業務を変えるkintoneユーザー事例 第282回
広島の街を明るくするために進んだ「新化!深化!進化!」
先代の急死、火事、そしてコロナ禍 追い打ちだらけの焼き鳥屋はkintoneの日報で反撃に出る
2025年09月01日 09時00分更新
先代の急死で主婦から焼き鳥チェーンの社長になったものの、本社と店舗が火災で焼失。自信喪失した社長だったが、後ろには社員たちがいた。さらに襲いかかるコロナ禍という災厄を経て、従業員の働きやすい環境を構築するために選んだのはkintoneだった。
広島で開催されたkintone hive 2025 hiroshimaの事例登壇でトリを飾ったのは、焼き鳥屋「炭焼雷」を運営するキャピタルコーポレションの二人。「新化!深化!進化!」というタイトルで焼き鳥屋におけるkintone導入インパクトについて語ってくれた。
店舗の火災で経営者のスイッチが入る そしてコロナ禍でも前向きに明るく
キャピタルコーポレションの登壇は社長である村井 由香氏と、従業員の嵯峨 海里氏。社長の村井氏は経営者の観点で、バイトから数えて7年目の嵯峨氏は従業員の観点で、kintoneについて語ってくれた。
キャピタルコーポレションは今年47年目。社名とイメージが違うが、広島市内で「炭焼雷」という焼き鳥屋を3店舗運営しており、現在社員は12名。アルバイト・パートを集めると30名程度という会社の規模となる。
村井氏は急死した先代のお父さんの跡を受け、主婦から2代目の社長になっている。「そんな経緯もあり、社長になった当初は大変だった。「本当になにをしてよいのかわかりませんでした。現場をオロオロ、ウロウロしているだけで、ビジョンを描けない社長に見切りをつけて、辞めていく社員もいました」と村井氏は振り返る。
追い打ちをかけるように今から15年前に本社と店舗が火災で焼失。焼け跡に立った村井氏は、「もう自分には社長は無理だ」と感じた。しかし、振り返ると、これまでついてきてくれた社員がいた。「社員たちを見ながら、この人たちの人生を私は背負っているんだと思いました。その瞬間、経営者のスイッチが入ったんです」と村井氏は語る。
経営者のスイッチが入った村井氏が決めたのは、「プレイングマネージャーにならない」「従業員が働きやすい環境を作る」の2つ。もちろん、そんなに簡単ではない。現状維持を求める抵抗勢力もおり、また社員が辞めたという。
さらに追い打ちをかけるように、コロナ禍がやってきた。「売上90%ダウンの月もありました。でも、頭の中で、これはチャンスだと思いました」と村井氏。経営計画書を破棄し、生き残るための7カ条を作って社員に提示した。「会社を愛する気持ちを持つ」「全員で営業する」「新商品開発に全力をつくす」「原価を徹底的に下げる」「良好な人間関係を作る」、そして「前向きに笑顔で明るくチャレンジ」の7カ条だ。
村井氏は、「『前向きに笑顔で明るくチャレンジ』が現状維持バイアスを打ち壊すキーワードになると思ったんです。ここから我が社のkintone導入が始まります」とコメント。「新化」「深化」そして「進化」の3つを掲げてkintoneを導入したことで、追い打ちだらけだった焼き鳥屋の反撃が始まる。
従業員の日報がすべての中心に 社長が作った設計図とは?
村井氏が目指した「新化」は「見た目の変化を最小限、仕組みの変化を最大限」を重視し、新しい組織のあり方を目指した。
ツールとして選んだkintoneは以前、試用した経験があった。緊急事態宣言の夜、手持ち無沙汰だった村井氏は、kintoneに申し込んだのだ。ただ、試用した時間は短かった。「だって誰でも簡単に作れるってCMで言ってるじゃないですか。管理画面を見ました。レコード番号って、なにそれ。即刻退会しました」に会場も大受けだ。
「私にはkintoneは無理」と感じた村井氏だが、kintoneはずっと気にはなっていたという。2年前、友人のFacebookでシェアされていたkintone hiveの記事には「伴走者」というワードが踊っていた。「もしかしたらうちの会社も伴走者がいれば、kintoneができるかもしれない」。そう考えた村井氏は、広島で業務改善を手がけるプラス・ココという伴走者を見つけることができたという。
飲食業はサービス業と思われがちだが、実はかなり製造業に近いという。オペレーションは細かく、マニュアルはなく、働く人の感覚頼り。「このアナログな部分が社員が疲弊する原因だと思いました。そこでプラス・ココに相談する前に、設計図を書きました」とのことで、中心に据えたのは従業員の日報。しかも見た目を変えず、仕組みを最大限変えることにこだわった。
村井氏が作った設計書は、日報を中心に、上部に社員の育成、右は需要予測による社員の配置と発注、左は顧客満足度の向上、下部には業務プロセスの改善が記載されている、この設計図を持ってプラス・ココの門を叩いたという。
「わしが日報を書くことは二度とない」 現場はkintone導入で混乱
続く「深化」はなにを選び、何を捨てるかの取捨選択がポイントだった。ここで重要なのは、「社員に難しいことをさせたくなかった」という想いだ。これまでと同じレイアウトを維持しつつ、経営者が積極的に関わり、スピード感のある改革を推し進めようというのが村井氏の考えだった。
今までキャピタルコーポレションは、いろいろなところに、いろんな情報が散乱していた。日報はExcel、顧客は紙のメモや頭の中、データはExcelやAccess、各種の管理実績はExcelやWordなど。これらをすべてkintoneをすべてに集約しようと考えた村井氏。こうしてできたのが、日報アプリを起点に、データベース、グラフ集計、顧客来店管理、クレーム管理などさまざまなアプリとつながるシステムだ。
「kintoneって最初に聞いたときはどうでしたか?」と、以降は現場で働く嵯峨氏との掛け合いになる。入社したときから日報をExcelに入力してきた嵯峨氏。そんな中、社長から下りてきたkintone。「キントーンと言ってもドラゴンボールでしか聞いたことない。どうやって打てばいいの?」と混乱する。若い嵯峨氏ならともかく、Excelやタブレットでの入力に苦労する先輩社員はなおさら混乱する。「わしが日報を書くことは二度とない」という声も聞いたという。
とはいえ、日報の活用が進んでなかったのも事実だった。同社の日報は紙からExcelへと変遷を遂げているのだが、Excel日報も印刷されて、紙の日報とともに倉庫に保存されているだけだった。そして、kintoneの日報が新たに導入。「従来通りのレイアウトで入力でき、それほど現場の負担にはならなかった。でも、仕込みの準備や来店記録などExcelのときにはなかったボタンが増えており、僕たちは新しい機能につまづくことになってしまいました」と嵯峨氏は振り返る。
「社員はつまづくんです。そこでポータルで対応しました」と村井氏。そこで社員がよく使うアプリはポータルに配置。なにより社員の興味を惹いたのは、3店舗の売り上げ速報グラフだった。「3店舗の売り上げ競争が僕たち社員の大きなモチベーションの1つになりました」と嵯峨氏は語る。店舗ごとに新商品の販促などを強化したことで、客単価が4800円から5000円に上がった。

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