イスラエルによるイラン攻撃に便乗したフィッシングが発生
提供: フォーティネットジャパン
本記事はフォーティネットジャパンが提供する「FORTINETブログ」に掲載された「行き先なき特別ミッション」を再編集したものです。
影響を受けるプラットフォーム：N/A
影響 ：個人識別情報（PII）におよび銀行の詳細情報の盗難
深刻度 ：中
2025年6月13日に、イスラエルは、イラン軍指導部、従来の軍事施設、防空網、および核インフラストラクチャを標的とする先制的な掃討作戦を開始しました。イスラエル政府とイスラエル軍は、この軍事行動をライジング・ライオン作戦と呼んでいます。フォーティネットは6月に公開したブログの中で、この最近の紛争によって浮き彫りになったサイバー戦争の新たな現実について詳しく説明しました。
イスラエルとイランの両国の間で12日間にわたり攻撃と反撃が交わされた結果、巻き込まれた民間人は、大きな被害を受け不安が広がりました。ミッドナイト・ハンマー作戦を通じて米国が関与した後、停戦が発表され、現在のところ維持されています。
その後、FortiGuard Labsは、この危機の悪用を試みたと思われるケースを特定しました。脅威アクターは、再燃する暴力に対する恐怖を利用して、戦争から避難しようとする個人から個人情報や金融情報を盗むフィッシングキャンペーンを開始しました。
初期調査の結果
2025年6月22日に、ドメイン「lineageembraer[.]online」が登録されたことが、FortiGuard Labsのツールにより検知されました。その後すぐに、当該ドメインのオンライン稼働が開始されました。
図1：「lineageembraer[.]online」の全レコード
このドメインの特徴は、ブラジルの有名な航空宇宙メーカーであるエンブラエル社の名前を述べていることです。「リネージュ（Lineage）」の名前は、エンブラエルリネージュ1000および1000Eを指しており、これは、同社の民間旅客機の機体であるE190ビジネスジェットのことです。この航空機は、VIP輸送用として販売されていますが、比較的珍しく運行コストが高いため、多くの場合、航空会社、チャーター会社、または富裕層の個人使用を連想させます。そのため、緊急避難のオファーの文脈でこのドメインが使用されることは特に疑わしくはありません。
ランディングページ
検証時、このサイトには、ビジネスジェットのテールセクション（胴体後部）とエンジンナセルの画像が表示されており、「SPECIAL MISSIONS（特別ミッション）」と書かれたバナーが添えられています。
図2：「lineageembraer[.]online」のランディングページ
このランディングページには、目立つ「Book Now（今すぐ予約）」ボタンがあり、ユーザーに対して2166USドルで座席を提供しています。合計18の座席が予約可能だと表示されており、これは、エンブラエルリネージュ1000または1000Eの乗客定員とほぼ一致します。
ページのフッターには、以下のような旅程の詳細が表示されています：
出発：2025年6月26日
テルアビブ（ベングリオン空港）発、ニューヨーク（テターボロ空港）着
座席数は非常に限られています
「Instruction[sic]（手順[原文のまま]）」というラベルが付いた別のボタンも表示されていますが、これは以下で言及します。
考察
このサイトの証明書は、Google Trust Servicesを使用して生成されており、稼働開始日から2025年9月20日までのわずかな期間有効でした。
図3：「lineageembraer[.]online」の証明書チェーンの開始部
注目すべき点として、ページフッターには出発日が6月26日と記載されており、これは停戦が2025年6月24日に発効してから2日後でした。このことから、このサイトの運営者は、停戦を見落としていたか、安全または個人的な理由でこの地域を離れることを模索する一部の個人がまだいることを想定していたことが示唆されます。これだけでは悪意のある意図は確認できませんが、全体的な疑惑はさらに高まります。
「Book Now（今すぐ予約）」ボタンをクリックすると、lineageembraer[@]gmail[.]com宛にmailto:操作（送信）が開始されます。このメールアドレスは、何らかの正規の組織とを関連付けるオープンソース情報はなく、偽のドメインと一致させるだけの目的で作成されたと思われます。
「Instruction[sic]（手順[原文のまま]）」ボタンをクリックすると、旅程の説明が記載されたPDFのダウンロードが開始されます。興味深いことに、このファイルは、Shopify CDN（コンテンツ配信ネットワーク）にホストされており、これは、正規の航空サービスやチャーターサービスでは一般的でない選択肢です。このファイルは以下の場所に配置されます。
hXXps://cdn.shopify.com/s/files/1/0945/8889/5563/files/Special_Mission_Flight_Embraer_Lineage_1000E.pdf?v=1750688015
高額な国際チャーターサービスで、ShopifyのCDNなどの商用インフラストラクチャを使用するとなると、同サイトの信頼性がさらに損なわれます。
図4：Instructions（手順）
図4に示すように、このサイトは、「プレミアム」避難サービスと思われるものを紹介しています。記載されている郵便番号と都市（英国のブリストル）は本物ですが、家や建物番号が存在しておらず、疑念を抱かせます。この郵便番号は、わずか10数軒の小さな住宅街のものであり、国際チャーターサービスの正規の運営拠点の可能性は低いと思われます。
この便は、テルアビブのベングリオン空港を出発しテターボロ空港に到着すると広告されていますが、同サイトではニューヨークであると誤って記載されています。テターボロは、実際には米国のニュージャージー州であり、マンハッタンから約19.3km（12マイル）の場所にあります。
予約を完了するには、ユーザーは、個人情報の詳細（名前、住所、パスポート番号など）および実行する支払い手順を送信するよう要求され、依頼者が「真剣」であると運行者が判断することが条件となっています。精査を行うこのようなアプローチは、正当であるという誤った感覚を与え、価値の高い個人識別データを選択的に収集することに寄与している可能性があります。
詳細な分析
このオファーは、ロジスティック面および金銭面で矛盾があり、正規のサービスでないという結論をさらに裏付けています。
この便の広告に記載されているリネージュ1000Eは非常に珍しい航空機モデルです。エンブラエル社が2019年にこのモデルの製造を中止するまでに生産された機体は10数機未満です。一部の機体はVIP輸送用に構成されていますが、地域紛争中に短期間の間に機体を確保することは、非常に可能性が低いと思われます。
運行的な制限も疑問を抱かせます。リネージュ1000Eの最大航続距離は約4600海里ですが、テルアビブからテターボロまでの直線距離は約5700海里あります。燃料補給のために1回以上立ち寄る必要があり、主張にあるノンストップ避難便を実現することは困難です。
最後に、広告にある1座席あたり2166USドルという価格は、ハイエンドチャーター機との記載がある割に価格が非常に安く、現実的ではありません。比較として、2025年7月3日（木）のテルアビブ発ニューヨーク行きの民間航空のファーストクラスチケットの価格は、£5085（約6976.70USドル）から£6014（約8251.30USドル）の間です。価格が大きく異なることは、このオファーの正当性に関する大きな疑念を引き起こし、詐欺的な意図が強く示唆されます。
図5：フライト価格の比較を表示するGoogle検索
この価格差は無視できませんが、実際のチャーター費用を考慮すると、この価格はさらに非現実的になります。当社の調査によると、このような長距離路線でリネージュ1000Eを飛行させると、通常、1座席あたり1万USドルを大きく超えることが予想されます。この料金には、燃料費、搭乗員の費用、着陸料、および危機の際に珍しい機体を調達することに伴うプレミアム（割増料金）が含まれます。
座席を2166ドルで提供するには、政府やNGO、企業スポンサーからの大きな金銭的支援がある場合に限り実現可能ですが、これらのいずれも存在しません。このサービスには目に見える提携関係や信頼できる背景情報がないため、巧妙に作られた詐欺だと思われます。すべての指標により、緊迫した状況下で、個人データを窃盗したり個人から金銭を引き出すことを狙った詐欺行為であることが示唆されます。
結論
残念ながら、紛争時においても、恐怖や絶望を悪用しようとする人が必ずいることは歴史が示しています。このケースではすべての指標で、不安定な状況から逃れようとする個人から、個人識別データ、金融情報の詳細、場合によっては資金を盗難しようとしていることが強く示唆されます。
フォーティネットのソリューション
FortiGuard IPレピュテーションおよびアンチボットネットセキュリティサービスは、フォーティネット分散ネットワークからの不正送信元IPデータを集約することで、これらの攻撃をプロアクティブにブロックします。この分散ネットワークでは、脅威センサー、CERT、MITER、協力関係にある他社、その他のグローバルソースが連携し、悪意ある送信元に関する最新の脅威インテリジェンスを提供します。
本件の脅威またはその他のサイバーセキュリティ脅威がお客様の組織に影響を与えていると思われる場合は、当社のグローバルFortiGuardインシデントレスポンスチームまでお問い合わせください。
IOC（Indicators of Compromise：侵害指標）
ネットワークベースのIOC
hXXps://lineageembraer[.]online
hXXps://cdn.shopify.com/s/files/1/0945/8889/5563/files/Special_Mission_Flight_Embraer_Lineage_1000E.pdf?v=1750688015