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業務を変えるkintoneユーザー事例 第288回

「使われないkintone」「野良アプリ」問題をどう乗り越えたのか?

DXはゲームセンターの“落とし物管理”から加速した 海外まで広がるGENDAのkintone活用

2025年09月24日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 M&A後の事業統合を円滑に進めるために、エンターテインメント企業のGENDAに導入されたkintone。その後作られたアプリはわずか数個にとどまり、途中入社の寺井氏がアピールするも社内の反応は冷ややか。転機となったのは、ゲームセンターの“現場”から舞い込んだ業務改善の相談だった。

 サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive 2025 Tokyo」を開催。3番手で登壇したGENDAの寺井祐介氏は、伴走支援で現場のアプリ作成を推進しているうちに、海外支社まで広がったkintone活用について語った。

GENDA IT戦略部 寺井祐介氏

ひとり情シス時代の挫折と、M&A先で直面した「使われないkintone」の現実

 GENDAは、ゲームセンターの「GiGO」やカラオケチェーンの「カラオケBanBan」などを運営するエンターテインメント企業だ。積極的なM&Aにより事業を急拡大しており、寺井氏自身もその流れでGENDAに加わっている。

 2021年上旬、寺井氏はゲームセンターを運営する別の企業で、いわゆる「ひとり情シス」として働いていた。当時、Excelでの管理に限界を感じていた中で、kintoneと出会った。業務改善につながる手応えを感じたものの、なにぶん業務が多岐にわたっていた。上長から「1人じゃ管理できないでしょ」と言われ、導入までには至らなかったという。

 その翌年、GENDAに合流することで、すぐにkintoneと再会する。同社では、M&A後の事業統合を円滑に進めるためにkintoneを導入していたのだ。「今度はkintoneが使える」と喜んだ寺井氏だが、現実は非情であった。

 寺井氏が考える理想的なkintoneのあり方は、“全員がアプリを開発”でき、“現場自らが業務改善を進め”、“自然と社内に広がっていく”というものだった。しかし、GENDAでkintone導入後に作られたアプリはわずか数個。利用も登録と閲覧が中心で、アプリを開発しようという動きはみられない。要するに、あまり活用されていなかったのだ。

寺井氏の(勝手な)kintoneの理想像

「もったいないと思い、他部署の社員に『kintoneどうですか』とアピールしたこともありましたが、会議の場が凍り、軽いトラウマになりました」(寺井氏)

 kintoneの価値を信じるがゆえの行動だったが、現場の温度感を無視したアピールは受け入れられなかった。このような悲しい経験もしつつも、寺井氏自身はkintoneで業務システムの改善を進めるが、全体的にみれば活用できていない状況が続いた。

kintone×プラグインで月2000件の落とし物管理を効率化

 そんなkintone活用の転機となったのは、ゲームセンターの現場から舞い込んだ業務改善の依頼だった。紙・Excel業務の撤廃を進めるチームから、kintoneで解決できないかという相談を受けた。対象となったのは、利用者も多く、利用頻度も高い落とし物の管理業務。ゲームセンターでは毎月2000件以上の落とし物が発生しているという。

 従来は、落とし物があるとまずメモ紙に記入。その後、別の紙の台帳にも記入するという二重作業が発生していた。そして、顧客から問い合わせがあると、接客フロアとバックヤードの保管場所を往復して現物を確認しなければならない。

「落とし物は3つの部署が関連するため、改善には時間がかかるかなと懸念したのですが、かえって功を奏しました。チームでkintone活用を議論できたからです。まず、私からの基本操作のレクチャー後に、現場の方にアプリを作成してもらいました」(寺井氏)

 結果、現場に精通したスタッフが作成したため、実務に沿った使いやすいアプリが完成。kintoneを初めて触ったスタッフからは「そんなに難しくなかったね」という声があがり、寺井氏も安心したという。

毎月2000件以上発生する落とし物管理の効率化にチャレンジ

 また、GENDAの運営するゲームセンターは店舗数が多く、全店舗のスタッフにkintoneアカウントを付与する予算はなかった。そこで、連携サービスである「じぶんページ」を利用して、アカウントを持たないスタッフでも情報の登録や閲覧ができる環境を築いた。

 このkintoneアプリにより、落とし物管理業務は大きく改善。まず、メモ紙への記入が不要になった。そして、スマートフォンなどから落とし物情報にアクセスできるようになり、フロアと保管場所を往復する回数も大幅に減った。結果として、全店舗で年間1400時間もの作業時間の短縮につながっている。「店舗スタッフが使う初めてのkintoneアプリであり、『やっとkintoneが社内で広がってきた』と嬉しかったことを覚えています」(寺井氏)

 この成功体験で寺井氏が学んだのはは、現場と一緒に課題を見つけ、業務改善することの重要性だ。寺井氏によるこれまでの“kintoneのアピール”は、押し付けに過ぎなかった。この気づきが、kintoneが浸透していく上での礎となった。

連携サービスの「じぶんページ」で、300店舗以上で利用できるように

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