CL32の低レイテンシーメモリー「Crucial Pro DDR5-6400 CL32」の実力を検証

文●飯島範久 編集●北村/ASCII

提供: マイクロンジャパン

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 パソコンのメモリー選びにおいて、多くの人が「32GB」などの容量や「6000MT/秒(場合によってはMHzと表記されるケースもある)」といった転送レートだけに目を奪われがちだ。しかし、パソコンの動作の軽快さ、とりわけ「サクサク感」やゲームプレイ時の快適さを左右する隠れた重要ステータスが存在する。それが「レイテンシー(CL)」である。

 今回は、高速かつ低レイテンシーである「Crucial Pro DDR5-6400 CL32」という製品を紹介するとともに、このレイテンシーの重要性とスペックの意味について解説する。

低レイテンシーを選ぶメリットとは

パッケージを見ると、容量だけでなく転送レートやレイテンシー、動作プロファイルについても記載されている

 まず、レイテンシーとは何かをざっくりと説明しよう。レイテンシーを一言で表わすなら「反応速度」のことである。メモリーの性能はいろいろとスペックで表記されているが、まず転送レート(MT/秒:メガトランスファー毎秒)は、言うならば「作業スピード」のことで、数字が大きいほど大量のデータを転送でき、高速で作業をこなせることになる。

 これに対してレイテンシー(CL)は、作業の指示を出してから、実際に作業を開始するまでの「待ち時間」を指す。例えば、いくら作業スピードが早く(高転送レート)でも、作業を開始するまでの時間が遅い(高レイテンシー)と、結局作業が完了するまでの時間がかかってしまう。

 つまり、レイテンシーの数値は小さいほど優秀であることを意味する。理想を言えば、「反応が速く、かつ作業も速い」メモリーとなるが、実際にはこのバランスがうまく取れていないと動作しなくなる。

 レイテンシーが速いことのメリットは計り知れない。CPUは絶えずメモリーからデータを取り出して計算しているため、メモリーの反応が速ければCPUの待ち時間が減り、アプリの動作がキビキビとしたものになる。そして何より恩恵が大きいのがPCゲームである。

 ゲームプレイ、特にFPSなどの動きの激しいジャンルにおいては、平均的なフレームレートだけでなく「最低フレームレート」の安定性が重要になる。レイテンシーを低く抑えることで、混戦時やエフェクトが重なる瞬間のデータの詰まりが解消され、一瞬画面がカクつく現象(スタッタリング)を防ぐことができる。コンマ数秒を争うゲーマーにとって、この滑らかさと入力に対するダイレクトな反応は、勝敗に直結する要素と言っても過言ではない。

メモリーのスペックの見方

「Crucial Pro DDR5-6400 CL32 16GB×2」の写真。ブラックとホワイトの2色が用意されている

 ここで、今回紹介する「Crucial Pro DDR5-6400 CL32」という製品に注目したい。このメモリーには「6400MT/秒 32-40-40-103」という動作プロファイルが設定されている。この数字の羅列は、いわばこのメモリーの能力を示した設計図だ。

 まず「6400MT/秒」は前述の通り作業スピードを意味する。メモリーには「定格速度」というのが定められており、どんなパソコンでも安全かつ確実に動作する速度が決められている。DDR5メモリーの場合は、4800MT/秒や5200MT/秒、5600MT/秒といった速度がこれに該当する。

 本製品は、6400MT/秒ということで、規格からすればオーバークロック状態にあたる。しかし、メーカーが厳密なテストを行ない、「この電圧とこのタイミング設定(プロファイル)であれば、6400MT/秒で安定して動作することを保証する」と定めた数値であるため、これもまた製品としての「定格」と呼ばれる。

 そして最も重要なのが、先頭にある「32」という数字、すなわちCL値である。6400 MT/秒という高速域においてCL32という数値は極めて低く、非常に優秀な反応速度を持っていることを示している。それに続く「40-40-103」という数字は、データの場所を探したり、次の作業へ移るための準備や片付けにかかる時間を指しており、これらもCLに合わせて無駄なく削ぎ落とされている。

 メモリーの本当の速さは「クロック」と「レイテンシー」の組み合わせで決まり、計算式に当てはめると、実質的な反応速度(True Latency)は「10ナノ秒」となる。現在のDDR5メモリーにおいて、この10ナノ秒という速度は、性能と安定性のバランスが最も取れた「スイートスポット」とされている領域だ。

 つまり、この製品は「誰よりも足が速い(6400MT/s)のに、スタートダッシュの反応(CL32)もトップクラスに速い」という、速度と反応を高い次元で両立させたハイエンドなメモリーなのである。

実質レイテンシーの計算式

 ただし、この高性能なメモリーを導入する際には1つだけ注意すべき点がある。それは、パソコンのマザーボードに挿し込んだだけでは、本来の性能である「6400MT/秒 CL32」では動作しないということだ。工場出荷時の状態では、多くのマザーボードがシステムの起動と安全性を最優先し、標準的な速度で動作するように設定されている。このままでは、せっかくの低レイテンシーも広帯域も、その真価を発揮できずに宝の持ち腐れとなってしまう。

 そこで必要になるのが、BIOS(UEFI)画面での設定変更である。PCの電源を入れた直後に指定のキーを押してBIOS画面に入り、画面内にある「XMP」または「EXPO」の項目を見つけ、それを有効(Profile 1など)に切り替える必要がある。これだけで、メモリー内部に記録された最適な動作設定が一括で適用される。
 設定を保存して再起動した後は、Windows上で速度がしっかりと「6400MT/秒」と表示されているか確認することをお勧めする。ここまで行なって初めて、低レイテンシーによるキビキビとしたレスポンスと、高転送レートによる滑らかなゲームプレイを享受できるのである。

 ちなみに、本製品は16GBのメモリー2枚組(合計32GB)でデュアルチャネル対応したマザーボードで利用することを想定したものだ。デュアルチャネルとは2枚のメモリーをセットで使うことで、CPUとメモリーの間にある「データの通り道」を2倍に広げる技術のことである。今回の製品が1枚の32GBではなく、あえて16GBのメモリー2枚組(合計32GB)で構成されている理由は、この仕組みを利用して性能を最大限に引き出すためだ。

 パソコンのデータ転送を道路の交通量に例えるならば、メモリーの容量(16GBや32GB)はトラックの積載量であり、デュアルチャネルかどうかは道路の車線数にあたる。もし32GBのメモリーを1枚だけ挿した場合、「大型トラックが1台、1車線の道路を走っている」状態にあたる。一度にたくさんの荷物を積めるが、道が狭いため、荷物の積み下ろしに時間がかかると渋滞(ボトルネック)が起きてしまう。

32GBメモリーが1枚の場合は、1台の大型トラックが1車線の道路を走っている状態。渋滞に弱い

 一方で、16GBのメモリーを2枚挿してデュアルチャネルにすると、「中型トラック2台が、2車線の道路を並走する」状態になる。積める荷物の総量は同じだが、道路の幅が2倍になっているため、一度に行き来できるトラックの数が倍増し、交通の流れが圧倒的にスムーズになる。高速なメモリーであればあるほど、その速さを無駄にしないために、2枚組で通り道を確保することが不可欠となる。

16GBメモリーが2枚の場合は、2台の中型トラックが2車線の道路を並走している状態。2車線あるため渋滞が起きにくい

Crucial Pro DDR5-6400 CL32の実力は?

 では、実際にどの程度の違いがあるのか、「Crucial Pro DDR5-6400 CL32 16GB×2」の実力を、各種ベンチマークテストを使って行った。テストを行なった環境は以下の通り。比較対象として「Crucial Pro DDR5-6400 CL38 16GB×2」でも同様の計測を行なった。

テスト環境
CPU インテル「Core Ultra 7 265K (3.90GHz)」
マザーボード MSI「PRO Z890-A WIFI」
グラボ MSI「GeForce RTX 5070 Ti INSPIRE 3X OC」
システムストレージ Crucial「P510 SSD」1TB

「Crucial Pro DDR5-6400 CL32 16GB×2」を利用時の「HWiNFO 64」の概要画面

「Crucial Pro DDR5-6400 CL38 16GB×2」を利用時の「HWiNFO 64」の概要画面

 まず、純粋に実際のメモリーレイテンシーについて「SiSoftware Sandra」のメモリーレイテンシーを実行。マルチスレッド時のレイテンシーを計測した。

「SiSoftware Sandra」のメモリーレイテンシーの結果

 結果は、CL32が68.1ナノ秒、CL38が69.9ナノ秒となり、実測であってもきちんと差が出ることがわかった。

 次にゲーミングに直結するフレームレートについて、「サイバーパンク2077」のベンチマークテストを使って計測した。計測は、NVIDIAの「FrameView」を使用。平均fpsと1% Low fpsの値で比較している。1% Low fpsとは、ベンチマークテストで得られたデータを小さい順に並べたときに、下位1%のときの値で、FrameViewの場合は下位1%の平均値になっている。平均フレームレートだけだと、大部分のシーンはフレームレートが高くても一部の高負荷なシーンで落ちているのに、それが見えづらくなるため1% Low fpsを示すことでより明確にしている。

「サイバーパンク2077」のベンチマークモードで「フルHD/レイトレーシング・ウルトラ」の設定にして実行。「FrameView」を使って計測した結果

「サイバーパンク2077」のベンチマークモードで「フルHD/レイトレーシング・ウルトラ」の設定にして実行。「FrameView」を使って計測した結果

 結果は、レイトレーシング・ウルトラ、レイトレーシング・オーバードライブの設定で、いずれもCL 38のメモリーよりフレームレートが高いという結果になった。メモリーのレイテンシーの違いだけでも、フレームレートに差が生まれるということがわかる。

 もう1つ、「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク Ver. 1.1」でも同様のテストを行なった。解像度はフルHDでグラフィックスの設定は「最高画質」で行なっている。

「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク Ver. 1.1」のベンチマークモードで「フルHD/最高画質」の設定にして実行。「FrameView」を使って計測した結果

 結果はわずかながらCL 38を上回っている。このように良くなることはあっても悪くなることはないため、より低いレイテンシーのメモリーを選ぶべきということは理にかなっていると言えよう。

 この低レイテンシーのメリットはゲームだけでなく、さまざまなシーンで活きてくる。例えばデータの圧縮展開。圧縮展開ソフト「7-Zip」のベンチマークを使って128MBのデータを圧縮展開したときの総合評価を比較した。

「7-Zip」のベンチマークテストの結果。サイズは128MB

 結果は約2.7GIPS (Giga Instructions Per Second)の差でCL32のほうが処理能力は高かった。つまりCPUの処理能力だけでなく、メモリー性能でも差が出てくるのだ。

 クリエイティブ系のアプリでもベンチマークテストを実行。「PugetBench」を使い、実際の「Lightroom Classic」と「DaVinci Resolve」での動作を計測。スコア値で比較した。

「PugetBench」で「Lightroom Classic」を使ったベンチマークテストの結果

「PugetBench」で「DaVinci Resolve」を使ったベンチマークテストの結果

 結果は、「Lightroom Classic」で約500の差、「DaVinci Resolve」で約360の差でCL32のほうが、性能が高いことを示している。細かく見ると、「Lightroom Classic」ではDNGの書き出し時間の差が、「DaVinci Resolve」では「Fusion」機能での「3D Title」や「Phone Composite UHD」で動作が速く、このスコア差につながっているようだ。

低レイテンシーメモリーを選んでさらなる高みへ

 安定して高速に読み書きできるメモリーは、安心・安全なメーカー製のメモリーを選ぶことが重要だ。昔はマザーボードとメモリーの組み合わせで動く・動かないということがよくあったが、最近はそこまでひどくはないものの、安定して動作するメモリーを選びたい。指定されたプロファイルを使わず、自分で数値を指定することは可能だが、より速さを求める場合は、安定して動作させることはかなり難しい。メーカーがきちんと検証したプロファイルで最も速いスペックのメモリーを選ぶようにしたい。

 Crucialのメモリーは昔から安定動作するメモリーとしてユーザーからの評価も高く、今回紹介した「Crucial Pro DDR5-6400 CL32」も、ベンチマークテストの結果を見てのとおり、ゲーミングにおいても、クリエイティブにおいても、より快適な環境を構築するアイテムとして利用してほしい。

 残念ながら、マイクロンはコンシューマー向けCrucialブランドから撤退すると発表されたため、店頭で見つけたら即購入することをオススメする。

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