業務を変えるkintoneユーザー事例 第293回
賃貸事業部の営業が業務改善を手がけ、自ら社内SEのキャリアを切り拓く
業務改善はクライミング kintoneで壁を登った元気女子の感情ジェットコースター
2025年10月10日 09時30分更新
「クライミングにドハマリしている人は業務改善に向いてる」。クライミングで必要なパワー、課題分析力、根気、そしてチーム力。これって業務改善と同じじゃない?
kintone hive 2025 osakaの6番手として登壇したのは、第一住建ホールディングス IT企画部の首藤 亜乃氏。月に60時間、壁を登るというクライマーの首藤氏が手がけたkintoneによる業務改善は、賃貸事業部をDX化し、彼女自身も大きく成長させる。社内SEとしてのキャリアを切り拓いた首藤氏と会社のストーリー。
「正直辞めようと思っていた」 クライマー、kintoneと出会う
「壁は登るもの!~kintoneで切り拓け!私と会社のみらい」というタイトルで、kintone導入の紆余曲折を披露した首藤氏は、国立大学 理学部 海洋自然科学科を卒業後、畑違いとも言える総合不動産会社の第一住建ホールディングスに入社。第一パートナー 賃貸事業部の営業としてキャリアをスタートさせ、現在はさらに畑違いのIT企画部でグループ全体の業務改善を手がけている。プライベートは「お出かけ大好き、友達大好き、元気いっぱいのクライマーです」(首藤氏)とのことで、月になんと60時間は壁を登っているという。
そんな首藤氏が所属する第一住建ホールディングスは、今年で53年目を迎える総合不動産会社。部屋探しから建物の管理、売買、建設までを手がけており、今回は賃貸事業部のkintone導入の話になる。賃貸事業部は学生向けに部屋を貸しており、マンモス校として知られる近畿大学の推薦店でもある。「初めての一人暮らしというお客さまの新たなライフステージの始まりから、一生涯をサポートするパートナーを目指しています」(首藤氏)とのこと。
しかし、そんな賃貸事業部の営業時代、首藤氏は目の前の仕事をこなすのに精一杯だった。「ただですら手が回らないのに、非効率な業務も多かったんです」と振り返る。他部署との兼任がスタートすると、首藤氏はさらに忙しくなり、対応が遅れてトラブルが多発。「なにもかもがストレスでした。しんどい環境を変えたくても、そんな余裕はありません。朝から晩まで働いて、家に帰ったら寝るだけ。休みもなかなかとれず、友達にも会えない。4年目の繁忙期にはついに限界が来て、正直辞めようと思っていました」と首藤氏は振り返る。
そんなときに出会ったのがkintoneだ。兼任先の部署ではすでにkintoneが導入されており、どうやら自分でアプリが作れるらしいと聞き、やってみたいと興味を持った。2023年にはDXを推進する時限の業務推進室を設けてもらい、一人部署での首藤氏の活動が始まった。実際は兼任で営業活動の合間だったが、「めっちゃうれしかったです。これで私も役に立てるって。経験もないのによくやらせてくれました。当時の上司もかなり強力してくれました」と首藤氏は振り返る。
3ヶ月でシステムをkintone化 業務量の大幅な削減を達成
3ヶ月という限られた時間で首藤氏が挑んだのは、賃貸事業部の基幹システムの開発だ。「導入したCRMシステムが合わなかった」「Excelが壊れる」「CRMシステム、Excel、Googleスプレッドシートにデータが散在」「データの活用ができていない。手計算や二重登録」など問題は山積しており、とにかく無駄が多かった。
首藤氏はシステムでまかなえていなかった部分も含めて、追客、契約処理、経理処理まで含めてすべてをkintone+プラグインのシステムに載せた。その結果、従来のCRMシステムに支払っていた約13万円をゼロにし、Excelや手入力手計算の廃止、業務の簡易化、データ活用などにより、契約処理で約40%、経理処理で約70%の業務量削減を実現したという。
工夫ポイントとしては、プラグインを駆使し、マニュアルがなくてもわかりやすく作っている点。メシウスのkrewSheetを用いることで、件数も一目でわかり、テーブルで入力した項目も一覧で表示。ページ遷移がなくても、サブウインドウから入力が可能になっているという。
また、もともとExcelだったテーブルもCUSTOMINE(アールスリーインスティテュート)を用いることで、ほぼすべての作業を一覧から行なえるようにした。プラグインとアクションボタンでレコードを追加できるようにし、手間だった二重入力や手作業を廃止。一方、アクションボタンは17もあるので、詳細画面でいつでも利用方法を調べることができるようになっているという。
さらにアプリの変更点は、スペースのスレッドで共有し、URLはLINE WORKSでも共有できる。変更日時や変更対象アプリ、何をしたかをわかりやすく記載し、画像が張って変更箇所を明示。変更の経緯や目的、使用用途なども記述し、「ぱっと見てわかるように心がけています」と首藤氏は語る。
課題分析力、根気、チーム力 あれ?これってクライミング
「自画自賛していいですか? 限られた時間の中で、ほぼ一人でここまで作ったってけっこうがんばってますよね!」と首藤氏。3ヶ月でここまで作り上げるのは確かにすごい。
もちろん自分でもけっこうがんばったと思っていたが、他のメンバーからは「あれ?首藤ってIT未経験じゃなかったっけ?」と言われた。実際、学生時代はITと無縁で、就職してからはずっと営業だったので、正真正銘のIT未経験。首藤氏は改めて「なぜこんなことができたのか?」を考えてみたという。
まず大きかったのは現場経験。営業時代に非効率な業務をなんとかしたいと考えてきたからこそ、kintoneでの解決につながった。
もう1つは「クライミング」だ。クライミングのうち、首藤氏がはまっているボルダリングでは、スタートとゴール、そして触ってよいホールドが決まっている。そして、スタートからゴールまでの1つ1つのルートを「課題」と呼ぶ。この課題にクライミングシューズと滑り止めのチョークだけで挑む。これがボルダリングだ。
実はボルダリングは登り切るためのパワーだけではなく、課題の分析力がかなり重要で、これがボルダリングの面白いところでもあるという。「事前に課題をよく見て、どう上るのかを考えるのですが、つま先の角度をちょっと変えるだけで、登れるようになる。特に小柄な私は手足が届かないことが多いので、より一層工夫しています」と首藤氏。
もちろん、課題分析力だけではなく、根気も重要。完登までに1時間かかったり、複数回のチャレンジで1ヶ月、1年かかることもあるので、根気は大事だ。
また、チームワークも重要。「個人競技なのに?と思いますよね。確かにクライミングは自分と壁との戦いです。逆に言うと、ほかに敵がいません」と首藤氏。そのため、実際の試合では、選手同士で相談する時間がある。クライミングジムでも、誰かと相談し、他の人が登れたときは自分ごとのように喜ぶという。「いやー、なんて素晴らしいスポーツなんでしょう。そろそろみなさん登りたくなりましたよね」と首藤氏。
ここまで話せばわかるとおり、クライミングは業務改善に似ている。課題を見つけ、分析し、根気強く取り組み、ときにはチームでやりきる。「だから、クライミングにドハマリしている人は業務改善に向いてるわけです」とのこと。そんな首藤氏にとって業務改善はまさに天職。そして業務改善の壁を登るためのクライミングシューズにあたるのが、kintoneというわけだ。「首藤の業務改善適性がkintoneと出会い、どんどん難易度の高い壁に登れるようになったわけです」と首藤氏は振り返る。
結果、賃貸事業部は2023年度の近畿大学推薦店として、成約件数で悲願だったNo.1に登り詰めた。「みんなのがんばりあってこそでしたが、私のアプリもあって、初めて結果が出せた。そんな瞬間でした」(首藤氏)。

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