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業務を変えるkintoneユーザー事例 第302回

“稼げる会社”へ転換すべくこだわった、従業員ファーストな“仕組みづくり”

給与20%増達成で社員の人生も変えた 平均年齢64歳の地方バス・タクシー会社はkintoneで未来をつなぐ

2025年12月15日 07時00分更新

文● 柳谷智宣 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp 写真●サイボウズ

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 「とんでもないところに来てしまった」―― ある地方バス・タクシー会社の社長は、ドライバー不足と平均年齢64歳という高齢化により追いつめられていた。ドライバーが“未来を描ける職場”にするための施策も、現場に混乱を招いてしまう。救世主となったのは、kintoneとパートタイマーの女性だった。

 サイボウズの年次イベント「Cybozu Days 2025」において、この1年で最も優れたkintone事例を決める「kintone AWARD 2025」が開催された。

 トリを務めたニコニコ観光の漆川敏彦氏が語ったのは、従業員ファーストなシンプルな“仕組み化”で会社を立て直し、kintoneで社員の人生を変えるまでに至った物語だ。

ニコニコ観光 代表取締役社長 漆川敏彦氏

20年更新されない就業規則に、猫が歩きまわるオフィス 平均年齢64歳の現場で上がった改革の狼煙

 地方の運輸・交通業界が直面する現実は厳しい。恒常的なドライバー不足、そして深刻な高齢化。広島県福山市のニコニコ観光も例外ではなかった。同社はタクシーやバス、旅行業を手掛ける、創業65年目になる老舗企業だ。

 社長の漆川氏は8年前、異業種である人材ビジネス業から同社に飛び込んだ。「とんでもないところに来てしまった」 ―― それが漆川氏の偽らざる第一印象だった。

 着任した当時、従業員数は45名で平均年齢は実に64歳。高齢化が極端に進んだ職場であった。事務所の2階は書類置き場と化し、猫が子供を産んでいる有様。就業規則は20年前から更新されていない。出勤初日には、70歳と74歳のドライバーが取っ組み合いの喧嘩をしている現場を見せつけられた。人材ビジネスの最前線から来た漆川氏にとって、あまりにも衝撃的な光景だったという。しかし、家族を連れて移住しており、もう後には引けなかった。

「もうやるしかないと、とにかく前を見て、ひとつひとつ課題を整理することから始めました」(漆川氏)

8年前に入社した漆川氏が直面したさまざまな課題

 最大の課題は、やはりドライバー不足と高齢化である。給与水準の低さやシフト制という勤務形態に加え、同社の場合は60代・70代のドライバーが、年金を受給しながら働いていた。仕事への向上心やモチベーションを維持することは難しい環境だった。

 漆川氏は、“稼げる環境”が整えられれば、若い人材が戻ってくるだろうと考えた。そこで、未来を変えるための3つの施策を展開する。

 ひとつ目が、収入が安定しやすい「送迎部門」の立ち上げだ。タクシー・バス事業は繁閑の差が激しかったためだ。2つ目が「ドライバーの多能工化」だ。これまで、バスドライバーはバス、タクシードライバーはタクシーと縦割りだったのを、垣根を越えて活躍できる体制を築いた。

 3つ目がワーク・ライフ・バランスを実現するための「完全希望休制度」の導入だ。業界では通常、会社がシフトを決めているが、ドライバーが休暇を申請し、それを基にシフトを組む制度を導入した。

社員ファーストの取り組みとして3つの施策を実行した

良かれと思って導入した「完全希望休制度」で現場は大混乱

「よし、これで真の従業員ファースト、ドライバーの稼げる環境とプライベートの充実が図れると思いました。しかし、まったくうまくいきませんでした」(漆川氏)

 結果、現場は大混乱に陥ってしまう。特に「完全希望休制度」がアナログ管理の限界を露呈させた。ドライバーから毎月、紙で提出される勤務希望を事務スタッフが手作業で転記し、ホワイトボードに張り出す。人の手が何度も介在するため、ホワイトボードへの張り忘れや紙の出し忘れ、転記漏れといったヒューマンエラーが続出した。「結果、私は仕事を作ったのではなく、無駄な作業を生んでしまったのです」と漆川氏。

よかれと思った「完全希望休制度」が混乱を引き起こす

 そんな中、ある社労士から「kintone」の存在を耳にする。漆川氏は、わらにもすがる思いで導入し、まずはタクシーと送迎の案件情報をkintoneに集約することから始めた。紙の台帳で管理していた情報が、スマートフォンからでも見られるようになり、漆川氏は感動する。ただ、またもや事態は好転しなかった。「整備しようと思った車がない」「仕事があるのにドライバーがいない」といったトラブルが多発したのだ。

kintoneを導入しただけでは課題は解決できなかった

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