前回記事(ビジネスとIoTが出会うとき ― 適しているのは「組み込み」か「後付け」か?)では、IoTのビジネス実装手法には「組み込みIoT」と「後付けIoT」があることを説明しました。あらかじめデバイスやビジネスの企画/設計/開発段階からIoTを組み込むのが「組み込みIoT」、既存のデバイスやビジネスにIoTを付け加えるのが「後付けIoT」です。
前回見たとおり、組み込みIoTは、特に「新規ビジネスの立ち上げ」などに適していると言えます。一方で、後付けIoTは「既存のシステムやビジネスの改良、課題解決」に適していると言えるでしょう。
既存のビジネスやシステムの課題を手早く解決したいなら「後付けIoT」
たとえば、工場の製造機械の稼働状況をリモートで監視/可視化したいといったニーズはよくありますが、IoTに対応させるために、既存の製造機械を丸ごと入れ替えるというのは現実的ではありません。機械の制御装置(PLC)と連携できるIoTデバイスを追加し、クラウド上でアプリを開発してリモート監視や可視化を実現するといった、後付けIoTの手法が適しています。
以下のトヨタ自動車の事例では、既製品のIoTデバイスを組み合わせて、現場の担当者が自らソリューションを開発しています。またAGCの事例では、物流現場に存在するいくつもの課題を、IoTを使ってひとつずつ解決してきたことが紹介されています。
■これぞテクノロジーの民主化 トヨタのカイゼン文化にフィットしたSORACOM
■内製化で実現したAGCの物流クライシス対応 位置情報とIoTがどこまでできたのか?
IoTの適用先は、複雑なユースケースに限りません。下記の事例では、安価かつ簡単安価に導入できるクラウドカメラを現場に導入したことで、業務改善につながったことが紹介されています。業務課題が解決できれば、その複雑さを問わずひとつの“IoTソリューション”と言ってよいでしょう。
■安価で設置がとにかく簡単 両毛丸善は90台超の規模でソラカメ導入
後付けIoTのメリットは、ビジネス課題の解決を手早く実現できることです。既製品のIoTデバイス/モジュール/クラウドシステムを使えば、専門的な開発スキルを持たなくてもソリューションを実現することができます。開発スキルよりもむしろ、現場の課題を発見する力、それを解決するアイデアを持つ力が重要視されるでしょう。
一方で、「そもそもIoT非対応のデバイスや設備を、どうIoT対応させるか」はハードルになります。たとえば「古い製造機器をIoT化する」といったケースでは、現在の機器のようなインタフェースが備わっておらず、機器からどうデータを取得するのか工夫が必要になることがあります。
なお、ここまで、組み込みIoTと後付けIoTを分けて話をしてきましたが、現実には「両方のハイブリッド」というケースもあります。たとえば、自社向けに後付けIoTの手法でソリューションを開発したところ、外販ビジネスもできそうなので、あらためて組み込みIoT方式で製品開発をし直した――といった話もよくあります。この場合、自社向けに開発したものが“プロトタイプ”となり、その後の新製品や新規ビジネスの立ち上げにつながっているわけです。
■「ついカッとなって作った」 補助金騒動から生まれたポータブル通信電流計ENIMAS 製造業から外食チェーンまで魅了
結論としては、「組み込みか、後付けか」よりもまずは、どんな課題を解決したいのか、どんな新しいアイデアを実現したいのかをしっかり考えるべき、ということになります(ごく当たり前の結論かもしれません)。そこをクリアにして、過去のIoT開発事例も参考にすれば、おのずと取るべき手法も見えてくるでしょう。
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