第12回 シン・IoTの教室:ビジネスに活きる つながるモノの世界
「リモートからのリアルタイムな状況把握」と「予測型AI」があらゆる業界で新サービスを生む
製造業からヘルスケアまで、IoTだからこそ実現できる「予知・予兆型ビジネス」
IoTを活用したビジネスにおいて、ひとつの大きな潮流となっているのが「予知・予兆型ビジネス(サービス)」です。
ここでは、リモートにあるデバイスからデータを継続的に取得できるIoTの特徴と、「予測型AI」を生かすことで、幅広いジャンルのビジネスにおいて、従来は実現できなかったタイプのサービスが実現しています。
たとえば製造業の現場では、生産設備や産業機械が故障する前に異常を察知して、予期せぬ操業停止を防ぐ「予知保全型メンテナンスサービス」が実現しています。
具体的には、振動や温度、電流などのセンサーを設備や機器に取り付け、そのセンサーデータを継続的に収集し、予測型AIで分析を行います。障害の発生原因となる異常(部品の劣化など)を早期に検出し、部品調達や工事の計画を立てることで、予知型のメンテナンスが実現するわけです。
予期せぬ操業停止を防げる点が最大のメリットですが、それだけではありません。従来は、突然の故障発生を防ぐために定期的な部品交換が必要であり、「まだ使える」部品が無駄になることも多くありました。予知保全型メンテナンスならば、こうした無駄な部品交換を減らせますから、メンテナンスコストの節約も実現します。

小売流通やサプライチェーンの世界では、在庫量の自動把握に基づくスマート発注も実現しています。倉庫の棚やパレット、マットなどに、重量やRFIDのIoTセンサーを組み込み、POSレジ(小売業の場合)データなどと組み合わせて在庫の減り具合を把握し、自動的に発注を行う(サプライヤーが補充を行う)仕組みです。
こちらでも、予測型AIが需要予測を行うことで、過剰な在庫を抑えつつ「在庫切れ」を回避する、供給の安定化が実現できます。これにより、小売店舗での販売機会の逸失、サプライチェーンに起因する納期遅れなどを防げます。またサプライヤー側にとっても、需要の変動を正確に捉えながら生産や納品が行えるようになり、お互いにメリットがある仕組みが実現します。
より高度な予知・予兆型ビジネスとしては、保険業界(自動車保険、健康・生命保険)での新しい取り組みが挙げられます。これまで保険業界では、事故や病気・ケガが一定の割合で発生することを前提として、保険料や補償額を算定してきました。しかし現在は、IoTを活用することで「事故や病気を未然に防ぐ」ことをより重視したサービスを展開しています。
たとえば自動車保険では、スマートフォンや車載IoTデバイスを使って保険加入者の“安全運転スコア”を算出するサービスが登場しています。事故リスクの高い(=運転が危険な)ドライバーにはリアルタイムに警告を行い、事故リスクが低い(=安全運転を行っている)ドライバーには保険料の割引を適用することで、加入者が安全運転を心がけるよう誘導します。こうした仕組みで事故発生を減らせば、保険会社からの補償金の支払いも減り、さらなる保険料の低減につなげられるわけです。
生命保険・医療保険についても同様です。保険加入者にスマートウォッチや活動量計といったIoTデバイスを着用してもらい、日々の歩数や運動量、心拍数、睡眠時間などのデータを取得して、健康増進のための行動を行っている加入者には、保険料割引やポイント付与などの特典を与えます。こちらも、IoTの仕組みがあるからこそ実現する、新しいタイプの保険サービスと言えるでしょう。
* * *
このように、予知・予兆型ビジネスは「IoTによるリアルタイムなデータの収集(状況把握)」と「予測型AIによる蓄積データの分析(将来予測)」によって、これまで実現が難しかった「プロアクティブな(能動的な)サービスの実行」を実現するものです。サービスの受益者側にもメリットをもたらすことができれば、ビジネス競争力の強化につながります。
今回紹介した代表的な例のほかにも、さまざまな業界で、IoTを活用した予知・予兆型ビジネスが生まれています。それを実現するためのIoTデバイスやIoTプラットフォーム、予測型AIのクラウドサービスなどはすでに成熟していますから、あとはそれを新たな領域に適用するアイデアだけが求められている、と言えるでしょう。
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