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業務を変えるkintoneユーザー事例 第294回

成功の鍵はツール導入前から ユーザーと情シスの両輪で進めた市民開発の歩み

シェア100%の重圧を跳ね除けろ 味の素ファインテクノの業務改善は、kintoneで加速した

2025年10月15日 11時00分更新

文● 柳谷智宣 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 半導体製造に欠かせない層間絶縁材で世界シェア“ほぼ100%”を誇る、味の素ファインテクノ。同社の業務改善の取り組みは、供給責任のプレッシャーから始まった。たった4人で始まった改善活動は、kintoneというツールを得ることで加速。今では100名がアプリ開発を経験するほど、市民開発による業務改善が広がっているという。

 サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive 2025 Tokyo」を開催。6番手に登壇した味の素ファインテクノの大野隆之氏は、10年にもわたる業務改善のあゆみと市民開発が浸透した秘訣について披露した。

味の素ファインテクノ 大野隆之氏

10年かけて醸成した「自分たちで変える」文化が市民開発の土壌に

 味の素ファインテクノは、味の素グループの化学メーカーである。同社の主力製品は、パソコンの絶縁材料として使われる「味の素ビルドアップフィルム(略称ABF)」だ。うま味成分であるグルタミン酸の製造技術の副産物として生まれた素材であり、今やAIサーバーやゲーム機にも利用され、そのシェアはほぼ100%を誇る。

ほぼ100%のシェアを持つ「味の素ビルドアップフィルム」

 だが、世界シェア100%という実績の裏には、想像を絶するプレッシャーがあった。半導体市場の拡大とともに同事業は成長を続け、業務量も増大の一途をたどっていた。

 それに伴い、日々の業務における供給責任の重圧は高まり、何が起こるか分からないという緊張感が常に付きまとっていた。その不安に拍車をかけるように、現場には紙やFAXが多用され、不明確な業務フローが蔓延していたという。

 「逼迫する現場をなんとかしたい」と、大野氏ら4人のメンバーが始めたのが、「OE(オペレーショナルエクセレンス)推進活動」である。「自分たちの、自分たちによる、自分たちのための働き方改革」をスローガンに、業務の合理化や無駄の排除を議論して、業務改善を地道に積み重ねていった。

 この活動は、社内でも注目を集め、徐々に周囲を巻き込んでいく。自らの手で業務改善ができる実感と、それを良しとする文化が組織に根付いていった。10年前に始まったこの活動こそが、後の市民開発を成功させる土壌となり、大野氏は、「kintone推進のエッセンスが詰まっていた」と振り返る。

10年前から始まったOE推進活動が市民開発の土壌となった

ひとつのアプリで年1600時間削減、爆速導入を支えた情シスのサポート

 そして、OE推進活動の開始から5年後、グループ全体のDX推進計画の一環として、味の素ファインテクノにkintoneが導入される。長年にわたり業務を磨き続けてきたメンバーがkintoneという武器を手にしたことで、化学反応が起きる。爆速でkintoneによる業務改善が進んだのだ。

 例えば、「納期管理業務」では、納期調整のたびに発生する、メールや電話による伝言ゲームと手作業での入力処理に頭を悩まされていた。そこで、「納期管理」アプリを作成し、まずは、kintoneの自動通知機能で伝言ゲームを解消した。

業務連絡の伝言ゲームを通知機能で解消した

 さらに、kintoneの外部連携機能によって、オンプレミスの基幹システムから、kintoneへデータを自動で取り込む仕組みを構築。他にも、電子帳票やAPI連携などを駆使して、納期管理における手作業を排除していった。

 こうして自動化が進んだ結果、納期管理アプリだけでも、年間1600時間の工数を削減を実現。kintoneアプリひとつで、従業員一人を雇用したのと同じコストを節約できた計算になる。

APIなどを活用して、自動化することで工数を削減

 もちろん、最初から完璧なアプリができたわけではない。「まずはやってみるか」という姿勢でトライ&エラーを繰り返し、改善を重ねることが、成果につながった。OE推進活動により、失敗や挫折を支える体制が確立されていたことが、爆速導入を成功させた鍵だという。

 また、kintone活用の推進は、情報システム部門が主導している。専用スペースでの情報提供に加え、困った時の「相談窓口アプリ」も用意された。さらには、ノウハウ共有とアプリ自慢の場として、「kintone活用推進会」も定期開催している。

 こうして、業務理解のあるユーザーがアプリを開発し、情シスがノウハウの共有をサポートするという両輪で、業務改善を回す体制を確立した。この効果は絶大で、従業員約400名のうち4分の1がアプリ作成経験者となり、約5年間で700個ものアプリが作られたという。

今では、社員の25%がkintoneアプリを開発した経験を持つ

 kintoneの標準機能だけでなく、プラグインや連携サービスの活用も進んでいる。特に利用されているのが、「krewDashboard」(メシウス)による購買ダッシュボードアプリだ。予実管理をダッシュボード化し、スライサー機能によって情報検索のスピードを向上させている。「krewSheet」(メシウス)も導入しており、Excelライクな操作によって、kintoneの利用範囲が広がるきっかけになったという。

 取引先に対する調査票を回収する業務では、トヨクモの「kMailer」と「FormBridge」を用いて、「調査回収」アプリを作成している。kintoneアプリを起点にkMailerで調査票を一括送信し、FormBridgeで作成したフォームに回答を入力してもらう仕組みだ。数百件におよぶメールの送受信とデータの入力作業がなくなり、現場の負荷も大幅に軽減された。

kintone連携サービスを使い、業務効率の改善を推進し続けた

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