
労働人口の減少が続く日本では、あらゆる業種の企業で「人手不足」が問題になっています。そこで期待を集めているのが、人間が行ってきた業務を自動化するのに役立つAI技術です。最近では、自律的な判断に基づいて高度な業務処理をこなせるAIエージェントも登場し、導入が急ピッチで始まりつつあります。
ただし、AIが何らかの判断を下すためには「情報(データ)」が必要です。もともとデータ化が進んでいるオフィス業務と異なり、製造/建設/物流/小売/介護などの現場業務をAIに支援してもらうためには、現場の状況を自動的にデータ化してシステムに取り込む仕組みが必要です。
そこでIoT技術が活躍することになります。一般的には、センサーやカメラを内蔵したIoTデバイスが現場の状況をデータ化し、インターネット経由でクラウド上のシステムに送信/蓄積して、AIが判断を下すといった組み合わせになります。
それでは、今回のテーマである「人手不足」を、IoT×AIの仕組みでどう解消できるのでしょうか。いくつかの事例を見ながら考えてみましょう。
●現場の安全監視:現場を監視するIoTカメラや、現場作業員が身に着けるウェアラブルIoTデバイスなどからリアルタイムにデータを収集して、危険エリアに人が侵入していないか、作業員の転倒や熱中症のリスクはないかなどを監視します。
また、設備や機械の正常稼働を監視するケースもあります。こちらでは、設備や機械が内蔵するセンサー、後付けで取り付けた各種センサー(振動/温度/電流/圧力など)からデータを取得して、AIが判断を行います。
長時間にわたる監視業務を人間が行うのは、非常に高コストです。IoT×AIの仕組みならば、遠隔から少人数で、24時間体制で監視を行うことが実現できます。また、リアルタイムで危険や異常を監視するだけでなく、蓄積したデータを分析して現場業務の改善や最適化につなげたり、などに生かすことも可能です。
■神戸の劇場型アクアリウム「átoa」を支えるIoT ソラカメで動物の生態研究も
■スマート保育園を実現するユニファと、IoTプラットフォームのソラコムが語る「テクノロジー×ビジネスの融合」
●現場の遠隔作業支援:現場作業員が装着したウェアラブルIoTカメラの映像を見ながら、遠隔にいる熟練作業員が指示を出し、作業を支援するというものです。少人数の熟練作業員が現場に足を運ぶことなく、多くの現場作業に立ち会えるため、こちらも高いコスト効果が見込まれます。
ここにAIによる物体認識、生成AIによる会話の記録や要約を組み合わせることで、現場作業のマニュアルや教育コンテンツを自動生成するような取り組みも行われています。
●現場の技能継承:熟練作業員の技能をカメラやセンサーを使ってデータ化し、AI分析することで、言語化しにくい暗黙知、つまり“感覚的なコツ”を他の作業員が学べるようにするものです。
従来、こうした技能継承は対面で行われていましたが、これならばリモートでも(さらにはリアルタイムでなくとも)継承が可能になります。またビデオ映像だけでなく、センサーデータを組み合わせることで、より感覚的な部分が伝わりやすくなります。取り組みとしては複雑ですが、実現すればその価値は高いものになります。
* * *
今回は“人手不足に効く”IoT×AIのビジネスアイデアを考えてみました。人手不足はあらゆる業界に広がっているため、ソリューションに対するニーズは高いはずです。また、IoT×AIで業務負荷を軽減したぶん、より重要な“人間が本来やるべき業務”に専念することができ、社会的にも意義のある取り組みになることが期待できます。
この連載の記事
-
第12回
デジタル
製造業からヘルスケアまで、IoTだからこそ実現できる「予知・予兆型ビジネス」 -
第11回
デジタル
「エッジAI」がIoTシステムの適用範囲/ユースケースを拡大する -
第10回
デジタル
IoTの“エッジ”とは何か? なぜエッジでのデータ処理が必要なのか? -
第9回
デジタル
なぜIoTビジネスは「現場」から生まれるのか 現実世界をデータ化し、制御できることの価値 -
第8回
デジタル
モノ(製品)を通じたサブスク型ビジネスの実現 鍵を握るのは「IoT」の要素 -
第7回
デジタル
「後付けIoT」手法が適しているケースとは? 過去の事例から知る -
第6回
デジタル
ビジネスとIoTが出会うとき ― 適しているのは「組み込み」か「後付け」か? -
第5回
デジタル
IoT設計/開発のセキュリティガイド おすすめの2つをどう「使う」べきか -
第4回
デジタル
IoT設計/開発では特に大切な「セキュアバイデザイン」の考え方 -
第3回
デジタル
IoTシステムがサイバー攻撃に遭ったら? 提供側のビジネスリスクを考える
