業務を変えるkintoneユーザー事例 第293回
賃貸事業部の営業が業務改善を手がけ、自ら社内SEのキャリアを切り拓く
業務改善はクライミング kintoneで壁を登った元気女子の感情ジェットコースター
2025年10月10日 09時30分更新
仕事、趣味、プライベートの3本柱が折れたとき、IT企画部に異動
だが、そんなとき首藤氏は、人生で大事な仕事、趣味、プライベートの3つがすべて折れていたという。仕事では繁忙期に差し掛かったことで、業務推進室としての役目が終わり、ガッツリ仕事漬け。趣味のクライミングにおいては、利き手の靱帯を切ってしまい、医者からも「どうせ趣味なんだし、辞めたら?」と言われ、病院で号泣。あげくプライベートでは溺愛していた彼氏にふられ、泣きっ面に蜂の繁忙期だった。
そんな首藤氏に転機が訪れたのは、繁忙期を過ぎた2024年。なんと今のIT企画部への異動が決まったのだ。「しかもなんと専任でした。今度こそ自分のスキルが活かせると思いました。なんだか、感情ジェットコースターですね(笑)」と首藤氏。こうして登攀がいよいよ再開された。
まず手を付けたのが、売上を管理するダッシュボード。当時使っていたExcelの売上管理表は字が小さく、よく壊れる。二重入力も多く、比較検討するためには別のシートをいじらなければならなかった。とはいえ、計算が複雑だったため、なかなかこの売上管理表から脱却できなかった。
しかし、IT企画部に異動になり、パワーアップしている首藤氏。kintoneやプラグインでもデータ加工は難しかったが、パワーアップしている首藤氏は、マイクロソフトのPowerAutmateとPowerBIの活用に至る。kintoneで一元化したデータをPowerAutomateで出力し、VBAで加工し、PowerBIでデザインしたものをkintoneで見るというやり方をとった。
ダッシュボードは個人別、カテゴリ、昨対比、達成率が一目でわかるように作ったという。カーソルを当てるとヒントが出る点も好評。「kintoneでデータを一元化できたから、きれいなダッシュボードを出力することができました。各週で1時間以上かかっていた会議資料の作成時感はゼロに。過去や目標はどれくらいか、どう動くべきかなどのみんなが営業戦略を立てられるようになった」と首藤氏は語る。
「データ入力してくれない」をパワープレイと懇切丁寧な説明で乗り切る
「いやあ、いいもん作ったわー」と自画自賛する首藤氏だったが、ここで今までなかった「みんながデータを入力してくれない」という問題が発生した。「前よりよっぽど簡単なのになぜ?」。クライミングで言うところの「絶対にあっているルートなのになぜか登れない」というパターンだ。
逆に言えば、今まで導入や運用がうまくいっていたのはなぜか? 理由は「kintone化するしかなかったから」「kintoneに入力しないと仕事にならないから」、そして大きかったのは「先輩命令だったから」の3つだ。「今、賃貸事業部にいる子たちは、だいたい私の後輩たち。先輩命令だからはもちろん冗談で、みんな素直だからです」と首藤氏。先輩も「首藤、教えてー」と気軽に聞いてくれて非常にやりやすかったという。
今回の「データを入力してくれない」という問題は、前述した理由のうちの2つ目に関係する。というのも、BIツールは営業戦略を立てるために必要なので、興味のないメンバーにとっては、入力しなくても困らないのだ。
では、どうするか。まずは「やる」。つまり、首藤氏が過去の分を、すべて手入力したのだ。「元営業として、忙しいのは重々承知しています。過去の分はやっとくから、未来の分は頼むでと、入力しました」というパワープレイだ。
その上で「めっちゃ説明する」。BIの意義、仕組み、使い方、入力しないとどうなるのかまで含めて、一人一人の反応を見ながら丁寧に説明したという。そして最後は何度でも説明する。BIツールを日々見て、おかしな値があったら、担当者に個別に連絡して、口うるさく説明したという。
その他、今まで申込書の受領からExcel転記、メール送信、受託確認まで面倒くさかったレンタル業務を3クリックで完了できるように。2024年も大きな業務改善が実現したことで、ユーザーからも「めっちゃ楽になった」といった声のほか、「こんなことできる?」というリクエストも上がるようになった。「kintoneじゃなかったら、繁忙期乗り切れませんでした!」という現場の声も。「こういうのうれしいですよね。業務改善も進んで、みんなも私もハッピーな環境が育ってきました」と首藤氏。
再び繁忙期の賃貸事業部へ でも、もうあの頃の私じゃない
しかし、そんなときにまた辞令が下され、首藤氏は繁忙期の賃貸事業部へ。ここまで来るともはやフラグだが、顧客が増えたため、業務量は大きく変わらず、首藤氏は契約処理のヘルプにかり出されたのだ。
当然、現場は疲弊している。だが、経験を積んだ首藤氏は、もう昔とはちょっと違う。kintoneならすぐに修正できるので、「5分で希望が叶う」のだ。再び現場に降り立った首藤氏は、細かな修正を重ね、ミスの削減や業務の効率化に貢献できた。「クライミングで言うところの、ちょっとの修正でより楽に登れるという感じ。こういうのめちゃくちゃ大事ですよね」(首藤氏)
こうした業務効率化とメンバーのがんばりによって、賃貸事業部は2年連続で近畿退学推薦店のNo.1を獲得。しかも、2位と77件差で、成約数も約30%増とのことで、さらなる成長を実現したという。
最後、首藤氏は「私のみらい」として「『役に立てない』『向いてない』『辞めよう』とすら考えていた私に、kintoneはDX担当者としての活躍の場を与えてくれました。今では社内SEという新しいキャリアを築き始めています」とコメント。また、闇から脱却したことで、プライベートも充実。月60時間壁を登り、友達も彼氏もできた。「人生の三本柱、復活です」と首藤氏もうれしそう。
次に「会社のみらい」として、賃貸事業部のDX化を実現し、悲願だった近畿大学推薦店No.1を2年連続達成。今では業務改善が進む環境も整い、「首藤という社員の流出も防ぐことができましたね」といった効果もあった。これらはすべてkintoneとの出会いから生まれたみらいだったわけだ。
クライマーの首藤氏は、「kintoneは成長のきっかけであり、業務改善の壁を登るのになくてはならないものでした。これからもkintoneとともにみらいを切り拓いていきます。このプレゼンがみなさま自身や、みなさまの会社でくすぶっている誰かのきっかけになったらうれしいです」と聴衆たちにエールを送った。

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