第10回 シン・IoTの教室:ビジネスに活きる つながるモノの世界

IoTソリューションの高度化や適用範囲の拡大に必要な「エッジ」の要素

IoTの“エッジ”とは何か? なぜエッジでのデータ処理が必要なのか?

大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 IoTシステム、IoTソリューションの話でしばしば登場するのが「エッジ」というキーワードです。

 IoTデバイスが「エッジデバイス」と呼ばれることもありますし、小型のサーバーが「エッジサーバー」というカテゴリで販売されていることもあります。また、最近では「エッジAI」というキーワードも目にするようになりました。

IoTソリューションの構成要素のひとつとして「エッジサーバー」「エッジコンピューター」などがある(画像は沖電気工業製「AE2100」、出典:SORACOM)

 エッジ(edge)は「モノの周縁部分(ふち、へり)」の意味を持つ英単語です。IoTデータの集中管理を行うクラウド(データセンターのサーバー)を「中心」と考えると、IoTデバイスは中心から伸びるネットワークの先端、つまり「周縁」に位置します。こうした理由から、エッジという言葉が使われるようになりました。

 より簡単に言うと、エッジは「IoTデバイスが設置される現場」を指します ※注。ですから、IoTデバイスが設置されている工場、店舗、倉庫、農場といった場所は、すべてエッジと言えます。

※注:ここでは説明を簡略化しましたが、IoTデバイスの設置場所だけでなく、IoTデバイスと中央のクラウドの「中間」の場所まで、すべてをエッジと呼ぶケースもあります。たとえば、クラウドまでの通信経路上にあってデータの中間処理を行う、通信基地局や通信事業者のデータセンターなどです。

「エッジ」の概念図

 IoTソリューションに関連して、よく耳にするのが「エッジ処理」という言葉です。IoTデバイスが出力したデータを、直接クラウドに送るのではなく、いったん現場で処理(中間処理)するのがエッジ処理です。このエッジ処理をするために、現場に設置される小型のサーバーがエッジサーバーです。

 しかし、なぜわざわざこのような“ひと手間”をかけるのでしょうか。その理由はいくつかあります。

 まずは「通信の遅延(レイテンシ)を減らせる」ことです。IoTデバイスから送信されたデータを、単純にクラウドに蓄積するだけならば、通信遅延が問題になることはないでしょう。しかし、IoTデバイスからのデータを処理し、デバイスの制御信号を送り返すようなシステムの場合、遠方にあるクラウドとの通信遅延が問題になります。瞬時の判断と制御が必要な「自動運転車」が分かりやすい例ですが、ほかにも「顔認証システム」や「工場のロボット/生産ラインの制御」などでも、通信遅延は問題になります。ここで、現場に設置したエッジサーバーで制御処理を行えば、遅延が大幅に短縮できます。

 また「通信の効率を改善する」目的でも利用されます。たとえば、IoTカメラの映像データをそのままクラウドに送信し続けると、通信容量が非常に大きくなり、回線コストがかかります。IoTカメラの設置場所によっては、低帯域のモバイル回線しか使えず、そもそも映像データが送れないケースもあるでしょう。こうした場合に、たとえば「エッジサーバーで映像データを解析し、その結果を数値化したデータ(小容量のデータ)としてクラウドに送る」「エッジでデータを蓄積し、一定間隔でクラウドに送る」「エッジで異常判定を行い、異常値のときだけクラウドに送信する」などの処理を行えば、通信の効率が上がります。

 もうひとつ、「データをクラウドに送れない環境への対応」というものもあります。セキュリティ上の理由から外部(インターネット)と接続できない、あるいは物理的に通信環境が用意できないといった場合でも、現場にあるIoTデバイスとエッジサーバーだけで処理を完結させることができます。

* * *

 このように、エッジでのデータ処理は、IoTソリューションの適用範囲を拡大させたり、その機能を高度化させたりするために組み込まれることがあります。その際には、エッジとクラウドでそれぞれどんなデータ処理をさせるのがベストなのか、適切な役割分担を考える必要があるでしょう。

 また、冒頭でも触れたように、最近では「エッジAI」という言葉もよく使われます。このエッジAIについては、次回詳しく見てみることにしましょう。

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