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業務を変えるkintoneユーザー事例 第292回

アドウェイズが挑んだ年600時間の業務削減とエラー・行動ログの解析

“なんとなく”の現場改善、もうやめません? kintone運用6年で辿りついた自動化と可視化

2025年10月09日 10時00分更新

文● 柳谷智宣 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 「皆さん、kintoneによる“なんとなくの改善”をそろそろ終わりにしませんか」 ―― kintoneを導入して6年が経つアドウェイズ。営業中心に効率化を達成していたものの、どこか思い込みで現場の改善を進めていたという。そこで同社が乗り出したのが、アプリのエラーや行動ログの分析だった。

 サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive 2025 Tokyo」を開催。5番手で登壇したアドウェイズの上森香氏は、kintoneアプリの自動化と可視化によって実現した一歩先の業務改善について披露した。

アドウェイズ 広告事業本部 マーケティングテクノロジーDiv. ユニットマネージャー 上森香氏

kintone運用6年、見逃されたいた経理部門の「3つの沼」

 アドウェイズは、インターネット広告代理業を主軸に、多岐にわたる事業を展開する東証プライム上場企業である。同社が仕事やサービスを提供する上で大事にしている価値観は「なにこれ すげー こんなのはじめて」であり、企業のパーパスにも盛り込まれている。

 同社がkintoneを導入して、6年が経過している。現在、600を超えるアプリが稼働しており、クライアント登録から広告の受注まで、さまざまな業務がkintone上で行われている。上森氏は「kintoneさんとは相当ずぶずぶな関係」と冗談めかして語る。

 同社は長年のkintone運用を通じて、営業部門の効率化を積極的に推進してきた。一方で、事業を支えるバックオフィスの業務課題には目を向けられていなかったという。そんな中、業務改善に本腰を入れるきっかけとなったのは、電子帳簿保存法の改正だ。「請求書送付のプロセス」を大きく見直す必要に迫られたのである。

 しかし、いざ請求書送付という業務に向き合うと、想像以上に深く、複雑な問題が潜んでいた。上森氏はそれを、「3つの大きな深い沼」と表現した。

請求書送付業務には3つの大きな課題が潜んでいた

 第一は「アナログ作業の沼」だ。経理担当者が1件1件請求書をダウンロードして、印刷・封入・郵送するというアナログな作業を、月に400件もこなしていた。加えて、これらをすべて郵送するには、7~8営業日も要した。

 第二は「個人対応地獄の沼」だ。クライアントからは、頻繁に「早めに請求書を送って欲しい」という要望が寄せられる。それに対し、営業担当者が個別にメールで送付。その結果、業務の属人化が進み、個別対応だけで月間100時間程度もの工数が費やされていた。

 第三は「紙文化崩壊の沼」だ。コロナ禍や電帳法改正といった外部環境の変化により、そもそも紙ベースでの運用自体が限界を迎えていたのだ。

新卒エンジニアが実現した「ワンクリック自動送付」 年600時間の業務削減へ

 これらの深い沼から脱却するために開発されたのが、「請求書自動送付」機能だ。kintone上の簡単な操作だけで、請求書がクライアントに自動送付される仕組みであり、複数のkintoneアプリと外部サービスの「kMailer(トヨクモ)」・「SendGrid(Twilio)」によって構築している。

 開発チームが強く意識したのが、“直感的な操作性”だ。どれだけ優れたシステムを作っても、現場に受け入れられなければ意味がない。「ユーザーである営業担当者は、『承認』ボタンをクリックするだけ。裏側では色々な処理をしていますが、すべて意識することなく、請求書が自動送付されます」(上森氏)

 また、万が一送信に失敗した場合に備え、システムがエラーを検知し、即座にSlackに通知が飛ぶ仕組みも実装している。

ワンクリックで送信できる請求書自動送付システム

 この一連のシステムは、当時まだ新卒だった上森氏のチームメンバーが開発した。上森氏は、この功績により、社内の「ベストルーキー賞」も受賞している。kintoneが、アイデアと工夫次第で誰でも活用できるプラットフォームであることを示す好例だろう。

 もちろん、開発過程では様々な壁が立ちはだかった。例えば、「送信処理が失敗した理由がわからない」という問題だ。当初は、kMailer単体での運用を検討していたが、受信拒否設定などで送信が失敗した際に、その原因を特定できないことが判明。請求書は企業にとって極めて重要な書類であり、確実に届ける必要があった。

「これはいかんということで、SendGridを合わせて利用して、送信失敗時にエラーログを取得できるようにしました。経理担当者からは、即座に対応できるようになったと安心した声が届いています」(上森氏)

 さらに、処理中に誤ってブラウザのタブを閉じてしまう「うっかりミス」対策として、警告メッセージを表示する機能も追加。他にも、運用を切り替えるにあたって、クライアント約1000件分のメールアドレスの有効性を確認する必要があったが、「すべて丁寧にメールアドレスを確認しました」(上森氏)と、地道な作業も重要だったという。

多発していたうっかりミスを警告メッセージで解決

 こうした課題を乗り越えて完成したシステムは、大きな導入効果をもたらした。まず、請求書送付に関する工数は年間で600時間以上、約72.6%もの削減に成功している。送付までのリードタイムも、8営業日から最短1営業日まで劇的に短縮。コスト面では、年間500万円以上、約73.5%を削減した。

 現場からのポジティブな反響も大きかった。「月初対応をしたくない」という悲鳴が聞こえていた経理部門からは、「メインの業務に集中できるようになった」「繁忙期の対応が減って嬉しい」といった感謝の声が届いた。クライアントにも好評で、人為的なミスも激減し、問い合わせ対応の手間も抑えられている。

請求書自動送付システムの導入効果

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