業務効率化にとどまらない改革を目指し、Oracleのクラウド型ERPを採用
「経理の質は経営の質を決める」 SMBCグループは経理業務改革で“90%自動化”目指す
2025年09月22日 09時00分更新
SaaS活用の最大の成功要因は……
Oracle Cloud ERPを効果的に活用するために、SMBCグループが力を入れたのが「インプットシートのデザイン」だという。
山本氏は「SaaSの良さを活かすためには、入力するデータが重要」だと判断し、現場からの要望とノウハウが凝縮されたインプットシートを作成することを重視した。「入力時点でデータが標準化されているからこそ、自動仕分けや支払い処理がスムーズになる」と山本氏。入力項目を必要最小限にし、スマホアプリのように直感的な入力ができる構造を整えたうえで、マスターデータ照合で入力の不備(入力エラー)はリアルタイムに検知、警告する。
そんな「申請者の負担がなく、むしろ申請者を助ける仕組み」としてインプットシートを作ったことで、申請手続きの工数は「従来比でおよそ半分まで削減」できたという。さらに、使い勝手の改善にとどまらず、「誰がやっても同じ品質を担保できる」という点もメリットだと説明する。
「SaaS活用の上で成功を分ける最大の要因は、インプットシートのデザイン。業務をシステムに合わせるのではなく、インプットシートの設計に現場の知恵やノウハウをいかに落とし込めるかが鍵だ」(山本氏)
「自分たちは生成AIより1ランク上の仕事をしている」という気概
今後について山本氏は、人が判断する業務についても構造化を進め、AIなどを利用して自動化を拡大していきたいと語る。
たとえば、すでに400種類ほどもある勘定科目、560種類以上ある税務区分、約350種類ある法定耐用年数などについては、判断要素の体系化を進めているという。これまでは社員が知識と経験に基づいて、手作業で正しいものを選んでいたが、作業負荷と正確さの点で課題があった。そこでこの選択作業を、過去の実績、生成AI、ルールベースの3つを組み合わせるかたちで自動化した。現在は税務区分では72%、法定耐用年数では88%のケースで、人の確認を要さないレベルの自動化を実現している。
ただし、間違いが許されないのが経理業務の特徴だ。「我々は(正答率)100%にこだわっている」と山本氏は強調する。そのため、100%の確信が得られないケースについては、人に作業を回すように生成AIのプロンプトを仕組んでいる。これにより、自動化する部分は安心して生成AIに任せることができる。
山本氏は、「生成AIが100%確信を持てないものは、自分たちにくる。そのため『自分たちは生成AIより1ランク上の仕事をしている』という気概を持ってもらえる」と語る。実際、人の役割が単なる作業から「業務プロセス全体の管理」に変わったことで、多くの社員から「仕事が楽しくなった」という声も聞かれるという。
このようにして、現在は「自動化率90%」に向けた道のりを進めている。そして山本氏は「我々が目指す究極の姿は、申請負担ゼロの『ワンクリック申請』」だと述べる。たとえば支払い依頼手続きであれば、申請者が請求書画像をアップロードすると、システムがデジタル保管に必要な要件(画像解像度など)を確認し、問題がなければAI-OCRを使って必要な情報(金額、取引先など)を自動抽出する。その内容を生成AIが解析し、勘定項目や税務部分などを自動選択する。最終的な結果を申請者が確認し、申請実行ボタンを押すことで、支払い申請が完了する。
正確さとスピードの改善が図られることで、経営に直結するデータの質が高まる。これにより、連結決算手続きの精度とスピードも高まり、データに基づく意思決定の質とスピードの改善にもつながる。
改革の軸は「人」、現場の専門家と一緒にSaaSの良さを引き出す
これまで取り組みを振り返って、山本氏は苦労した点の1つとして「人」を挙げる。「経理会計は、専門家の経験や知見が深い領域。携わる人々は誇りを持っており、そこを単にテクノロジーで置き換えると言うのでは、納得をしていただけない」という。
先述したインプットシートの定義では、そうした現場の専門家の知恵を落とし込んだ。このプロセスが重要だったようだ。これまでその業務をやっていた人と一緒になって、SaaSの良さを引き出すアプローチをとったことが成功につながった、と分析する。
「プロジェクトで軸足を置くのは人」「これからは、自動化されたものの差分分析や異常の確認、さらにはそこから見えてくる改善を指揮する役割に変わる、と意識してもらった。一段上のチャレンジに一緒になって取り組みたいという意義やインセンティブを早期に醸成できる」(山本氏)
SMBCグループではグループ経営の強化に向けて、現在、標準パッケージを国内外のグループ会社に横展開している。勘定科目体系の最適化、グループデータの集約(FCCSモジュール)によるグループデータの集約により、日常業務の効率化と決算業務の早期化を同時に実現している。
特にグローバル展開においては、各国の会計基準と本社基準を両立させる仕組みを整備した。プライマリー元帳とセカンダリー元帳を組み合わせ、複数の会計基準や通貨を併存できるアーキテクチャーを構築している。これにより、現地にとっては無理がなく、本社にとっても統制が効く仕組みを実現しているという。
〓P15グループ経営強化に向けた考え方。Oracle Fusion Cloud ERPは、国内外のグループ各社に展開していく
2027年4月から施行される「新リース会計基準」への対応にも触れた。
Oracle Cloud ERPはグローバルで展開するSaaSだが、「日本とグローバルのOracleの協力のもと、既存のグローバルスタンダードに沿ったリースモジュールの機能を、日本の会計基準ベースに置き換えるエンハンスメントに協力してもらっている」と山本氏。このように、日本の法体制に柔軟に対応してくれる点もOracleを選んだ理由だという。
このエンハンスメントにより、AIを活用して契約内容を読み取り、資産計上するかどうかの判定、Oracleのリースモジュールへの登録を一気通貫で処理する仕組みを実現したい、と話した。


