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業務を変えるkintoneユーザー事例 第282回

広島の街を明るくするために進んだ「新化!深化!進化!」

先代の急死、火事、そしてコロナ禍 追い打ちだらけの焼き鳥屋はkintoneの日報で反撃に出る

2025年09月01日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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入力しやすさ最優先 串刺しの作業でのトラブルとストレス軽減へ

 ポータルで村井氏が工夫したのは、社長として「今日の一言」を書くこと。「インスタのストーリーといっしょで、1日経ったら消します。だから、社員は必ず読んでくれます」と村井氏。

 日報アプリはとにかく入力しやすさ最優先で改良を積み重ねた。kintoneのドロップダウン、ルックアップ、テーブルなどを入力項目に応じて最適化。たとえば、串の商品数が50アイテム以上あるため、ドロップダウンは使わず、すべて初期入力し、一覧を見えるようにした。

 この仕様でメリットが出たのはおもに仕込みの部分。炭焼雷では串指しの作業はほとんどパートが担当しており、内臓などの一部を社員が手がけている。「仕込んだ串を3店舗に分けて入力できるようになったので、数が足りない、入れ違っているといったトラブルにも即座に対応できるようになり、現場でのストレスも減った」(嵯峨氏)という。

キャピタルコーポレション 嵯峨 海里氏

 日報アプリは入力のしやすさを優先し、データベースとしての機能がなかったため、別途データベースアプリを構築した。データベースを使えば、必要なデータを抽出し、集計できる。

 日報アプリは、双方向で社員の投稿に対して、社長が直接コメントを書く。また、クリック1つで簡単に従来と同じ形式に帳票に出力できるため、社員も違和感なくkintoneに移行できた。さらに需要予測を読み込むと、日報に反映される。「つねに数字を意識することができるようになったかなと思います」と村井氏は語る。

社員が書いた日報のコメントは社長が書く

来店記録が身近になり、お客さまをより観察するように

 日報アプリは3店舗の顧客情報ともひも付いている。日報から顧客情報を入力でき、クレームが来たら社長に直接メッセージが飛ぶという。

 この来店記録が現場ではもっとも大きな変化だった。「たとえば、金髪であるとか、髭が生えている、一人で来る、ボトルがキープされているなどの情報を簡単に入力できるようになり、お客さまをよく観察するようになりました。結果、常連さんとの会話が圧倒的に増えました」と嵯峨氏。

 3店舗間で社員が移動するときも、常連の情報が共有されているので、社員の負担も減った。「よくも悪くもアナログなイメージのあった飲食業ですが、ここまでデジタルのシナジーがあるのかと現場も驚きました。まさに日報はスーパーサイヤ人に進化しようとしています」と嵯峨氏はコメントした。

日報はパワーアップ!

 嵯峨氏は「わしらが感じたkintoneのいいところ」を説明する。まず売り上げ速報グラフができたことで、販促を意識するようになり、客数増につながった。また、仕込み一覧アプリができたことで、串の奪い合いがなくなり、ギスギスが減った。そして顧客管理アプリでは、お客さまを観察することで、こちらも客単価の増加につながった。スマホで入力と確認ができるため、スキマ時間や自宅でも気軽に利用できる。この手軽さも現場にとってはありがたいという。

コロナ禍もお店の明かりを灯し続けた これからも広島の街を元気にする

 日報アプリを起点にしたキャピタルコーポレションのkintone導入。昨年の結果としては廃棄ロスは16%減、人件費の20%減、人時売り上げ高が4800円から6000円になり、客単価も上昇したという。今まで1日1~2時間かかっていた経理部門の作業がワンクリックになり、kintoneへの投資は1年で回収できるという。

 導入前は勘と経験に頼った発注や、過大な人材配置が利益を大きく圧迫していた。しかし、kintoneの導入後は業務効率化や廃棄ロスの削減、人件費の削減が実現された。さらに「ノーベル起案」という制度を設けることで、kintoneから日常業務の課題解決を提案も容易になった。「kintoneを辞めたいという提案もできるんです。やめたいことを言えるのは、我が社の心理的安全性に寄与していると思っています」と村井氏は語る。とにかく「言われたこと受け止め、言ってもいい」という雰囲気を出すように心がけているという。

導入前と後の変化

 次のキャピタルコーポレションは「進化」というキーワードでまとめた。「炭焼雷はコロナの中でもお店の明かりを灯し続けました。街を元気にするのは私たちじゃないですか。店の明かりを見て元気になったお客さまもたくさんいらっしゃいました」と村井氏。ノーベル起案や日報で重なっていくのは成長の記録。「この小さな成長の繰り返しで、いつしか組織が変わっていくと私は信じています」と村井氏は語る。

 目指すのは「考える組織」。kintoneに記録された情報を積み重ねることで、顧客のニーズを汲み取り、さらなるブランディングにつながっていくと村井氏。「人材育成、ブランディング、デジタル。この三位一体で炭焼雷は次の出店につなげていきたい。私たちは、広島の街を元気にする、そんな存在でありたいと思っています」(村井氏)。

 まとめとして、村井氏は、「火事になったあの日、社長になったあの日。私は正直言って、社員と向き合っていませんでした。でも、kintoneを作るのにあたって、社員がどうやったら楽になるだろうと考えてことで、社員と向き合い、お客さまと向き合えるようなったと思っています」と語る。

 そして、嵯峨氏は「まさかITと飲食業のシナジーがこんなにあると思っていませんでした。kintoneは現場に強いアプリ。われわれはこんなアプリができないかと提案くらいしかできないけど、社長や会社の事務とつながるツールになった。もっと小さい会社や他の飲食業でも使えると思う」と締めた。アフタートークで出た炭焼雷のオススメは「ズッキーニ」(嵯峨氏)だった。

 そして、kintone hive 2025 hiroshimaの最後には、参加者の投票を経て、中国・四国地区の代表が発表された。6組の登壇者の中で最も支持を集めたのは……ニコニコ観光の漆川俊彦氏だ(関連記事:給与20%増で家や子供が現実に 平均年齢64歳だったバス・タクシー会社の成長話は夢しかなかった)。両氏は、幕張メッセで開催されるCybozu Daysのkintone AWARDに出場予定だ。

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