業務を変えるkintoneユーザー事例 第281回
広島の印刷会社シンセイアートが挑んだ伴走支援を活用した内製化
「ノーコードだったらできるんじゃない?」 社長の一言でkintoneは社内の機械好きに託された
2025年08月28日 09時00分更新
「ノーコードだったらできるんじゃない?」と社長にアプリ開発を依頼された機械好きの担当者。不安な中、チャレンジしたkintoneがパズルみたいで楽しかった。そんなkintoneでのチャレンジをkintone hive 2025 hiroshimaで語ってくれたのが、広島県の印刷会社シンセイアートの2人だ。
運用までに超えなければならない4つの課題を伴走支援とチャレンジ精神で乗り切り、今や新規事業までkintoneアプリで切り盛りしているシンセイアート。基幹システムのリプレースから端を発したkintone成功への道を追う。
基幹システムの保守切れから始まったkintoneプロジェクト
kintone hive 2025 hiroshimaもいよいよ終盤。5番手として登壇したのは広島県庄原市に本社をかまえる印刷会社シンセイアートの大倉基弘氏と段畠大輝氏の2人。入社28年目の大倉氏は設備機材の導入検討と管理を担当し、今回のkintone導入プロジェクトのリーダーを務める。一方、入社前はプロミュージシャンとして活躍していたという企画部の段畠氏は入社3年目で、ユーザーとしてkintoneを利用する立場だ。
シンセイアートは今年で創業35年目を迎え、社長は2代目で34歳と若い。ただ、平均年齢は48歳と比較的ベテランが多いのが特徴。一般のオフセット印刷のほか、地域や市町村の広報誌、冊子、チラシ、ポスター、名刺、封筒、シールなどの制作を手がける。「デザインから印刷まで社内で一貫生産できるのが特徴」とのことで、今年のスローガンは「期待値を超える」。「今日もみなさんの期待値を超えられるようにがんばります」(段畠氏)
kintone導入のきっかけは、長年使ってきたオンプレ版の印刷会社向け基幹システムが2021年に保守終了を迎えたこと。新たなシステムとして業者から提案されたのがkintoneになる。柔軟な対応が可能で、クラウドサービスなのでデータ損失リスクが低い。初期投資が少なく、IT補助金の利用が可能で、経理システムである「奉行クラウド」との連携が可能な点も大きいメリットだった。
こうして4年前にkintoneを導入することになったのだが、当時の情報伝達は手書きや電話などの手段がメイン。「私は本当にkintoneで解決できるのか不安だった」(大倉氏)、「お客さまには最新技術を提供しておきながら、自分たちは超アナログな昭和のままだったんです」(段畠氏)。
とはいえ、「業者さんに任せておけば安心」と高をくくっていたが、多種多様な仕様があり、受注から印刷製本まで同社の業務フローは非常に複雑。フローチャートや仕事内容を文書化して業者に依頼したものの、なかなか伝わらない。「使えるようになるのはいつになるのやら」という不安の声が社内から上がってきたという。
「ノーコードだったらできるんじゃない?」 社長命令でkintoneにトライ
そんな中、社長から「機械好きの大倉さん、ノーコードだったら、できるんじゃない?」と内製化の提案があった。マウスやキーボードの操作は得意な大倉氏だが、プログラミングの経験はゼロ。「最初、えっ?と思いましたが、社長命令なのでやってみることにしました」と大倉氏は、業者の伴走支援を受けながら、自社での構築に踏む込むこととなった。
伴走支援をしてくれる業者とゲストスペースでやりとりしながらアプリを作り始めた大倉氏。「ゲストスペースは、メールや電話より使いやすいし、見やすかった。こうしてアプリを作っていくと、kintoneがなんだかパズルみたいで楽しくなってきました」とのこと。こうして生まれたのが、「作業指示書アプリ」だ。
作業指示書アプリは、営業部の入力を起点に、工場長や各部の責任者が追記することで、データベースが更新される。紙の種類や厚さなども自動入力され、納期も見える化。前日までに校了していない場合は、営業担当に通知が行くため、納期管理の課題も解消された。「特に過去の案件を容易に検索できるようになったのが大きかったです」と段畠氏は語る。
運用を始めるにあたって解決したかった4つの課題
アプリのプロトタイプはできた。ただ、現場で運用を始めるにあたっては4つの課題を解決する必要があった。1つ目の課題は「営業にkintoneを使える環境がなかったこと」だ。「当時、営業には個人専用のパソコンがなく、操作に不慣れな年配の方もいました」と段畠氏は語る。
これに関してはパソコンとChromebookを導入し、営業全体の講習会を実施。しかも、理解してもらうまで根気強く何度も実施した。「特に印象的だったのが66歳の営業マンです。最初はどのボタンを押したらよいかわからず、紙に書いた方が速いのではと言われましたが、今では『このボタンを押したらどうなる?』『ショートカットキーって便利じゃねえ』と自ら積極的に質問してくれるようになったんです」と段畠氏は振り返る。
さらに情報を取り出しやすいように営業用専用のスペースを作成。アイコンも工夫して、年配でもビジュアルでわかりやすいようにしたという。
2つ目の課題は作業指示書の運用だ。当時、作業指示書は4枚複写式の紙伝票を用いており、件数も月500~800件とかなりの数が飛び交っていた。これをkintone化したものの、「項目が約150箇所もあり、画面で探すのが難しかった」(大倉氏)という状態に陥った。こうなると、作業指示を見逃したり、ミスが発生する危険性が出てくる。
そこで、「無理せず1枚くらいは紙を残そう」という発想に転換。kintoneから必要な項目のみを紙に出力することで、用紙代を1/4に削減。さらに紙伝票とそっくりのフォームをPrintCreator(トヨクモ)で出力したことで、作業者からも好評を得るようになった。
3つ目の課題は印刷工程の管理。当時はExcelに入力し、小さなカードを印刷して工程を管理していたが、リアルタイム性に欠け、スケジュール管理が難しかった。そこで大倉氏は、kintoneの作業指示書をワンクリックで進捗アプリに登録できるよう設定。kintoneをスケジュールビューで見られるカレンダーPlus(ラジカルブリッジ)を使うことで、印刷予定を一覧できるようになった。
4つ目の課題は、作業指示書の二重入力。当時、工場長は工程管理用のExcelに、経理は基幹システムに、作業指示書の内容を二重入力していたが、kintoneと奉行クラウドをAPI連携させることで、ワンクリックでの入力が可能に。「経理作業の時間が60分から3分に短縮でき、二重入力の問題も解消しました」と大倉氏はアピールする。

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