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技術課題から組織の壁まで解消できる“敷居の低い”オンラインコミュニティ

kintoneユーザーの“リアルな知恵”が詰まった「キンコミ」活用術

2025年09月09日 11時00分更新

文● 柳谷智宣 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp 写真●サイボウズ

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 kintoneユーザー向けの公式オンラインコミュニティである「キンコミ」。ヘルプやサポートデスクではすくい上げることが難しい課題を、ユーザーの“生きた経験”に基づいて解決へと導く場だ。

 kintoneのユーザー事例イベントである「kintone hive fukuoka」では、このキンコミについてのセッション「一人で悩まんでよかよ!キンコミがついとーけん」が開催された。

 キンコミのユーザー代表として登壇したのは、北九州市役所の井上望氏だ。kintoneの活用意欲は高いものの、身近に相談相手がおらず、足踏みしているユーザーは少なくない。こうしたユーザーの羅針盤となるキンコミについて、具体的な活用例を交えて紹介された。

kintone hiveの投票集計時間を使ってスペシャルセッションが開催された

kintoneコミュニティの中でも“敷居の低い”キンコミ

 まずは、キンコミヘビーユーザーの井上氏自身の活用例が披露された。

 井上氏がキンコミの世界に足を踏み入れたのは、2022年のkintone hive fukuokaがきっかけだった。会場では、様々なkintoneのコミュニティが紹介されていたが、キンコミの“敷居の低さ”に惹かれたという。「コミュニティによっては、リアルで参加したり、ある程度の知識を求められたりと飛び込みにくい。キンコミはいわゆる掲示板なので、気軽に相談がしやすい」(井上氏)

 なお井上氏は、翌年のkintone hive fukuokaにて、登壇者として事例をプレゼン。九州・沖縄地区のファイナリストとして本戦のkintone AWARDにも出場した(参考記事:コロナ事務をkintoneで受け止めた北九州市役所 応病与薬で40万枚ペーパーレス化のモリビ)。

kintone AWARD 2023 ファイナリストとなった北九州市役所 井上望氏

 井上氏は、主に通勤電車や昼休みの時間に、スマートフォンでキンコミをチェックする。気になる投稿を見つけると、少しのリサーチを加えて返信するなど、隙間時間を活かしてコミュニティに参加している。投稿に回答するのは、困っている人を助けたいという想いに加え、自分自身の勉強にもつながるからだ。他者の課題解決に向き合うことが、知識やスキルを向上させる機会になるという。

 初めてキンコミで相談するユーザーの多くは、何から話せばよいか分からない。その場合、詳しい情報を引き出す必要があるが、「課題の輪郭を明確にする」ことを意識しているという。不足している情報を丁寧に補うことで、他のユーザーが回答しやすい議論の土台が整う。

3つの相談事例にみる“答えが得られる”だけじゃないキンコミの魅力

 続いは、3つの“イチ推し”の相談事例を通じて、コミュニティの魅力が語られた。

 ひとつ目は、「アプリのデータ同期」に関する技術的な悩みだ。取引先管理アプリと担当者管理アプリを連携させ、一方のアプリの情報をから、もう一方のアプリのデータを絞り込みたいという、kintoneの運用においてはあるあるな課題だ。この問いかけに対して、様々な角度からの回答が寄せられた。

 あるユーザーからは、プラグインによる解決策が紹介された。しかも、2人のユーザーがそれぞれ異なるプラグインを勧めていたのが面白い。また、基本機能をベースに運用方法を見直してはどうか、とコメントしたユーザーもいた。ツールで解決する道と、運用でカバーする道の両方が示されたのは、多様な経験を持つユーザーが集うキンコミならではだ。

アプリBでアプリAにしかない項目で情報を絞り込みたいという相談

 この投稿には、井上氏自身もコメントを寄せた。普段はカスタマイズによるアドバイスが多いとのことだが、この時はあえて基本機能である「関連レコード」による解決策を提案。そもそもデータを同期させることなく目的を達成できるのではないか、という方向性を示した。

 最終的に、相談者は井上氏の提案した方法で課題を解決し、いずれはデータの同期も必要になることから、他の意見も参考なったとお礼を述べた。目先の課題解決にとどまらず、多様な選択肢も知識として蓄え、次のステップにつなげられるのが素晴らしい。

井上氏のアドバイスで無事解決。他のユーザーの意見も参考になったようだ

 2つ目は、“共感の輪”が広がるキンコミらしい投稿だ。「忙しい他部署でシステムを浸透させるコツがあれば教えて欲しい」という、kintone推進担当者の誰もが一度は直面するであろう悩みである。

 まず寄せられたのは「私の同じ状況です」「よく分かります」という共感の声だ。同じ痛みを分かち合う仲間がいるという事実は、孤独な戦いを強いられがちなkintone担当者にとって、何よりも心強い味方となる。

 そしてその共感の輪の中から、「私の場合はこうしました」「こんな方法を試しています」といった、実体験に基づくアドバイスが共有され始めた。相談者は他のユーザーとの壁打ちのようなやり取りを通して、「キーマンを巻き込む」という新たな気づきを試すことにした。

 この相談者は、その後の現状報告も投稿しており、議論の行方を見守っていたユーザーにとっても貴重なケーススタディとなっている。

アドバイスを貰ったら報告をすると恩返しにもつながる

 3つ目は、セッションのタイトルにもある「一人で悩まんでよか!」な事例だ。相談者は、上司から「kintoneでDX推進を」と指示を受け、業務効率化のアプリを作り、マニュアルまで用意した。しかし、上司はまともに目を通さず、現場の大多数は無関心。「努力が報われない」という、やり場のないモヤモヤを吐露した投稿だった。この魂の叫びに対して、ここでも多くの共感の声が寄せられた。

 キンコミの懐の深さは、こうした愚痴や不満をただ受け止めるだけでなく、そこから建設的な議論へと昇華させていく点にある。この投稿にも「アプリ作成時に意識すること」など、新たなアイデアが提案されていた。

 面白かったのが、「自分自身、マニュアルを読まずにまず画面を触ってみるタイプ」というユーザーからのコメントだ。そのユーザーは、マニュアルを読まない人にも伝わるよう、kintoneのコメント機能を活用して操作方法を案内しているという。使う側の視点に立ったアドバイスは、相談者にとっても目から鱗が落ちたようで、「その視点は盲点でした。さっそく取り入れてみようと思います」という前向きな返信がなされた。

 井上氏はあえて一歩引いた、長期的な視点から回答した。業務改善における周囲の無理解は、一度解決してもまた形を変えて現れる“普遍的な課題”であると捉え、「ステークホルダーをうまくマネジメントして、お互いが幸せになるような形で提案できればいいですね」とアドバイスした。

 数々のコメントを受けて、相談者の心境も大きく変化。技術的な課題解決の場であると同時に、モチベーションを維持し、心を回復させるためのセーフティネットとしても、キンコミは機能している。

kintone活用あるある課題なだけに多くの人から様々な回答が寄せられた

 3つの事例紹介を受け、サイボウズの青山楓氏は、キンコミが「利用条件や利用環境、救済手段も異なるテーマで、ユーザーそれぞれの経験を基にやり取りされる場」であることを強調した。

サイボウズ カスタマー本部 キンコミ運営事務局 青山楓氏

 井上氏は、「キンコミは初心者でも気軽に質問できます。回答する側も、経験してないことについて考える機会を得られ、将来のためになる。まずは、キンコミのページを開いて欲しいです」と締めくくった。

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