ミドルエイジからの資格取得は掛け算が正解③
キャリア×資格、資格×資格。40・50代がライバルに差をつける掛け算戦略
ミドルエイジからでも遅くない、いやむしろ、今だからこそ積極的に取り入れたい資格取得という選択肢。キャリアアップからライフシフト、老後の働き方への備えまで、女性がこれからの人生を考えるうえで、きっと役に立つ場面が出てくるはず。そう背中を押してくれるのは600以上の資格・検定を保有し、資格の第一人者として活躍する林雄次さんだ。3回シリーズを締めくくる今回は、自分のキャリアや既存のスキル、取得した資格に、どんな資格を掛け合わせれば、さらなるステップアップにつなげられるのかを解説してもらう。
メジャー資格も〝スパイス〟で個性が際立つ。意外な組み合わせでパワーアップ
例えばファイナンシャルプランナー(以降、FP)やキャリコンキャリアコンサルタント、宅建など、これら有名で人気のある資格。もちろんどれも興味を持って挑戦するのはとてもいいことだと林さんは前置きをしたうえで、「有益な知識が得られる一方で、人気があるがゆえに多くの人の中に埋もれてしまいやすいという側面がある」と説明する。
「だからこそ、そこに〝スパイス〟を効かせることが大切なんです。たとえば、まずは自分のベースになる資格を一つ選んだうえで、そこにプラスアルファを加えてみる。組み合わせは自由でいいですし、意外であればあるほどいいと、私は考えます。
極端な話、FPと唐揚検定でもいい。一見関係なさそうですが、〝FPと唐揚げの資格を持っている人〟って、確実に印象に残りますよね(笑)。逆に『FPとキャリアコンサルタントと宅建を持っています』と言っても、『あ~、よくある資格を3つ持っているのね』で終わってしまいがちなんです。
では、さらにFPと唐揚げと僧侶だったらどうでしょう?そのユニークさですぐに覚えてもらえるわけです。もちろん、資格同士の相乗効果を考えて組み合わせるのもいいと思いますし、同じ顧客層を対象にした資格を並べるのも戦略としてはありです。
でも、それだけだと、どうしてもすでに同じ方向で活動している人がたくさんいます。だからこそ、そこに少し〝意外性〟や〝自分らしさ〟を加えることが、差別化のポイントになってくるのです」
ミドルエイジは〝生まれ変わる〟のではなく、自分のキャリアに〝要素を輸入〟せよ
資格を〝名前〟だけで見てしまうのではなく、その資格で学べる考え方やスキルを軸に組み合わせを考えるのも大事だという。たとえば整理収納アドバイザーなら、〝ものごとをどう効率的に整えるか〟という発想が身につく資格で、これは家庭でもオフィスでも応用できるスキルだ。そうした〝身につく考え方〟や〝活かせる場面〟という視点で、資格の組み合わせを考えてみると、自分らしい方向性が見えてくると、林さんは説明する。
「私も社労士として開業した当初、泣かず飛ばずでした。社労士ってコンビニの数より多いと言われていて、そうなると『隣のコンビニとこのコンビニ、何が違うの?』って。もしかしたら〝手作りおにぎりがめちゃくちゃおいしい〟コンビニがあるかもしれないけど、それはマニアにしか伝わらない(笑)。それと同じで、社労士も資格だけでは差別化が難しいんです。
そんな時、知人に『ITエンジニアでもある社労士って珍しいんじゃない?』と言われたんです。当時、私は社労士とエンジニアをA面・B面という〝別々の顔〟として考えていたので、最初はピンときませんでした。会社でもエンジニアとして突出していたわけでもないし、知識があっても自分では〝特別なこと〟だと思っておらず。でも実は、〝IT業界を理解している社労士〟というのはかなりレアな組み合わせだったんです」
その視点が、今の仕事につながる大きなきっかけになったという林さん。社労士単体では数多いるライバルの中に埋もれてしまうという危機的状況から、脱出することができた。
「多くの人は資格を取ると〝これまでの自分とは違う世界〟に行こうとしがちなんですが、私はそうじゃないと思っています。隣の芝生が青く見えても、そちらに引っ越すのではなく、今いる自分のフィールドに〝外の要素を輸入する〟ような感覚。自分の持っている経験やスキルに、新しい資格を掛け合わせるほうがずっと有利になると思うんです。
これはミドルエイジだからこその話。もし20歳くらいで、これからキャリアを築いていく段階なら、もっとチャレンジングな資格取得や資格の掛け算を勧めます。でも40代、50代の方の場合は、これから新しく2つ、3つと攻めた資格を取るよりも、これまでの経験に何か一つ組み合わせる方が、ずっと現実的で効果的だと思いますね」
今のキャリアに何を足していくのがベスト? キャリア×資格の具体例
では、ミドルエイジ女性にとって経験を活かしながら、どのような資格の掛け算が考えられるのか。具体的な例を林さんに教えてもらった。
◆営業職×接遇系、簿記、IT系、占い
「営業職といっても幅が広く、法人向けか個人向けか、新規営業が中心なのか継続的な取引が多いのかでも、求められるスキルが全然違うと思います。ただ、一般的に営業というと〝ものを売る仕事〟と思われがちですが、実際は〝コミュニケーションの仕事〟。だからこそ、接遇スキルを身につけるのはとても有効だと思います。
それに、ある程度の年代になると、意外と基礎的な教養やマナーを学び直す機会って少ないですよね。間違った言葉づかいをしていても、周りが指摘しにくかったり。そういう意味で、秘書検定のような〝接遇を学べる資格〟で基礎を身につけるのは、とても価値があると思います。
資格を通して知識を増やしていく、その過程自体がすごく大事。たとえば営業職でも、簿記やITの知識があると、直接営業に使うわけではなくても、相手の業界の話題についていけるようになります。お金やITの話題は今どの業界でも共通して重要ですからね。少し変化球的なものでいえば、占いやお酒のような話題も、コミュニケーションのきっかけとして有効。つまり、〝営業に直結するスキルを磨くもの〟〝会話や雑談で役立つもの〟〝自分らしさを出すための変化球的な資格〟。この3つのアプローチがあると思います」
◆事務職×簿記、IT系、コミュニケーション、マーケティング
「事務職の場合は、やはり簿記やIT系といったスキルが専門性のベースになってくると思います。そのうえで、もう少し広げるという意味では、事務職はどうしてもルーティンワークが多くなりがちなので、意識的に外の世界とつながるようなスキル…たとえばマーケティングやプレゼンテーションなどを学ぶのもいいでしょう。副業を含め、自分の仕事の枠を広げるきっかけになりますからね」
◆接客業×客層に合わせつつ、自分の興味が持てるもの
「接客業も幅が広いので、扱う商品や客層によって、求められる話題やスキルも変わってきますが、やっぱり自分が興味を持てる分野を選んだ方がいい。接客業だからといって『お客さんが興味を持ちそうなことを学ばなきゃ』と無理をしても、長続きしないんですよね。
大切なのは、自分が興味を持てることをベースにしながら、お客さんや職場の雰囲気に合う方向を意識すること。そうすると自然と深まりが出てくるはずです。本当に自分の興味が持てるものであれば、検定の種類はなんでもありだと思います。話題性で占いや、食べ物・飲み物系の検定などもライトに楽しめるので、とてもおすすめですよ」
◆子育て経験者×保育士、心理系
「保育士は、学歴に大きく左右されず、実務経験や専門学校に行かなくても取れる資格です。また、子ども向けの心理資格もおすすめ。心理カウンセラーやメンタルヘルスマネジメントのようなメンタル系資格など、医療系の学校で専門的に学ばなくても取得できるものがあります」
ライバルに差をつけるなら急ぐことが吉!新設された資格は早めの取得を狙おう
ここまでで現在のキャリアやスキルを活かした資格取得や、掛け合わせを推奨してきたが、ライフシフトをすべく新たな資格に挑戦したいという人もいるだろう。そんなミドルエイジにはまだライバルの少ない、新しい資格が狙い目だ。
「例えば愛玩動物看護師。2019年に制定され、2023年にその第1回の試験が実施された新しい国家資格です。新しい資格は、当初は比較的取りやすい傾向があります。難易度は時間とともに上がることが多いので、早めに取得するのが基本ですね。また、先行者が少ないため、ライバルに差をつけやすいというメリットもあります。
動物病院で働くことだけが目的ではなく、ペットシッターやペットのしつけなど、活用の幅は広いです。その場合、資格の名称にとらわれず、そこで得られるスキルを因数分解して、ほかの資格と組み合わせることも重要です。例えば、愛玩動物看護師のスキルを〝ペットの健康や習性に関する知識〟と捉え直し、整理収納アドバイザーと組み合わせることで、〝ペットを飼っている方専門の収納アドバイザー〟として、一気に需要の高いニッチな分野を生み出すことができます」
悩んだり迷ったりしたらまずはこの2つ! 何にでも合う〝万能の掛け算〟とは?
さらに600以上の資格・検定を保有する林さんが考える、どんなキャリアや資格と掛け合わせても、汎用性が高い資格を2つ教えてもらった。
「ずばり占いと整理収納アドバイザーは最強かつ万能です。まず整理収納アドバイザーですが、片付かない原因や問題点を見つけ出し、整理収納の理論に基づいて〝散らかりづらく、片付けやすい〟空間づくりを学べます。これは空間の整理だけでなく、ものごとの考え方を整理する際にも応用可能。
2級なら1日の講座に参加するだけで取得でき、すぐに名乗れます。1級は少し時間がかかりますが、2~3日で取れるくらいです。この取得ハードルの低い資格を利用して、社労士×整理収納アドバイザーだったら〝会社をきれいに整理する社労士〟といったように、さまざまなキャリアに組み合わせることができます。
そして占い。例えば士業のような硬い仕事で、中小企業診断士が理詰めの話をしても、中小企業の経営者はなかなか聞こうとしません。そんな時、占いのようなソフトな入口を使うと話を聞いてもらいやすくなります。宅建士×風水系の資格も最強です。
風水アドバイザーに九星気学鑑定士、タロットカード士、手相鑑定士、姓名判断鑑定士など、多岐にわたりますが、いずれも民間資格なので、信頼できる団体の資格を目指しましょう。日本人は占いが好きな方が多いですし、少し練習すれば誰でもできるようになります。どんな仕事でも役立つと思うので、一つ持っておくと絶対に無駄になりません」
最後に「資格はいつ始めても遅いということはない」と語る林さん。社会保険労務士や行政書士といった士業も、40〜50代が平均年齢というケースも多く、若手といえるほどだそう。しかし、繰り返しになるが、「一念発起してエベレストを目指す」のではなく、まずは「高尾山」から。興味のある分野を楽しく学ぶことが、最終的に仕事につながるのが資格だ。
今のキャリアやスキルをベースに、自分の〝好き〟を掛け算して、未来の可能性を広げてみてはいかがだろうか。
Profile:林雄次
はやしゆうじ/1980年東京都生まれ。はやし総合支援事務所代表。エンジニアとしてIT関連企業に勤務する傍ら、複数の法律系国家資格を取得したのを機に独立。中小企業診断士、社労士、行政書士、情報処理安全確保支援士などとして企業向け支援を行うほか、「資格ソムリエ」「デジタル士業」としてさまざまなメディアで活躍中。現在、保有資格・検定は約600を超え、僧侶の資格も持つ。『資格が教えてくれたこと 400の資格をもつ社労士がみつけた学び方・活かし方・選び方』(日本法令)、『行政書士・社労士・中小企業診断士 副業開業カタログ』(中央経済社)、『かけ合わせとつながりで稼ぐ 資格のかけ算大全』(実務教育出版)など著書も多数。
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