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業務を変えるkintoneユーザー事例 第284回

「負のスパイラル」を解消した新コスモス電機のkintone導入

横長Excelとメールだらけの仕様変更 kintoneで「紙様」はいなくなった

2025年09月12日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●サイボウズ

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名前をつけてやる、現場に使ってもらう

 では、どう解決すればよいか? 上司Kは2020年のkintone Awardでグランプリをとった東京ドームの事例(関連記事:「みんな初心者」を前提に工夫を重ねた東京ドームのkintone活用)を聞いて、「これは使える!」とひらめいたという。構築を担当したミューチュアル・グロースに連絡し、契約を締結して、システムの構築を開始した。齊藤氏は、システム構築でよかったポイントを3つ挙げる。

 1つ目はアプリの名前だ。通常アプリの名前は、「日報アプリ」や「顧客管理アプリ」など機能がわかりやすいものになるが、今回構築した仕入れ先・外注管理のアプリは生産本部に依頼し、シンボリックな名前を付けてもらった。こうして生まれた名前が「CUBIC(キュービック)」。立方体のように設計、生産、仕入れが密接に結びつく様をイメージしたという。「最初はみなさん『kintoneのあれ』みたいな感じで言ってくれませんでしたが、私がCUBIC、CUBIC、CUBICと刷り込むように言っていたことで、生産本部の自分たちのシステムということを認識してもらえました」と齊藤氏は語る。

生産本部に「CUBIC」という名前をつけてもらった

 2つ目は生産本部のメンバーにCUBICを使ってもらうことだ。当初はアカウントがあってもなかなかログインしてもらえない状態だったが、CUBICの専用スペースを設け、質問や意見をオープンに受付けるようにした。ユーザーの関心を惹き、いったんログインしてもらえば、アプリ上に業務で必要な情報が瞬時に得られることに気がつき、利用がスタートするわけだ。

 一番大事だったという3つ目は、主体はあくまで生産本部であること。齊藤氏やミューチュアル・グロースは構築やサポートを行なうが、主体は使うと決めた生産本部。「運用の検討や製造部門への浸透、仕入れ先の説明も現場にお願いしました。結果、使ってもらえないという問題は起きませんでした」と齊藤氏は振り返る。

生産本部の仕様変更管理を激変させたCUBIC

 CUBICは、仕入れ先・担当者のマスタ、仕様変更指示アプリ、製造資料配布アプリを複数のプラグインとあわせて構築。仕様変更と配布先をテーブルに登録すると、kintoneプラグインのATTAazoo(JBCC)で製造資料配布アプリに一括転送。ここでの台帳は既存のExcelをベースとしているが、テーブル操作プラグイン(Crena)で列を固定して、入力処理や視認性を向上させているという。

 仕様変更が配布アプリに転送されると、kMailer(トヨクモ)を使って、指定した配布先に送信される。仕入れ先・工場は送信後に閲覧可能になり、確認事項や回答はFormBridge(トヨクモ)経由で登録。受領状況や適用状態も自動的に更新され、リアルタイムに確認できる。機能拡張を踏まえ、トップ画面にはマニュアルや配付資料の一覧、仕入先向けの操作マニュアルも現場である生産本部がいつでも差替えれるように、マニュアル管理アプリを用意し、閲覧をkViewer(トヨクモ)で制御しているという。

CUBICのシステム構成

 CUBICの導入効果は大きかった。仕入先からの回答がFormBridgeで入力されると、受領日や実施状況がkintoneのアプリに自動で登録されるので、CUBICでリアルタイムに確認できるようになった。仕様変更資料の作成や回覧、台帳への入力、押印、ファイリングなどの煩雑な業務が一気になくなり、年間で約7000枚の紙削減にもつながったという。

CUBICの導入効果は絶大だった

 現場からも「担当者に聞かなくても、進捗が把握できるようになった」「1週間かかっていた紙の受領がなくなり、タイムリーに情報共有できるようになった」「紙運用がなくなり、大幅な業務削減になった」などの喜びの声があがった。「『紙様』はいませんでした」と齊藤氏と語る。

現場からのありがたい言葉もいただけた

 ちょっとした工夫が大幅な効果につながった。たとえば、「受領日時を一覧に表示してほしい」というリクエストに対応したところ、ISO文書への転記が容易になったという。「事務の方って声を上げにくいんだと。でも現場で運用できるkintoneだから、声を上げることができたんだと思いました」と齊藤氏は語る。

そしてバトンは渡された

 生産本部でのkintone利用度は50%から85%に上昇し、月に10日ログインしたユーザーも17%から49%に向上した。今後は4M変動管理のCUBICでの運用開始を予定しており、災害時における仕入れ先の被害ヒアリングにも利用される予定。CUBICのアプリを参考に自らアプリを作るメンバーも現れ、設定が大変な計算式プラグインも自ら行なったという。

ログインユーザーは一気に増加。自らkintoneでアプリを作るメンバーも現れた

 もちろん、齊藤氏もこのkintoneプロジェクトで影響を受けた一人だ。「私はもともと発明者や開発者の力になりたかった。でも、こうして組織や人の動く力になることができ、本当にうれしく思いました」と語る。

 さてここまでの話ででてきた重要人物である上司K。「なぜいっしょに登壇しないのか?」と思うが、実は昨年秋に退職してしまったという。今までkintoneの管理を一切やってきた上司Kが不在になったが、ここまで実績を積んできたkintoneを辞めるわけにはいかない。跡継ぎとなった齊藤氏は今も奮闘している。

 先日はミューチュアル・グロースを会社に招いて、生産本部のメンバーと引き合わせた。そこ出てきた「他社ではこうした案件やっています」というプロの一言を発端に、今は新たな構築案件がスタートしているとのこと。また、齊藤氏が新たなkintoneの管理者となったことをアピールする意味で、kintone内に誰でも聞けるスペースを開設した。

ミューチュアル・グロースが来社し、新しい構築案件もスタート

 アプリが増えてごちゃごちゃしていたポータルも、「kintoneポータルデザイナー」を用いてタブ化。アイコンもなくしてシンプルにした。最近は新たに追加されたポータル管理機能を試しているという。

 過去のkintone hiveを見てきた齊藤氏は「私がそもそもこんなところに立って話してよいのか?は悩んだ」と語る。「でも、今ここに立っているのは、有志の方々が地道な改善活動を行なってくれたからだと改めて思っています。みなさんも、今やっていることがものすごいコトではなくても、やり続けてほしいです。私自身もやり続けたいと思います」と会場にメッセージ。

 実は齊藤さんが登壇するのを決めたのは、上司Kが「齊藤さんがしたら、絶対見にいくよ」と言ってくれたから。「来てくださってありがとうございました!」と会場の上司Kへの感謝の言葉で、齊藤氏は登壇を終えた。

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