業務を変えるkintoneユーザー事例 第284回
「負のスパイラル」を解消した新コスモス電機のkintone導入
横長Excelとメールだらけの仕様変更 kintoneで「紙様」はいなくなった
2025年09月12日 09時00分更新
仕様変更のたびに発生する煩雑な事務処理と膨大な書類管理。ミスが発生すると、チェック業務が増え、また業務が肥大化。そんな負のスパイラルに陥っていたガス警報器メーカーの業務を変えたのが、kintoneの仕様変更確認アプリ。名付けて「CUBIC(キュービック)」。
kintone hive 2025 osakaの2番手として登壇した新コスモス電機の齊藤梓氏は、社内異動で来た経営企画室事業計画部で進めた生産本部のkintone導入を披露。あくまで主体を現場に置き、パートナーとともに作り上げたアプリが変えたのは、業務だけではなかった。
知財関係から経営企画室へ異動 上司Kから「kintoneやってね」
「改善したのは“業務”だけじゃない!~『kintone』で繋いでいく人と人との関係~」というタイトルで登壇したのは、新コスモス電機 経営企画室事業計画部事業計画グループの齊藤梓氏になる。
新コスモス電機は「世界中のガス事故をなくす」をミッションに、ガス警報器・ガス検知器の開発・製造・販売・メンテナンスを手がけている。今年で設立65周年で、大阪市淀川区に本社をかまえる。同社のガス警報器は家庭や工場などに設置されているが、新コスモス電機の製品は万博会場や、水素を燃料とするトヨタ自動車の「MIRAI」にも搭載されている。
そんな新コスモス電機に所属する齊藤氏は北海道出身で、「応援すること」と「勉強すること」が好き。もともと発明者や科学者になりたかったが、「手先が不器用すぎて」断念。その代わり、発明者の助けになる知的財産の仕事に就き、転職しながら14年の社会人人生を送ってきた。
しかし、2023年1月、齊藤氏は職場の人間関係により心身のバランスを崩してしまい、「会社人生崖っぷち」という状態に陥った。転職する覚悟までしたが、今の経営企画室事業計画部に異動となった。異動先で「なんでもやります!」と訴えた齊藤氏。上司Kから言われたのが、「kintoneやってね」という依頼だった。ここから齊藤氏と上司K、kintoneとの関係が始まる。
社内にDX部門があるのに経営企画室でkintoneに取り組む理由
社内にDX部門があるのに、なぜ経営企画室事業計画部がkintoneをやるのか? 齊藤氏は疑問に感じたという。
実は、新コスモス電機はなんとβ版時代の2011年10月からkintoneを利用していたという。上司Kが営業だった頃にSFA(営業支援システム)を探していたが、どのシステムもしっくり来なかったところに、kintoneに出会ったのがきっかけだった。
以降、営業がメインに利用していたkintoneだったが、2018年10月に営業支援システムは別システムに移行してしまった。当然、kintoneは解約の憂き目に遭うところだったが、上司Kはkintone利用をあきらめず、有志をつのってkintoneを再始動させたという。
結果、2023年にはkintoneのユーザー数も約350名に膨らんだ。単体の社員数で約450名なので、かなりの割合だ。しかし、「勝手にアプリ作れるkintoneってどうなの?」とDX部門が懸念を持っていたことで、管理部門が定まらなかった。こうして社内が活用派と反対派・無関心派に分かれた結果、今の上司が管理するという状態が長く続き、kintoneの管理自体が属人化してしまうことになった。こんな中、異動してきたのが齊藤氏だ。
今回取り組んだのは、「生産本部において、外部の仕入れ先や工場との情報共有環境を構築せよ!」というプロジェクトだった。新コスモス電機はガス警報器に関しては、工場を持っておらず、技術開発本部の依頼に基づき、生産本部が外部の仕入れ先や工場と連携して生産するという流れになる。これまで生産本部から仕入れ先・工場とのやりとりはすべてメールで行なわれていたが、これをkintone化するのが、齊藤氏が課されたミッションだった。
「首の皮一枚つながったコスモス人生だったので、とにかく必死こいて勉強しました」と齊藤氏。業務時間でkintoneの勉強は大変だったので、家に帰っても、料理やストレッチをしながら動画を見続けた。動画でスキルやノウハウを積んで、会社でアプリを試行錯誤する毎日。この結果、kintoneならいろいろな業務改善ができそうと考えた齊藤氏は、いよいよ生産本部にヒアリングすることになる。
煩雑な管理台帳、個人名フォルダ、そして「紙様」信仰
しかし、生産本部で齊藤氏が見たのは、3つの衝撃的な事実だった。
1つ目は、「管理が煩雑な管理台帳」だ。当時、生産本部では仕様変更の管理にExcelを使っていたが、これがとにかく横長。しかも、100社以上の仕入れ先ごとにExcelファイルが存在していたという。仕様変更も年間600件とかなり多く、そのたびにメールでExcelの行を指定する必要がある。当然、最新版を管理するのは大変で、ccされる上司への大量のメールは当然未読となってしまう。
2つ目は、「属人化の象徴『個人名フォルダ』」だ。仕入れ先や工場からの問い合わせに対し、担当者がいない場合は、メールを探す。それでも見当たらない場合は、生産本部の共有フォルダを探すわけだが、歴代の猛者たちの名前がフォルダ名にずらりと並んでいたという。「あの人のフォルダを見れば、なにかわかるかもしれない」(齊藤氏)と、フォルダで最新情報を探す様は、まるで推理ゲーム。とにかく検索に時間がかかるというのが課題だった。
3つ目は、「『紙様』信仰」だ。「結局、メールを送っても、仕入れ先がきちんと見てくれたか、不安になるんです。だから、紙で仕入れ先の押印をもらっています。社内の人もちゃんと見たか不安なので、全員押印をもらっています」とのこと。もはや社内の人間ですら信用できない状況。しかも、押印された書類を閉じるフォルダは、なにか問題がない限りは閲覧されない。
紙なので、書類作成、配布受領、実施状況の報告、仕入れ先の管理、部内管理まで当然ながら事務処理も煩雑。しかし、忙しすぎるため、システム化の時間が取れない。「このやり方が一番いいんです!」と現場はやり方を変えないため、ミスが起こる。ミスが起こると、ミスをなくすための工数が増え、さらに忙しくなる。まさに「負のスパイラル」だ。

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