前回記事では、IoTシステムにおいて「エッジ」、つまりIoTデータが生成される現場でのデータ処理(エッジ処理)が重要である理由を説明しました。
このエッジ処理の中で、現在特に注目を集めているのが「エッジAI」です。その名のとおり、エッジに配置されたサーバー/PCやIoTデバイスそのものの上でAIを稼働させて、IoTデータを処理するという手法です。
具体的に、エッジAIにはどんなユースケースがあるのでしょうか。
代表的なユースケースのひとつに「IoTカメラ映像のAI解析」があります。たとえば、店舗の入口に設置したカメラの映像をAIに解析させて、来店客の人数を自動でカウントするIoTシステムがあります。
このとき、カメラ映像をそのままクラウドに送信し、クラウド上でAI解析の処理をさせることもできますが、通信量が非常に大きくなり非効率です。さらに、監視する店舗数が増えれば、クラウド側の回線容量が足りなくなってうまく機能しなくなるかもしれません。
ここでエッジAIを使い、映像解析による来店客数のカウントをエッジ(店舗内)で済ませる仕組みにすれば、クラウドに送るのは解析後の「人数のデータ」だけで済み、効率が良くなるわけです。ほかにも、防犯監視用途であれば、カメラ内のAIが「動き」を検知したときだけ映像をクラウドに送る、といったこともできます。
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通信容量ではなく遅延時間(レイテンシ)の問題を解決するために、エッジAIが採用されるケースもあります。たとえば、工場の製造ラインなどにIoTカメラを設置し、商品に傷や汚れがないかの検品を自動化するソリューションがあります。この場合、ラインを高速に流れる商品の映像をAIで解析し、良品/不良品を素早く判断できる必要があります。エッジAIならば、クラウド処理の10分の1程度の遅延時間に抑えられますから、こうした用途に適しているのです。
短い遅延時間(低いレイテンシ)が最も強く要求されるのは、自動運転の自動車や工場のロボット、倉庫の自動搬送ロボットなどでしょう。たとえば、自動運転車が車載のカメラやセンサーで障害物をとらえたら、瞬時にそれを回避する判断と操作ができなければ衝突事故を起こしてしまいます。そのため、こうしたケースでは通常、デバイス内にAIが組み込まれており、最小の遅延時間でAI処理ができるようになっています。

一方で、もちろんエッジAIでは処理できない、あるいは不得手なタイプの処理もあります。IoTデバイス、エッジコンピューターやエッジサーバーといったハードウェアは、現場に設置しやすいよう、通常は小型で省電力の設計になっています。
そのためエッジでは、たとえば大規模なAIモデル(たとえばLLM)を動かしたり、長期間にわたって蓄積した大量のデータを分析したりする処理は困難です。また、そもそも、多拠点からデータを収集して分析する――といった処理もできません。
そこで、前回記事でも触れたように、エッジとクラウドとの「適切な役割分担」が必要になります。エッジでは比較的単純なAI処理を行いつつ、そのデータをクラウドにも送り、長期に蓄積したデータをAI解析して変化のパターンや異常を見つける、といった役割分担になるでしょう。クラウド上のアプリなら、外部の生成AIサービスなどとAPI連携させることも簡単にできます。
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また、IoTシステムのもうひとつのメリットである「遠隔からの制御やメンテナンス」も、クラウドが担うべき処理です。こうした「エッジとクラウドの違い」を理解して、IoTシステムを構築しなければなりません。
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