Profile:太田垣章子

おおたがきあやこ/司法書士、賃貸不動産経営管理士、合同会社あなたの隣り代表社員。30歳の時、生後6か月の長男を抱えて離婚、働きながら6年の勉強を経て2001年司法書士試験に合格。2006年に独立し、2012年事務所を東京へ。18年間の事務所経営を経て、2024年より顧客に寄り添ったコンサルティングをするためフリーとなる。これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた、賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。現在は「住まいは生きる基盤」をモットーに、住まいを中心とした終活に関するコンサルティングに従事。頼るべき親族がいない、頼りたくないという高齢者のサポートにも注力している。「家賃滞納という貧困」「老後に住める家がない!」「『最後は誰もがおひとりさま』のリスク33」(すべてポプラ社)などの著書がある。

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