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業務を変えるkintoneユーザー事例 第283回

一度は絶望の淵に沈んだブライダル企業の“再生への道筋”

コロナ禍でも離れなかった仲間のために “500個のkintoneアプリ”で現場を変えた社長の覚悟

2025年09月05日 09時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 「コロナで会社を辞めないでよかった」と社員に言ってもらえるよう会社を強くしたい ―― そう語ったのは、ブライダル事業を手掛けるイヤタカの大野社長だ。新型コロナウイルスの影響により、同社は存続の危機に直面した。長く暗いトンネルを抜ける道しるべとなったのは、会社に残り続けた社員とkintoneだったという。

 サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive sendai」を開催。ラストに登壇したイヤタカの大野恒平氏が語ったのは、社長自らが現場の課題を解決する500個以上のアプリを作り、コロナ禍で変革を進めた同社の再生物語だ。

イヤタカ 代表取締役社長 大野恒平氏

仕事のほとんどがキャンセル、3割の社員が退職 ―― 新型コロナで日常は一変した

 秋田駅前の彌高(いやたか)神社を母体にブライダル事業を手掛けるイヤタカ。時代の流れと共に多角化を図り、レストランや介護、珈琲焙煎などの事業も展開し、ウェブ制作の子会社も有する。

 登壇した大野氏は、東京出身で監査法人に9年勤務。跡継ぎに困っていた義理の父を助けるべく秋田に移住して、2018年にイヤタカの社長を承継した。

 大野氏は冒頭、「我々が生きる現代、環境は刻々と変化して様々な課題に直面する」と語る。同氏が引っ越すきっかけとなった「事業承継問題」、東北地方の大きな課題である「人口減少問題」、イヤタカも様々な問題と向き合ってきたが、過去最大・最悪の局面が訪れる。新型コロナウイルスの感染拡大だ。一瞬にして仕事がなくなり「日常が一変した」と大野氏。

 結婚式や宴会のほとんどがキャンセルされ、売上は激減。当時100名を越えていた常勤社員の約3割が会社を離れていった。

イヤタカの過去最大・最悪の局面となった「新型コロナウイルス」

 イヤタカの理念は「人と人が出会う集いの場を通じ、笑顔と満足を生み出す」ことだ。しかし、コロナ禍では“人と人が集えないのが日常”であり、その理念は根本から揺らいだ。社長になったばかりの大野氏も、先の見えない状況に心が折れそうになったという。

 しかし、どん底のイヤタカと大野氏を支えたのは、会社に残った社員だった。彼らも間違いなく不安を抱えていたが、「社長についていきます」「指示をください」と声をかけてくれた。そして、「毎日消毒しましょう」「もっと安全性をアピールしましょう」と、前に進む意思と行動を示してくれた。

残った社員は決して後ろを向かなかった

 「私が皆を守らなきゃいけない」 ―― そう決意した大野氏は、必ずコロナ乗り越え“強い会社にする”というリーダーとしての覚悟を固めた。

3つの抜本的な改革でコロナ禍をチャンスに

 苦境から脱出するために、大野氏が活路を見出したのがkintoneである。2020年に同社はワークフローシステムでとして「サイボウズ Office」を導入。その時kintoneを知り、「こんなに自由にできるのか」と衝撃を受けたという。

 その後、テスト期間を経て、2022年7月にkintoneを導入し、再出発の準備が整った。ここからは、kintoneによる大野氏の3つの挑戦を紹介する。

 ひとつ目は「業務改善」だ。

 コロナ禍の中、大野氏は「もっと新しいことに挑戦したい」と思うも、社員が減り、休業もあったことで現場は手一杯な状態。しかし、取引が減った今こそ、業務を抜本的に変えるチャンスだった。そこで、大野氏が主体となり業務改善に乗り出した。

 これまでのイヤタカにおける業務のIT化は、「PDCAサイクル」に当てはめると、ブライダル事業に特化したの基幹システムによる「Do」が中心。「Plan」や「Check」に関わる業務管理の資料はほぼ手作業で作成されており、マネージャーたちの負担が大きかった。

 そこで大野氏は、基幹システム・会計システム・人事労務システムをkintoneで構築し、他アプリとはプラグインの「krewData」で連結させた。これにより、役員データや月次部門別PL、KPI管理などの帳票は自動作成され、マネージャーたちは資料づくりから解放された。「Do」の業務においても、若手社員が担当していた「商談来館予定表」「消費者アンケート」「社員出勤簿」といったデータ化されていなかった業務を次々とkintone化していった。

基幹システム・会計システム・人事労務システムをkintoneで構築

 挑戦の2つ目は、「事業管理の網羅性」の確保だ。

 多角化を進めていたイヤタカ。しかし、メインのブライダル事業以外は、フィットする汎用のシステムを見つけられずにいた。そこで、大野氏は、グループ全体の業務を可視化する“もうひとつの基幹システム”をkintone上に構築した。

 組織図とリンクする形でポータルとスペースを配置して、その中で各事業のkintoneアプリを作成。例えば、珈琲豆焙煎事業の「ストック情報アプリ」では、最新の珈琲豆や焙煎豆の在庫数が把握できる。介護事業の「介護日報アプリ」では、日ごとの利用者数や稼働率を記録でき、ウェブ制作の子会社では専用スペースで、案件ごとに誰がどれくらい作業しているかを可視化している。

 「グループ全体のほぼすべての業務を見える化できた。私の迅速な意思決定にもつながり、各事業の強化にもつながる。ベースとなるシステムができたことで、社員の帰属意識も向上した」(大野氏)

組織図とリンクしたポータルとスペース

 挑戦の3つ目は、「顧客満足度の向上」だ。

 「Webフォーム」や「Web注文」は顧客にとって便利であることは理解していたものの、慣れや予算の制約から導入できていなかった。それをkintoneで解決した。

 例えば、プラグインの「FormBridge」で母の日の注文フォームを作成し、顧客の利便性が高めつつ、社員の注文登録の作業も軽減した。インボイス制度で事業者番号記載の領収書を希望する宴会幹事が増える中、プラグインの「kViewer」で幹事自身が領収書を準備できる仕組みも作っている。

顧客満足度と作業効率を向上させるkintoneでの仕組みづくり

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