さまざまなIoTソリューションの導入事例を見ていると、そこにはひとつ、共通するキーワードがあることが分かります。それは「現場」です。たとえば製造の現場、建設現場、小売や物流の現場、医療の現場――。IoTソリューションは、業界を問わず、ありとあらゆる「現場」で活用されています。

それでは、なぜ「現場」がキーワードになるのでしょうか? それは、さまざまな種類のIoTデバイスが、「現場」=現実世界(物理世界)とデジタル世界との橋渡しをする役割を果たすからです。
人の手を介さずに現実世界をデジタルデータ化できること、その反対にデジタル通信を通じて現実世界を制御できることには、大きな価値があります。
たとえば、センサーやカメラといったIoTデバイスがなかったとしましょう。現実世界をデジタルデータとして記録するためには、人がメーターなどを監視し、PCに手作業で入力することになり、長期間にわたってひんぱんに記録し続けることは不可能です。リモート制御も同様で、24時間誰かが機械のそばにいて、連絡を受けてスイッチをオンオフする――というのも、やはり現実的ではありません。
IoTによって、現実世界をデジタルデータ化できれば、それをトリガーとして自動処理を実行させたり、データ分析によって何らかの傾向をつかんだりすることができるようになります。AIによる高度な自動判断、自動制御といったことも現実化します。
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新たなIoTビジネスを考える際も、やはり「現場」が基点となります。ただし、明確な目的を持たずに現場にIoTデバイスを設置して、やみくもにデータを取得してみても、あまり成果は上がりません(ときには“まぐれ当たり”があるかもしれませんが)。まずは「どんな成果を得たいのか」という目的の設定が大切です。
そう考えると、基点となるのは「現場」そのものよりも「現場の声」かもしれません。現場にいる人からの「ふだんからこの作業に困っている」「この業務をデータ分析してみたい」といった声は、たとえささいな話であっても、貴重なビジネスアイデアの種になります。どんなデータを取得するのか、どうやって取得するのかは、目的がはっきりしてから考えればいいのです。
現場の人自身でIoTソリューションを開発できれば理想的ですが(それをサポートするデバイス、クラウドサービスは多くあります)、たとえその人にIoTの知見がなくても、「現場」をデータ化し可視化して見せることで、アイデアがふくらんでくるはずです。現場の人と伴走し、会話を続けながらソリューションをブラッシュアップさせていきましょう。
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