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業務を変えるkintoneユーザー事例 第285回

教育研修事業部がkintoneと歩んだ業務推進と人材育成の道のり

“kintone嫌い”の営業担当が改革の旗手に マイナビが乗り越えた新規事業の「成長痛」

2025年09月17日 12時00分更新

文● 柳谷智宣 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 「事業だけではなく“事業視点を持つ人材”が育ったのはkintoneによる内製ならでは」 ―― と語るのはマイナビ 教育研修事業部の五十嵐康平氏だ。同事業部はビジネス拡大に伴いkintoneを導入。単なる課題解決にとどまらず、当初はkintoneに対してネガティブだったメンバーが事業推進の中心的存在になるなど、人材の成長にもつながったという。

 サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive 2025 Tokyo」を開催。トップバッターを務めたマイナビ 教育研修事業部の五十嵐康平氏と前廣悠香氏は、売上頭打ちの危機やガバナンス、離職などの“成長痛”を乗り越えた、kintone活用の歩みについて披露した。

Zepp DiverCityで開催された今年の「kintone hive Tokyo」トップバッターはマイナビが務めた

“ガチガチの個人商店”からの脱却、マスター整備で実現した情報の民主化

 マイナビは、「一人ひとりの可能性と向き合い、 未来が見える世界をつくる」をパーパスに掲げ、多様なサービスを展開する総合情報サービス企業だ。その中で、五十嵐氏と前廣氏が所属する教育研修事業部では、企業向けの研修サービスやHRテックサービスを手掛けている。

 同事業部の売上の約9割を占めるのが、顧客ごとにプログラムをカスタマイズする「講師派遣型の社員研修」だ。その業務は多岐にわたり、ヒアリングから企画提案、受注後の調整、テキスト準備、講師への発注、当日の運営フォローまでを一気通貫で提供する。とにかく工数がかかる労働集約型のビジネスモデルである。

マイナビ 教育研修事業部 事業開発部 事業開発チーム チーム長 前廣悠香氏

 教育研修事業部は、2008年、リーマンショックによる経済危機の中で立ち上がった。この“事業創造期”には、個々の営業力でなんとか事業を軌道に乗せてきた。その結果、2016年以降の“事業拡大期”には、「ガチガチの個人商店」状態に陥ってしまう。加えて、初期メンバーの離脱に伴う引き継ぎが不十分で、貴重なノウハウが個人のExcelに眠るなどの課題も顕在化。この状況に危機感を抱いた五十嵐氏は、情報共有基盤としてkintoneの導入を決断した。

 五十嵐氏は、「kintoneの導入自体は、そこそこうまくいったのですが、事業の売上が伸びるたびに、様々な“成長痛”が現れた」と語る。ひとつ目の成長痛が、労働集約型ビジネスゆえの売上頭打ちの懸念だ。

マイナビ 教育研修事業部 事業推進統括部 統括部長 五十嵐康平氏

 この懸念を払しょくすべく、kintoneを核としたSFA(営業支援システム)と各種マスターデータを構築して、業務の標準化と営業インフラの整備を図った。Excelで属人管理されていた営業履歴や顧客情報をkintone上に集約して、混在していたマスターデータもクレンジングしていった。

 現在では、同事業部のSFAは、kintoneを中心に据えつつ、ユーソナーの顧客データ統合ソリューション「ユーソナー」やアドビのマーケティングオートメーション「Marketo Engage」、自社の売上管理システムなど、様々な外部サービスと連携。その中で、特に重要な役割を果たしたのがkintoneの「企業マスター」アプリだ。事業部内の顧客に関するすべての情報を集約しており、膨大な情報量を見やすくするためタブ機能で表示を出し分けている。

「マイナビは直販と代理店営業が混在している営業組織ですので、営業権問題が度々発生します。対立を避けるために『営業権判断』タブを設けて判断しやすいようにしています」(前廣氏)

 さらに、過去10年以上の取引実績も集約され、急な引き継ぎにも対応可能になった。営業からは見えづらいマーケティングやインサイドセールスの活動履歴も可視化し、部門間の連携強化にも寄与している。

kintoneを中心にSFAを構築した

売上拡大の裏で忍び寄るカオス、kintoneイントラで統制を強化

 売上拡大に伴い発生したもうひとつの成長痛がガバナンスだ。五十嵐氏は「あまり大きい声では言えませんが、勝手なことをしてでも売上を上げようという人が出てきました」と振り返る。事業の健全な成長のためには、ガバナンスの強化とナレッジ共有の仕組みが求められた。

 まずは、事業運営の根幹となるルールを明確に策定。そして、ルールやナレッジを集約し、常に最新の状態を保つためのデータベースとしてkintoneを活用したイントラネット(社内ポータルサイト)を構築した。各部門がバラバラに管理していたファイルを一箇所に集約し、誰もが必要な情報に素早くアクセスできる環境を目指した。

ガバナンスとナレッジ共有の仕組みを構築

 イントラネットのフロントエンドはWordPressで構築しているが、リンクボタンを押すと、kintoneの「ファイル倉庫」アプリに遷移する仕様になっている。ファイル倉庫アプリには23種類、約2000件のデータが格納されており、フラグなどで絞り込みをかけた一覧表示にリンクすることで、迅速なアクセスを実現している。kintoneを更新すればイントラネット上の情報も更新されるため、常に最新の情報を共有可能だ。

 さらに、イレギュラーな対応が必要な場合の「事前承認申請」アプリも作成。ルールを“絵にかいた餅”にしない運用と、記録が残る仕組みによって、ガバナンスを効かせた組織運営が可能になった。

前廣氏が作成したイントラネット

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